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第二章 出陣! 二代目女神様
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「……あ、あ~くん……なの?」
「!」
ア―サ―は、どきっ、とする。
「だ、誰のことでしょうそれは? いや~、全然聞いたこともない名ですね。あはは」
「やっぱり」
「え? な、何が? だって僕は、ほらほら、この、ね、」
ア―サ―は両手を頭の後ろで組んで、胸を突き出してみせる。オトナっぽく艶っぽい(つもりの)ポ―ズ。
「ほらほら、この通り。きっぱり女の子ですよ。ア―サ―君って、名前からすると男の子なんでしょ?」
「……」
《……》
イルヴィアとエミアロ―ネ、女性二人が揃って沈黙した。
《ア―サ―君。私、貴方の女性観を疑うわ》
「え。ど、どうしてです?」
《といってもまあ、中学生だしねぇ》
「何ですかその、意味深な言い回しはっ」
《別にぃ。お年頃ってことよ》
イルヴィアから見ると、謎の少女が一人で勝手にわたわたしている。ヘンだ。
だが確かに、やっぱり、どうにもこうにも否定しようのない事実は事実。本人が言っている通り、性別の壁は、厚く高く強固。認めざるを得ないだろう。何がどうあれ、この子はア―サ―ではないはずだ。
『やっぱり別人、よね? でも……う~』
深刻に考え込んでるイルヴィアに、ア―サ―は話し掛けようとした。
と、その耳に、オデックを筆頭に小中学校のみんなの、ようやく落ち着いたらしい歓喜の声が届いて。
とりあえず、いいか。と考えた。
「あの……僕のことはアレで結構ですから」
「え? アレって」
聞こえてくるくる、みんなの歓声。大合唱。
その中身はアレ。ア―サ―に付けられた名。
「アレですか?」
「はい。アレでいいですから。じゃっ」
ぴっ、と手を上げて、ア―サ―は去る。
「あ、あの……わたし、」
風のような速さで、ア―サ―は西の裏山へ駆け去っていく。
イルヴィアは、追いすがるように声を張り上げた。
「わたし、イルヴィアっていいます! ありがとうございました、女神二号さんっ!」
自分が認めたことながら、ア―サ―は脱力してコケそうになる。だが何とかコケずに走った。
皆の目から外れる場所、裏山の中まで。
《……うん、もう大丈夫よ。机ゴンの意識体は完全に消滅したわ。これでウナちゃんは、前世の呪いから完全に開放されてる。魂も無事に本人の肉体へと戻ってるはずよ》
「ほ、ほんとですか? 良かったあぁ」
ホワイトワ―ズ小学校、五年一組の教室。廊下の、中学の校庭に面した窓に群がっていた生徒たちが、ぱらぱらと教室に戻ってきた。
誰もがまだまだ、興奮冷めやらずといった顔で、たった今眼前で繰り広げられた戦いについてアツく語り合っている。
その声に起こされたように、
「……んむ……」
今の今まで机に伏せっていたウナが顔を上げた。
それを見て驚いたのは、教室に戻ってきたばかりのクラスメ―トたち。
「あれ、ウナちゃん? まさか、この騒ぎの中でずっと寝てたの?」
「ん……そうみたい……騒ぎって何? 何かあったの?」
ウナは寝ぼけ眼をごしごしと擦っている。
「うわ~、もったいない! 今、すっっごい大事件があったのに!」
「大事件?」
「そうよ! なんとなんと、あのね、」
と、教室の入口に一人の少年が息せき切って駆け込んで来た。中学の制服を着た黒い髪の一年生男子。ウナのお兄さんだ。
「ウナ……!」
「あれ、おに―ちゃん? どうかしたの? あ、そういえば今何かあったらしいんだけど、あたしは寝てたみたいで……」
ウナはまだ少し眠そうな目で、ぽか~んとしている。
掠り傷一つない。いつものウナだ。
「ウナああああぁぁっ!」
ア―サ―は涙を浮かべて、いや、涙を流しながら教室に駆け込んでウナの元に走り、そしてウナに抱きついた。力一杯、抱きしめた。
「ちょ、ちょっとおに―ちゃんっ?」
「安心しろ、もう大丈夫だウナ!」
「な、何が大丈夫なのっ? おに―ちゃん、ちょっと、恥ずかしいってばっ」
ぎゅむむむむと抱きしめられて、ウナはただただ困惑する。
「何も言うな、ウナ。お前の前世が何であろうと……」
ごちいいぃぃん!
ウナの右フックが、ア―サ―のこめかみにめり込んだ。髪を引っ張るにしても殴るにしても、側頭部というのはとにかく痛い。
ア―サ―はゆらりとゆらめいて、そして倒れた。
倒れて床から見上げれば、激怒した顔のウナがいる。
「おに―ちゃん、まだ改心してないの? まだアヤしい宗教から足を洗ってないの?」
「あ、足を洗うって、」
「よ~く、覚えといてよ! おに―ちゃんがそのままでいる限り、イルヴィアおね―ちゃんは絶対、あたしが守るんだからっ!」
「ちょっと待て、ウナ。だからそれは、その、詳しい説明はできないんだけど、」
「ウナちゃん、足を洗うって何のこと?」
ウナのクラスメ―トたちが集まってきた。ウナは慌てて「何でもないのっっ」と説明して廻る。もちろんア―サ―には背を向けて。
「……とほほ」
かく、と寂しくうな垂れて、ア―サ―は教室を出て行く。
廊下をとぼとぼと歩くその姿は、とことん寂しげだ。
「で、でもまあ……ウナを助けることはできたんだし……」
「そうよ」
にょこ、と頭に女神様。金色の長い髪と、先ほどまでのア―サ―とは対照的に大人っぽい体型の女神様。
その名はエミアロ―ネ様。
「貴方は頑張ったわ。えらいえらい」
エミアロ―ネは、ア―サ―の頭をなでなでする。
誉めてくれているらしい。
「頑張った、か」
「そうそう」
「……そうですよね」
「うんっ」
顔を上げ、ア―サ―は背すじを伸ばす。
何とか、どうにか立ち直ったらしい。
そこにすかさず、エミアロ―ネが一言。
「これからも頑張ってね、ア―サ―君♡」
彼の戦いは、続く。
受難もまた、続く。
「!」
ア―サ―は、どきっ、とする。
「だ、誰のことでしょうそれは? いや~、全然聞いたこともない名ですね。あはは」
「やっぱり」
「え? な、何が? だって僕は、ほらほら、この、ね、」
ア―サ―は両手を頭の後ろで組んで、胸を突き出してみせる。オトナっぽく艶っぽい(つもりの)ポ―ズ。
「ほらほら、この通り。きっぱり女の子ですよ。ア―サ―君って、名前からすると男の子なんでしょ?」
「……」
《……》
イルヴィアとエミアロ―ネ、女性二人が揃って沈黙した。
《ア―サ―君。私、貴方の女性観を疑うわ》
「え。ど、どうしてです?」
《といってもまあ、中学生だしねぇ》
「何ですかその、意味深な言い回しはっ」
《別にぃ。お年頃ってことよ》
イルヴィアから見ると、謎の少女が一人で勝手にわたわたしている。ヘンだ。
だが確かに、やっぱり、どうにもこうにも否定しようのない事実は事実。本人が言っている通り、性別の壁は、厚く高く強固。認めざるを得ないだろう。何がどうあれ、この子はア―サ―ではないはずだ。
『やっぱり別人、よね? でも……う~』
深刻に考え込んでるイルヴィアに、ア―サ―は話し掛けようとした。
と、その耳に、オデックを筆頭に小中学校のみんなの、ようやく落ち着いたらしい歓喜の声が届いて。
とりあえず、いいか。と考えた。
「あの……僕のことはアレで結構ですから」
「え? アレって」
聞こえてくるくる、みんなの歓声。大合唱。
その中身はアレ。ア―サ―に付けられた名。
「アレですか?」
「はい。アレでいいですから。じゃっ」
ぴっ、と手を上げて、ア―サ―は去る。
「あ、あの……わたし、」
風のような速さで、ア―サ―は西の裏山へ駆け去っていく。
イルヴィアは、追いすがるように声を張り上げた。
「わたし、イルヴィアっていいます! ありがとうございました、女神二号さんっ!」
自分が認めたことながら、ア―サ―は脱力してコケそうになる。だが何とかコケずに走った。
皆の目から外れる場所、裏山の中まで。
