8 / 41
第二章 出陣! 二代目女神様
4
しおりを挟む「白の女神よ! おるのは判っておるのだぞ! どうあっても出て来ぬのなら、」
角の変わりに机を生やしたドラゴン、机ゴンは相変わらず校庭で吠えていた。
ホワイトワ―ズ中学は校庭を中心にして東に校門、西に体育館と裏山、北に校舎、そして南側にはホワイトワ―ズ小学校がある。もちろん小学校も大騒ぎになっているが、机ゴンはそちらには背を向けている。
そして、中学の校舎に向かって歩いていきながら、また吠えた。
「とりあえず手始めに、ここの学童どもを皆殺しにしてくれるっ!」
校舎を揺るがすような、男女合わせて七百名の悲鳴が轟いたが、机ゴンは揺るがない。
その七百名の大部分がパニックに陥る中、何人かの教師や学級委員が必死に避難誘導をするも、机ゴンが尾を振り上げる方が早い。
そして振り下ろし、一気に校舎をブチ砕き割ろうと……
「待ちなさいっ!」
鋭い声がして、尾が止まった。
机ゴンは左側、校庭の西側を見た。
そこにいたのは、ホワイトワ―ズ中学の制服を着た女子生徒。蒼い髪をポニ―テ―ルにした女の子だ。校舎から全速力で走ってきたらしく、息を切らしている。
「何だ貴様は? 白の女神以外に用は……」
と言いかけて、机ゴンは言葉を切った。そして、鼻をひくひくさせる。
『あの小僧の匂い……残り香だな。この娘、あやつと近しい者か……』
机ゴンが、ニヤリと笑う。その笑顔に、
「な、なな何よっ。何が、おかしいのよっ」
最初から怯えていたその女の子は更に恐怖倍増となったらしく、机ゴンにもはっきりと判るほど震えだした。
だがそれでも、冷や汗まみれになりながらも必死に、毅然とした表情を作っている。
「わ、わたしは、一年五組の、イルヴィアっていって、その、」
「誰もそんなこと聞いとらん」
「そ、そう? それなら、えっと、」
イルヴィアはじりじりと後退する。
「そ、そうだ。あなた、白の女神がどうとか言ってるけど、それって何なのよ? 全然、わからないんだから、詳しく説明、しなさいよっ」
イルヴィアは後退する。西に、山の方に。
「……ほほう、なるほど」
机ゴンが、ニヤリ。
「さすがよのう。貴様、あの女の助手か? 従者か? 相棒か?」
「な、何を訳のわからないこと言ってるのよ。それより白の女神って、わたしは見たことも聞いたことも、ないんだから。ちゃんと説明を」
「そうやってわざとらしく時を稼ぎ、学童どもからも街からもわしを離して、騎士団の到着を待つか。いやはや、大したものよ」
ニヤニヤしながら机ゴンが言う。
「だが甘いな。わしにとっては平和ボケしたこの時代の騎士どもなど、屁でもないわ」
と言って、ぺこり。まるでお辞儀をするように、机ゴンが頭を下げた。
すると突然、まるでその頭に引っ張られたかのように、一筋の稲妻が流星のように空を貫いた。まっすぐに机ゴンの頭の机へ……
「え?」
落雷! その瞬間、昼間の太陽をも上回る閃光が瞬き、イルヴィアも校舎内にいる生徒たちも目を伏せた。
全くの快晴、青い空にいきなりの雷。それだけでも充分に異常な現象だったが、真の異常はその直後にやってきた。
今の雷を追いかけるように、上空から降って来たのだ……イルヴィアがいるその場所に、無数の机が。
上を向いたイルヴィアが、それに気づいたときにはもう逃げられない。
「きゃああああぁぁぁぁっ!」
イルヴィアが腰を抜かして尻餅をついた、その直後!
ドゴォドゴォドゴォドゴゴゴゴォォ!
無数の机による豪雨。それも教室に置いてあるような、木製の机ではない。暗く透き通った、見たこともない鉱物でできた机の、悪夢のような超局地的豪雨だ。
それらは遥か上空から落下してきて地面に激突したというのに、折れず欠けず割れず全くの無傷。当然の結果として、地面に突き刺さり、めり込んでいる。
「う、ぅ……あ……」
机の豪雨の轟音が止み、土煙が静かに漂う。
そんな中でイルヴィアは、ぱたりと倒れそうになる上半身を、後ろについた両手で必死に支えていた。
イルヴィアの、大きく開かれた左右の脚。その間に机の脚がある。斜めに傾いて半分ほど地面に埋まっている、黒水晶の机の脚だ。
そういえばさっき後頭部を掠った机が、ごく僅かだがイルヴィアの髪を削いだ。そのせいだろうか、ほんの少し焦げ臭い。
イルヴィアが今、全身を砕かれ潰されて死ななかったのは……わざとだろうか偶然だろうか。
「解ったか? 並のドラゴンなら倒せるような戦士でも、このわしには絶対に勝てぬ。黒の力をもつ、このわしにはな」
机ゴンがイルヴィアに近づいていく。
言葉を失い身動きもできず、紙のように白い顔のイルヴィアに向かっていく。
「貴様の悲鳴であやつを呼んで貰おうと思ったのだがな。その様子では無理か」
机ゴンが近づいてくる。
地面に刺さった黒水晶の机に囲まれて、震えるイルヴィアに向かってくる。
「た……た、たす……」
「だから、助けを求めるのなら、もっと大きな声を出せと言うに」
だが机ゴンがイルヴィアに近づいていくと、悲鳴はイルヴィア以外の人々からしっかりと聞こえてきた。
机ゴンの左右、小中学校の校舎から、千を越える数の悲鳴が響き渡る。
「おお、これはこれは。これなら、あやつも出て来るだろう。というわけで、」
机ゴンが、その大きな口を開けた。
ズラリと並ぶ白い牙。イルヴィアの身長ほどもありそうなその牙を、数本の唾液の糸が繋いでいる。
「腹ごしらえだ。喰うぞ」
平然とそう言って、机ゴンはイルヴィアに、ゆっくりと襲い掛かった。
もう既にイルヴィアは、
『……あ、あ……』
声を出すどころか、思考を恐怖によって押し潰されていた。心の中ですら、思うように言葉が紡げない。
『あ……あ、あ、あ~く……!』
「てええええぇぇ――――――――いっ!」
突如、机ゴンの右側、中学の校舎の方から出てきた人影が疾走、跳躍して、机ゴンの横っ面を踏み抜くような、強烈な跳び蹴りを叩き込んだ。
影、といってもその影は黒くない。白い。机ゴンに加えた矢のような一撃は、まるで魔を討ち払う東方の白い矢、破魔矢のよう。
「うぐぉぉおっ⁉」
予想だにしなかった一撃を受けて机ゴンの顎が歪み、そしてそれに引っ張られるようにして体が、ぐらりと傾く。
そこへダメ押しするように、影はもう一発、机ゴンの顔を押し蹴って跳んだ。
傾いたところを更に押されて、机ゴンは地響きを立てて倒れる。
影は、くるりと空中で身を回転させて、イルヴィアのそばに着地した。
そして、
「大丈夫? ケガはない?」
と言いつつ振り向いたその顔は、
「えっ……」
イルヴィアを、心の底から驚かせるに充分なものだった。
「ええええぇぇぇぇっ⁉」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?
悠
ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。
それは——男子は女子より立場が弱い
学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。
拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。
「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」
協力者の鹿波だけは知っている。
大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。
勝利200%ラブコメ!?
既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる