頭上輪廻戦士アーサー

川口大介

文字の大きさ
上 下
23 / 41
第四章 【悪しき心】発動

しおりを挟む
《負の感情、悪しき心が、必ずしも悪しき力と化すとは限らぬ。例えば、自惚れによる自分自身への過大評価を、根性・努力でもって過大でなくそうとする行為。人、それを成長と呼ぶ……》
「そぉいうことだっ! 英雄たる僕は必ず、お姫様を護る! もう絶対、落ち込んだりなんかしない! てなわけで、いでよドロドロ――――――――ッド!」
 光の中から、黒く歪んだ禍々しい杖が出現した。ア―サ―はそれを手に取り、振り上げながら鏡メバンシ―に向かって突進していく。
 暗き情念の杖。【屈辱や憎悪から来る無限の向上心】を実体化した杖である。
「喰らえぇぇ悪者っ! 正義の必殺技を!」
 ドロドロッドの上端に、先程のア―サ―の拳と同じ炎の球が出現した。
 と同時に、その炎の球を、幾筋もの小さな稲妻が取り囲む。
「いくぞぉぉ! ビリビリメラメラボ――――――――ルっっ!」
 ア―サ―は両手で握ったドロドロッドを、勢いをつけて思いっきり大きく、右から左へと水平に薙ぎ払った。
 稲妻に包まれた炎の球が、ぶん! と放たれ一直線に、鏡メバンシ―に向かっていく。
「な、何っ⁉」
 稲妻と火炎。どんな系統の黒魔術でも、絶対に同時発生はしない二種類の力が、同時発生どころか融合して飛んできたのだ。
 こんなことを可能にする魔術など、この世に存在しないはず。鏡メバンシ―の前世すなわち前大戦、黒の覇王と白の女神との戦いの時にも、そんな術はどこにもなかった。人間も魔物も、誰も使っていなかった。
 存在するはずがない術――稲妻火炎球。
「な、な、何なのよコイツはああぁぁっ⁉」
 それが、鏡メバンシ―の最後の言葉。
 稲妻の毒蛇と火炎の狼に同時に喰らいつかれた鏡メバンシ―は、

 どじゅばばぼぼぼぼおおおおぉぉん!

 眩しい閃光と激しい爆炎、そして複雑かつ豪快な大爆音と共に消滅した。
 その煙の中から小さな光の球が飛び出し、飛んでいく。鏡メバンシ―の術が解け、夜が明けるように光を取り戻していく空を、彼方へと飛んでいった。
《ほれ、魂が本人の肉体へ戻っていくぞよ。あやつの意識体が完全に消滅した証拠じゃ。これで街の人々も元に戻るじゃろう》
「……ぁ……うっ」
 ふらり、とふらつくア―サ―の手からドロドロッドが消えた。
 そして、肉体と衣装も、元に戻る。
 ホワイトワ―ズ中学の制服を着たア―サ―が、男の子の声で呟く。
「ぼ、僕……今……?」
「ア―サ―君っ!」
 にょこ、とエミアロ―ネがア―サ―の頭に生えた。
「大丈夫? どこか、痛くない?」
「あ……エミアロ―ネさん、何だか随分久しぶりな気がします……大丈夫、平気です」
「そう、良かった。でもア―サ―君、さっきまでのは一体何なの?」
「僕にも、何がなんだか。でも、」
「記憶がない、というわけではなかろう?」
「はい。実はそうなんです……って、え?」
「アレはアレでソナタの本性、ソナタ自身なのじゃからの。ヨは、ほんの少しソナタの背中を押してやっただけじゃ」
 にょこ、と黒いロ―ブの少女が生えた。
 場所はエミアロ―ネの頭の上だ。
「ええぇぇっ⁉」
 ア―サ―とエミアロ―ネの声がハモった。
 ア―サ―の頭の上に、白い戦装束のエミアロ―ネ。その頭の上に、黒いロ―ブの少女カユカ。
 親亀の上に子亀で孫亀、というか。ト―テムポ―ル状態というか。
「な、何なの貴女は?」
「ん? 解らぬのか? ヨは、ソナタの頭に生えておるのじゃぞ」
「あっ……じゃあ、貴女は私の?」
 エミアロ―ネが、上に向けた目をしろくろさせていると、
「あ~くぅ――――――――ん!」
 精一杯の大声を張り上げて、イルヴィアが走ってきた。
「イ、イルヴィア……」
 必死に護ろうと頑張った、お姫様との感動的な再会。なのに、ア―サ―は固まってしまっている。
 それどろか、「うぐっ」と呻いて一、二歩後ずさったりする。
「? ア―サ―君?」
 その様子に、エミアロ―ネが視線を降ろす。
「どうしちゃったの……あ、そうか」
 エミアロ―ネは、ア―サ―の心に深々と突き刺さっているのであろう冷たく痛い氷に思い至った。
 イルヴィアの視線と、態度と、言葉と。
「あのねア―サ―君。さっきも言ったけど、解っているわよね? アレは、イルヴィアちゃん本人の言葉じゃないのよ」
「左様。アレは彼の者に操られて放った言葉。あの娘自身が、語ろうとして語った言葉ではない」
「そうなのよ、ア―サ―君」
「うむ。決して、あの娘の潜在意識を催眠術が掘り起こした、などということはない」
 ア―サ―の顔が、ぴきりっと引きつった。
「せ、せせせせ潜在意識……っ……」
 エミアロ―ネが、慌てて上を向く。
「こらこらっ! デリケ―ト極まりない思春期の少年の心を、弄んじゃだめっ!」
「ちなみにヨは十歳じゃが。思春期を弄ぶのは、いけないことかの」
「誰も貴女の歳なんて聞いてないし、そもそも十歳がそんな台詞を吐くんじゃないのっ!」
 親亀の頭の上で子亀と孫亀が言い争っている、その間に。
 親亀の目の前に、イルヴィアが到着した。走って走って、息を切らせて。
「はぁはぁ、あ~くん、大丈夫? どこかケガしてない?」
「え……う、うん。大丈夫だけど」
「良かったぁぁ……」
 イルヴィアは、心から安堵した表情を浮かべる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

リアルフェイスマスク

廣瀬純一
ファンタジー
リアルなフェイスマスクで女性に変身する男の話

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...