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第二章 出陣! 二代目女神様
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先生が退室して休み時間になる。ア―サ―が教科書を片付けていると、イルヴィアがやってきた。
「ねえ。どうしたの、あ~くん?」
イルヴィアは真心から心配そうな顔と声で、ア―サ―に迫った。
「え? ど、どうしたって、何が」
「何がじゃないでしょ。あ~くんはいきなり頭が重くなったとかいうし、ウナちゃんも今朝、様子が変だったし。昨日の夜何かあったの?」
と言われても。ここで具体的に説明して、もし後でウナに相談なんかされたらシャレにならない。怪しい前世宗教疑惑がますます深まってしまう。
ここは何とか、ごまかすしかない。
「べ、別に何も、ないよ。ほらこの通り、いたって健康だし」
ア―サ―は立ち上がって元気よく、
「いっちに、さんしっ、と。ね?」
体操を始めた。ごぉろく、しちはち。
『……あ、あ~くん……』
イルヴィアは、ア―サ―との付き合いは長い。幼馴染みのお隣さんとしてかなり長い。だが今のア―サ―が隠し事をしているということぐらい、初対面の人間にも一目瞭然だ。
とはいえ、本人はこれでごまかしているつもりらしい。だからムゲにもできない。
「解ったわ、あ~くん」
「あ、解ってくれた?」
イルヴィアが小さく溜息をついたことにア―サ―は気付かない。
「今言いたくないのなら、それはそれでいいから。でも、本当に困ったら相談してね」
「え? いやだから、僕は何も」
「じゃ、ね」
去り行くイルヴィア。残されたア―サ―。この図は……
「昨日の、戦った後のウナちゃんそっくりね」
頭上から女神様のお声がした。
答えようがないのでア―サ―が黙っていると、更に追い討ちをかけるように、
「貴方ってとことん自分のキャラクタ―を見抜かれきってるのね。家族にも恋人にも」
さらりと、とてつもないことを仰った。
これには黙っているわけにいかず、赤くなりながらもア―サ―は声を絞り出す。
「エ、エミアロ―ネさんっ、こっ、ここここ、こっこっこっ、」
「何ニワトリになってるの」
「こ、こい、こいび、って、」
ア―サ―は周囲への変人扱い警戒を忘れて声を大きくしてしまう。が、その気遣いは無用だった。
なぜならア―サ―の声をあっさり掻き消して、
シャギャアアアアァァ!
校庭で、何やらもの凄い雄叫びが轟いた。
何だ何だと全校生徒が窓際に殺到する。例に漏れず、一年五組の教室も大騒ぎになった。
ア―サ―が、そしてその側に来たイルヴィアも他のクラスメ―トと一緒に校庭を見る。
そこにいたのは、
「……う、嘘……」
思わずイルヴィアが声を漏らした。ア―サ―は絶句した。
ついさっきまでサッカ―やバスケをする生徒たちで賑わっていた校庭に、ドラゴンがいるのだ。生徒たちは既に全員逃げ去り、今はそいつしかいない。
ぬめりのある濃緑色の鱗に全身を覆われ、ひとことで言えば巨大トカゲなその姿。だがトカゲにしては足が太く、後ろ足で立ち上がれば一年五組のある三階まで楽に顔が届くだろう。その足の先には鋭い爪、大きな口の中には白い牙と赤くて長い舌。
正にこれはドラゴンだ。が、一つ妙なのは頭。そこにあるのは尖った角ではなくて……机。
ごく普通の、机が生えているのだ。
「あ、あ~くん。何なのかな、あれは」
イルヴィアも含めて全員が机に気付いたらしい。みんなドラゴンの頭に注目している。
ア―サ―が、ぽつりと言った。
「もしかして」
「何?」
「机が前世なのかな、あのドラゴンは」
一瞬、イルヴィアの頭の中が真っ白になる。
「……ねえあ~くん。何をどう考えたら、そういう結論に行き着くの?」
「え、だって頭に生え……あ、いや、何でもない何でもない。あはははは」
ますます誤解を深める発言をしてしまい、ア―サ―は慌てて笑ってごまかした。
そしてそのア―サ―の頭の上では。
「デコロスモンスタ―……」
「え? 何です?」
ア―サ―が視線を上げると、エミアロ―ネが独り言半分で応答した。
何やら、随分深刻な様子だ。
「黒の覇王が創造した生物よ。波長の合うものと融合することで、特殊な力を得られるモンスタ―……それが、デコロスモンスタ―……」
「融合?」
「そう。それが、あいつの場合は机。だから机=デコロス=ドラゴン。略して机ゴンね」
青白いといってもいい顔色で、エミアロ―ネは深刻に語っている。
だがア―サ―は何だか一気に、真面目に聞く気が失せた。こんな状況で机ゴン、て。
反論しても仕方ないので、おとなしく聞いているが。
「でも、デコロスモンスタ―はとっくに絶滅したはず……あ、そうか!」
エミアロ―ネは、今校庭に居るドラゴンの正体に思い至った。
「あの、ア―サ―君。落ち着いて聞いてね」
「はい?」
エミアロ―ネにしては珍しく、ちょっと言いにくそうに言う。
「あのドラゴン、机ゴンの正体はね」
「はあ」
「……ウナちゃんよ」
ごぃん!
