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第二章 出陣! 二代目女神様
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白い戦装束を纏ったア―サ―が、トイレの個室を勇ましく飛び出したところ。
トイレの出口の洗面所で、ア―サ―は鏡に映る自分の姿を見た。といっても、じっくり眺めている余裕はなかったので、走り抜けながら横目でちらりと、だ。
美しくも勇ましい白い戦装束。我ながら結構似合っていると思った。隅から隅までエミアロ―ネと同じデザインだが、無論それを纏っているのは、エミアロ―ネではない。
髪は黒くて短いし、上半身だけで比べてもエミアロ―ネより背が低いと判る。これは明らかに、
「……ん?」
ちょっとした違和感にア―サ―は急停止して、引き返した。廊下を駆け戻り、改めて洗面所で鏡を見る。
そこに映っている人物は、髪が黒くて短くてエミアロ―ネより背が低い。何よりエミアロ―ネと対照的なのは、その目。黒い瞳のタレ目。これは自分の目のはず。
だが、見慣れた自分の顔とは何かが違う。似ているが違う。
「?」
ア―サ―はもともと柔和な顔をしているので判りにくいが……そう、例えば、双子の妹がいるとしたらこんな感じだろうか。
そう思って見ると、この顔はア―サ―よりもむしろ、ウナに似ているような気もする。
「??」
顔を見ていてもよくわからないので、視線を少し下げてみる。と、ア―サ―は決定的なものに気付いた。顔の下、首の下、胸だ。
エミアロ―ネに比べれば遥かに量感は乏しいが、でも決してゼロではない、それ。
ここまできてようやく、ア―サ―は全てに合点がいった。この戦装束は隅から隅までエミアロ―ネのものと同じデザイン。それが何の差し障りもなく似合っているのだ。
女性用の装束が似合っている。すなわち、
「ひぇああああぁぁっっ⁉」
思わずア―サ―は、鏡に映る自分の姿を指さして驚きの叫びを上げてしまった。もし机ゴンの騒ぎがなかったら、一気にヤジ馬が集まってきただろう。それぐらいの大声だ。
そしてその声がまた、高く甘く可愛くて。
「? あ、あ~、あ~……な、何だこれ?」
《ア―サ―君ア―サ―君。気持ちは解るけど、今は一人で騒いでる場合ではないわよ》
耳を介さず心に届く、エミアロ―ネの声。
「だ、だだだだだだって、」
《しょうがないでしょ。それとも何、貴方は女装したかったの?》
「え? そ、それは、」
いつもの自分が、この出で立ちになったところを想像するア―サ―。
……うぐぐ。
《だから。こんなことで戦意喪失されたら困るから、私は貴方の肉体に働きかけて》
もし今、エミアロ―ネが頭の上に出ていたなら、言い辛そうな顔で視線を逸らしていただろう。
そんな顔をしていそうな声で、エミアロ―ネは、ぼそっと言った。
《ちょっと……性転換してもらったの》
「!!!!!!!!」
ア―サ―の、声ならぬ絶叫再び。
但し、女の子ボイスバ―ジョン。
「ちょ、ちょっとってそんなっっ!」
《落ち着いて。ちゃんと元に戻せるから》
「で、でも!」
《それにねア―サ―君。あの机ゴンや他のデコロスモンスタ―も例外ではなく、私の姿は見えないの。貴方が黙ってさえいれば、誰にも私たちのことは見抜けない。黒の覇王の探査の術をもってしても、「大体この地域だろう」ってぐらいしか判らないはず。つまり、》
ここが大事よ、とばかりにエミアロ―ネは語調を強める。
《日常生活の中で、イルヴィアちゃんやウナちゃんを直接狙われないようにする為には、貴方は正体を隠さなければならない。その点、こんな姿なら心配ないでしょう?》
「……う」
言われてみれば、これほど完璧な変装もないだろう。カツラも被らず、ヒゲやホクロもつけず、性転換という反則技をしているのだから。
正体を隠すという意味では確かに有効だろうが、しかし……
《ほら、うだうだ考えてるヒマはないわよ! ウナちゃんを助けるんでしょ?》
「! そ、そうだった!」
思い出したように、いや実際思い出して、ア―サ―は鏡から離れて駆け出した。
ウナのことだけではない。あの机ゴンが暴れ出したら、学校のみんなが危ない。イルヴィアが危ない。今は自分が、戦わなくてはならない。
『そうだ。こんなことでうろたえてる場合じゃないんだ。急がないと!』
体育の成績があまり良くないア―サ―君十二歳。なのだがこの時は何の躊躇もなく、三階から二階へ下りる階段の踊り場にある窓から、校庭へと跳び降りた。
そして、見た。巨大な机ゴンの巨大な口が、イルヴィアに覆い被さっていくのを――
太陽の光を浴びて立つ、その少女。たった今、あの巨大な謎のドラゴンを豪快に蹴り倒した、白い戦装束の少女。
イルヴィアは、その顔に覚えがある。
だから今、その名を呼ぼうとしている。のだが、先程までの恐怖がまだ抜けきっておらず、また驚愕のあまり、声にならない。
『あ、あ……あ~くん……?』
と思った。一目見て最初は、完全にそうだと思った。
が、しかし少女だ。顔も身体も声も全部、女の子だ。
黒い髪に黒いタレ目で優しげな顔、どう見てもア―サ―そっくりだが、でも少女。そしてウナでもない。ということは全くの別人だ。
そう解釈するしかない……のだろうか?
「ほら、立てる?」
白い戦装束の少女が差し出す手を、
「あ……はい、大丈夫です」
握って引き上げてもらい、何とかイルヴィアは立ち上がった。
立ち上がって並んでみて、イルヴィアは気付いた。この少女の出で立ちに。
と、校舎の方がどよめき出した。イルヴィアと同様に、少女の出現による驚きから少し時間をおいたことで、思い出したのだろう。
全員が教科書で知っている人物。特にテスト前の今は、はっきりと頭に刻み込んでいる。
この白い戦装束は、紛れもなく……
「ようやく会えたな、白の女神!」
立ち上がった机ゴンが、吠えた。
「今日という今日こそデコロスモンスタ―屈指の勇士、この机ゴンが引導を渡してくれる! おお、憎々しいぞ憎々しいぞ、その白き姿!」
「……」
白い戦装束の少女が机ゴンに向かって立ち、イルヴィアを背に庇う。
「下がってて。あいつは、僕が倒す」
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