《……うん、もう大丈夫よ。机ゴンの意識体は完全に消滅したわ。これでウナちゃんは、前世の呪いから完全に開放されてる。魂も無事に本人の肉体へと戻ってるはずよ》
「ほ、ほんとですか? 良かったあぁ」
ホワイトワ―ズ小学校、五年一組の教室。廊下の、中学の校庭に面した窓に群がっていた生徒たちが、ぱらぱらと教室に戻ってきた。
誰もがまだまだ、興奮冷めやらずといった顔で、たった今眼前で繰り広げられた戦いについてアツく語り合っている。
その声に起こされたように、
「……んむ……」
今の今まで机に伏せっていたウナが顔を上げた。
それを見て驚いたのは、教室に戻ってきたばかりのクラスメ―トたち。
「あれ、ウナちゃん? まさか、この騒ぎの中でずっと寝てたの?」
「ん……そうみたい……騒ぎって何? 何かあったの?」
ウナは寝ぼけ眼をごしごしと擦っている。
「うわ~、もったいない! 今、すっっごい大事件があったのに!」
「大事件?」
「そうよ! なんとなんと、あのね、」
と、教室の入口に一人の少年が息せき切って駆け込んで来た。中学の制服を着た黒い髪の一年生男子。ウナのお兄さんだ。
「ウナ……!」
「あれ、おに―ちゃん? どうかしたの? あ、そういえば今何かあったらしいんだけど、あたしは寝てたみたいで……」
ウナはまだ少し眠そうな目で、ぽか~んとしている。
掠り傷一つない。いつものウナだ。
「ウナああああぁぁっ!」
ア―サ―は涙を浮かべて、いや、涙を流しながら教室に駆け込んでウナの元に走り、そしてウナに抱きついた。力一杯、抱きしめた。
「ちょ、ちょっとおに―ちゃんっ?」
「安心しろ、もう大丈夫だウナ!」
「な、何が大丈夫なのっ? おに―ちゃん、ちょっと、恥ずかしいってばっ」
ぎゅむむむむと抱きしめられて、ウナはただただ困惑する。
「何も言うな、ウナ。お前の前世が何であろうと……」
ごちいいぃぃん!
ウナの右フックが、ア―サ―のこめかみにめり込んだ。髪を引っ張るにしても殴るにしても、側頭部というのはとにかく痛い。
ア―サ―はゆらりとゆらめいて、そして倒れた。
倒れて床から見上げれば、激怒した顔のウナがいる。
「おに―ちゃん、まだ改心してないの? まだアヤしい宗教から足を洗ってないの?」
「あ、足を洗うって、」
「よ~く、覚えといてよ! おに―ちゃんがそのままでいる限り、イルヴィアおね―ちゃんは絶対、あたしが守るんだからっ!」
「ちょっと待て、ウナ。だからそれは、その、詳しい説明はできないんだけど、」
「ウナちゃん、足を洗うって何のこと?」
ウナのクラスメ―トたちが集まってきた。ウナは慌てて「何でもないのっっ」と説明して廻る。もちろんア―サ―には背を向けて。
「……とほほ」
かく、と寂しくうな垂れて、ア―サ―は教室を出て行く。
廊下をとぼとぼと歩くその姿は、とことん寂しげだ。
「で、でもまあ……ウナを助けることはできたんだし……」
「そうよ」
にょこ、と頭に女神様。金色の長い髪と、先ほどまでのア―サ―とは対照的に大人っぽい体型の女神様。
その名はエミアロ―ネ様。
「貴方は頑張ったわ。えらいえらい」
エミアロ―ネは、ア―サ―の頭をなでなでする。
誉めてくれているらしい。
「頑張った、か」
「そうそう」
「……そうですよね」
「うんっ」
顔を上げ、ア―サ―は背すじを伸ばす。
何とか、どうにか立ち直ったらしい。
そこにすかさず、エミアロ―ネが一言。
「これからも頑張ってね、ア―サ―君♡」
彼の戦いは、続く。
受難もまた、続く。
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