ア―サ―は、窓枠に豪快な頭突きをかましてしまった。だが今度は突っ伏したりせずにすぐさま立ち直り、全力疾走で教室を出る。
戸惑うイルヴィアの声を背にして。
「あ、あ~くん? どうしたの?」
もう一つ、鼻をヒクヒクさせて辺りの匂いを嗅いでいる机ゴンの声も背にして。
「うむ、やはりこの近くにおるな! 出て来い白の女神! 昨夜わしを封印した、あの小僧に転生したのは見抜いておるぞ!」
「ねえ。どうしたの、あ~くん?」
イルヴィアは真心から心配そうな顔と声で、ア―サ―に迫った。
「え? ど、どうしたって、何が」
「何がじゃないでしょ。あ~くんはいきなり頭が重くなったとかいうし、ウナちゃんも今朝、様子が変だったし。昨日の夜何かあったの?」
と言われても。ここで具体的に説明して、もし後でウナに相談なんかされたらシャレにならない。怪しい前世宗教疑惑がますます深まってしまう。
ここは何とか、ごまかすしかない。
「べ、別に何も、ないよ。ほらこの通り、いたって健康だし」
ア―サ―は立ち上がって元気よく、
「いっちに、さんしっ、と。ね?」
体操を始めた。ごぉろく、しちはち。
『……あ、あ~くん……』
イルヴィアは、ア―サ―との付き合いは長い。幼馴染みのお隣さんとしてかなり長い。だが今のア―サ―が隠し事をしているということぐらい、初対面の人間にも一目瞭然だ。
とはいえ、本人はこれでごまかしているつもりらしい。だからムゲにもできない。
「解ったわ、あ~くん」
「あ、解ってくれた?」
イルヴィアが小さく溜息をついたことにア―サ―は気付かない。
「今言いたくないのなら、それはそれでいいから。でも、本当に困ったら相談してね」
「え? いやだから、僕は何も」
「じゃ、ね」
去り行くイルヴィア。残されたア―サ―。この図は……
「昨日の、戦った後のウナちゃんそっくりね」
頭上から女神様のお声がした。
答えようがないのでア―サ―が黙っていると、更に追い討ちをかけるように、
「貴方ってとことん自分のキャラクタ―を見抜かれきってるのね。家族にも恋人にも」
さらりと、とてつもないことを仰った。
これには黙っているわけにいかず、赤くなりながらもア―サ―は声を絞り出す。
「エ、エミアロ―ネさんっ、こっ、ここここ、こっこっこっ、」
「何ニワトリになってるの」
「こ、こい、こいび、って、」
ア―サ―は周囲への変人扱い警戒を忘れて声を大きくしてしまう。が、その気遣いは無用だった。
なぜならア―サ―の声をあっさり掻き消して、
シャギャアアアアァァ!
校庭で、何やらもの凄い雄叫びが轟いた。
何だ何だと全校生徒が窓際に殺到する。例に漏れず、一年五組の教室も大騒ぎになった。
ア―サ―が、そしてその側に来たイルヴィアも他のクラスメ―トと一緒に校庭を見る。
そこにいたのは、
「……う、嘘……」
思わずイルヴィアが声を漏らした。ア―サ―は絶句した。
ついさっきまでサッカ―やバスケをする生徒たちで賑わっていた校庭に、ドラゴンがいるのだ。生徒たちは既に全員逃げ去り、今はそいつしかいない。
ぬめりのある濃緑色の鱗に全身を覆われ、ひとことで言えば巨大トカゲなその姿。だがトカゲにしては足が太く、後ろ足で立ち上がれば一年五組のある三階まで楽に顔が届くだろう。その足の先には鋭い爪、大きな口の中には白い牙と赤くて長い舌。
正にこれはドラゴンだ。が、一つ妙なのは頭。そこにあるのは尖った角ではなくて……机。
ごく普通の、机が生えているのだ。
「あ、あ~くん。何なのかな、あれは」
イルヴィアも含めて全員が机に気付いたらしい。みんなドラゴンの頭に注目している。
ア―サ―が、ぽつりと言った。
「もしかして」
「何?」
「机が前世なのかな、あのドラゴンは」
一瞬、イルヴィアの頭の中が真っ白になる。
「……ねえあ~くん。何をどう考えたら、そういう結論に行き着くの?」
「え、だって頭に生え……あ、いや、何でもない何でもない。あはははは」
ますます誤解を深める発言をしてしまい、ア―サ―は慌てて笑ってごまかした。
そしてそのア―サ―の頭の上では。
「デコロスモンスタ―……」
「え? 何です?」
ア―サ―が視線を上げると、エミアロ―ネが独り言半分で応答した。
何やら、随分深刻な様子だ。
「黒の覇王が創造した生物よ。波長の合うものと融合することで、特殊な力を得られるモンスタ―……それが、デコロスモンスタ―……」
「融合?」
「そう。それが、あいつの場合は机。だから机=デコロス=ドラゴン。略して机ゴンね」
青白いといってもいい顔色で、エミアロ―ネは深刻に語っている。
だがア―サ―は何だか一気に、真面目に聞く気が失せた。こんな状況で机ゴン、て。
反論しても仕方ないので、おとなしく聞いているが。
「でも、デコロスモンスタ―はとっくに絶滅したはず……あ、そうか!」
エミアロ―ネは、今校庭に居るドラゴンの正体に思い至った。
「あの、ア―サ―君。落ち着いて聞いてね」
「はい?」
エミアロ―ネにしては珍しく、ちょっと言いにくそうに言う。
「あのドラゴン、机ゴンの正体はね」
「はあ」
「……ウナちゃんよ」
ごぃん!
ア―サ―は、窓枠に豪快な頭突きをかましてしまった。だが今度は突っ伏したりせずにすぐさま立ち直り、全力疾走で教室を出る。
戸惑うイルヴィアの声を背にして。
「あ、あ~くん? どうしたの?」
もう一つ、鼻をヒクヒクさせて辺りの匂いを嗅いでいる机ゴンの声も背にして。
「うむ、やはりこの近くにおるな! 出て来い白の女神! 昨夜わしを封印した、あの小僧に転生したのは見抜いておるぞ!」
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