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第三章 新生活始めました

ただいまとおかえり

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家に帰るとまだ少し早い時間だったせいか、部屋の中はシーンと静まり返っていて、そぉっとリビングの扉を開けるとソファーの上で何もかけずに腹を出して寝てるりつを発見。

その周りには写真とかフィギュアが散らばってて、テーブルの上には何故が俺らの卒アルが置かれていた。


「何でこんなもん…」


俺が実家から持ってきた覚えもないから、こいつが持ってたってこと?

ペラペラと捲れば懐かしい顔ぶれや、さっきまで会ってた奴らの
やんちゃな頃の姿が写ってて、なんだか不思議な気持ちになった。

そして散らばった写真を床から拾い上げ集めていくと、保健室に群がる生徒たちとりつの写真…
一枚一枚確認するが、自分が写ってる写真は一枚もなかった。

こんなのいつ撮ったんだ…?

撮られた覚えもない俺は、何かちょっと嫉妬にも似た複雑な気持ちになりながらこの頃を思い出していた。

ちょうどりつが辞めるってなった頃か…
あの時期は隼人のこともあったし、意地張って保健室を避けてたんだよな。

そんな苦い思い出にザワつく気持ちを鎮めたくて、ソファーの方に視線を移せば静かに寝息を立てるりつの姿にほっとして、少し気持ちが落ち着く。

今、ここに、りつがいるんだよな…

まだ起きてきそうもないりつの真っ白な肌にそっと触れながら、懐かしさと愛おしさが込み上げてきた。


「ただいま」

「…んぅ」


長いまつ毛がふわっと上がり俺を見つけたりつと目が合うと、自然と口元が緩んだ。


「しょ…ご…?」

「こんなとこで寝てたら風邪引くぞ」

「え…あぁ…夢か…」

「夢?」

「…うん、昔の…」

「昔の?…なに?女?」

「ちげぇーよっ!夏祭り…行ったろ?」

「夏祭り…?あぁ!タピオカの?」

「ふはっ、そうそう、タピオカの!」


懐かしい…
思い出すことなんてないと思ってた。

りつがいなくなってからというもの、思い出すと寂しくなるから必死で忘れようとしたんだもん。


「てかいつ帰ってきたの?」

「ん?さっき」

「あれ?隼人は?」

「いないけど?」

「は?なんでだよ、送り届けるって言ったろ?」

「俺がいいって言ったんだよ、子供じゃねぇんだから」

「ん…まぁいいや。無事に帰ってきてくれたしぃ」


腕を引っ張られりつの上に上半身が乗っかると、そのままりつの腕の中に収まった。


「…っ、苦しい」

「寂しかったのぉ~」

「寂しいとか言うやつだと思ってなかった…あの頃は…黙っていなくなるしさ…っ」

「…悪かったよ」


りつと目を合わせると本当に申し訳なさそうに見つめてくるから、俺が思わずりつの頬に触れるとその手をりつがそっと掴んだ。

今ならあの時の感情を吐き出せるかもしれない…
りつが知らない、りつがいなくなった後の行き場のなくなった俺の感情…

俺が再びりつの胸に顔を埋めると、りつは優しく頭を撫でてくれた。


「…俺さ、卒業式の後お前ん家行ったの」

「えっ…」

「もういなかったけどな」

「あぁ…すぐここに引越したからな」

「どこに行けば会えるだろうって、タピオカの商店街にも行ったし、学校にも行ってみたりしたけど…いなかった」

「そう…だったんだ」

「もしかしたらどっかで会えるかもしれないって、最初は思ってた。けどさ、そんな希望持ってるのが段々辛くなっちゃってさ…忘れようとしたんだ…りつの事。忘れちゃえば楽になれるって…あの時、もう結構忘れてたのにさ、あんなとこに突っ立ってんだもん。タイミング悪いよな」

「ちょっ、タイミング悪いとか言うなよ…」

「夢でも見てるのかと思った…。ねぇ、夢じゃないよね?」


ゆっくり体を起こしてりつと再び目が合うと、またバツの悪そうなりつの表情がなんともいえなくて、ほっぺを強めにつねってみた。


「いってぇ!!」

「ふはっ、夢じゃないみたい」

「なっ、当たり前だろ!?そんな強くつねる!?」


慌てふためくりつが可笑しくて、久しぶりに腹を抱えて笑った。
そらそうだ、あれからもう何年も経ってるし、これが夢だったらいくら寝るのが好きとはいえ相当なお寝坊さんだ。

俺が今、こんなに笑えるのもこんなに幸せなのも、全部りつがいるから…
絶妙に悪かったタイミングのおかげ。

忘れようったって無理だったんだ。
だってりつは俺の運命の人だから…

強くつねりすぎて赤くなった愛おしいりつのほっぺを、優しく撫でた。


「ただいま、りつ」

「おかえり、将吾」
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