上 下
78 / 104
第三章 新生活始めました

意気消沈

しおりを挟む
寝室出て心を呼びに行くと、リビングにはトランクだけが置いてあって心の姿はなかった。

まさかこのくそ寒い中外で待ってる!?
良い人にも程があると急いで玄関の扉を開けると、隅っこの方ででしゃがみこみ丸くなってる心がいた。


「あ…大丈夫でした?」

「おぅ、ありがとな…」

「はぁ…良かったぁ。うぅ、寒みぃ…」

「てかなんで外にいんのよ、中でよかったのに…」

「いや聞かれたくないこともあるかなぁと思って?」

「別に平気だよ。悪いな、何から何まで…」

「ううん、大丈夫なら俺、帰りますわ!また今度改めて…」 

「えっ?や、会ってかないでいいの…?」

「ん?…あぁ、今日は…ね?」


そう言って心がトランクを取りにリビングに上がり、将吾には会わず部屋を出ようとした時、何かを察したのか将吾がいそいそと寝室から出てきた。

それに気がついて振り返った心は、満面の笑みで将吾に駆け寄り思いっきり抱きついた…
さっきまであんな遠慮がちに空気読んでたのに…信じらんねぇ。

俺は唖然として空いた口が塞がらないまま、上手く突っ込むことも出来ず、ただその光景を呆然と眺めていた。


「将吾ぉー♡会いたかったぁ!!」

「あっ、ちょ…っ、心っ…////」


将吾は俺の方をチラチラ見ながら、どうにか心から離れようとジタバタもがいてるが、顔は真っ赤だし嬉しいっ♡てのがダダ漏れなんですけどぉ…

俺は…
やっぱりもうダメかもしれない…っ。

自分の不甲斐なさも去ることながら、何でもそつ無くこなせる心に嫉妬して、今日はもうメンタルがズタボロ…

しばらく立ち直れなそうもないんですけど。


「あっ、ごめんごめん!ついつい向こうのノリで抱きしめちゃった!もぉ、びっくりしたよ。久々に電話したら泣いてんだもん…」

「ごめん、巻き込んで…」

「ううん、全然っ!今度ゆっくりみんなで飲も?俺、暫く健太ん家 にいるからさ、また喧嘩したら連絡してっ?」

「おぃっ!心っ!さすがにもうダメっ!! 」


このままだと本当に取られかねないのと、二人のやり取りを見てらんないのとで、やっとの事声を絞り出し突っ込んでみたものの離れる様子もなく、将吾に関してはもう俺の事なんか見ちゃいないっ。


「心、ありがと…」


ありがとうじゃないでしょっ…!?
まぁ心のお陰だから間違ってないかもしんないけど、そこはもう喧嘩なんてしないとか言ってよぉ…
なんて女々しいことを考えながら、見つめ合うキラキラした2人の空間がしんどくて、どんよりと下を向いてもう二人を見ないようにしながら大人しくソファーに座った。


「とりあえずはもう大丈夫?」

「うん、りつがいるから」


将吾の呟いた言葉にピクっと体が反応した。
今…りつって言ったよね!?
  

「ふふっ…そっか。じゃあ俺は健太に迎えに来てもらって、そろそろ帰ろっかな?」

「健太、来るまでいる?」

「ううん、外で待ってる。だってりつさんもう限界だもん」


あぁ…こいつ分かっててやってやがる…
でも今日は、今日だけは我慢だ…!


「ん?じゃあ…また今度…」

「うん、また今度ね♡」


そう言って別れを済ませる二人に膝を抱えたままチラッと視線を移せば、少し離れたところからわざわざ俺に手を振る心に、さっさと帰れと言わんばかりに軽くあしらった。

本当はちゃんとお礼しなきゃいけないのに、どんだけガキなんだ俺は…
そんな俺とは対照的に、心は嫌な顔一つせずだけどしっかり将吾の頭をぽんと撫でて、満足気に帰って行った。

そして、俺はと言うと…
もう何かとにかく自分が情けなくて悔しくて、ソファーに座り膝を抱えたまま俯いて、これから将吾と二人きり…
どうしたもんかと頭を抱えていた。


「りつ…?」

「ん…」

「怒ってる…?」

「いや、落ち込んでるだけ…」

「俺のせい…?」

「 ちげぇ、かっけぇなぁって…心」

「うん…かっこいいよね」

「なっ!?そこはりつのがかっこいいよっ!とか ……っ、じゃねぇよな。俺全然かっこよくねぇし、お前の事泣かせてばっかだし…」


何か、自分で言ってて悲しくなってきた…
それに本当に将吾が俺の事、もう好きじゃないって思ってたらどうしようって不安で、思わず目を逸らし更に膝を抱え込んで俯いた。


「心はかっこいいけど…俺が好きなのはりつだけだから…だから話せなかった。嫌われたくなかったから…」

「ごめんな…っ、全部俺のせいだ。そもそも俺がお前の事置いてったりしなきゃ…っ、ウリなんてしなくても…っ、こんな目にあわずに済んだかもしれないのにっ…」


将吾の人生、俺と関わったことでいいことなんてあったか?
俺が高校生のお前に惚れたりなんかしたから、人生狂っちゃったんじゃないのか!?なんて、後悔ばかりが頭の中を埋める…

将吾が俺の腕をギュッと掴んで、顔を覗き込むように寄り添ってくるから静かに顔を上げると、いつの間にか溜まっていた涙で視界がぼやけて将吾の顔がよく見えない。

泣いてるなんて自分でも信じられなくて、急に恥ずかしくなって
今更だけど、瞬きしながら力任せに涙を拭った。


「りつのせいじゃないから…俺が、弱いから…」

「弱くねぇよっ、お前は強い!頑張ってるのもわかってるしずっと我慢してたんだろ…?」

「…うんっ」

「もう気にするなっ、仕事の事も過去の事も…あんな奴に従って我慢なんてしなくていいから!」

「でも…っ」

「将吾が店辞めて困るのは店長だけ。他の奴らだって嫌だと思ったら辞めるよ。別に将吾が悪いわけじゃない。そいつが握ってたお前の弱みはもう弱みなんかじゃないから。大丈夫、お前を苦しめた奴は俺がぶっ飛ばしとくから、な?」


将吾は目にいっぱい涙をためながら、ギュっと俺の腕を両手で掴みコクリと頷いた。

そしてそんな将吾の頭を抱え込むように抱きしめると、鼻をすすりながら俺にしがみついてくる。
こんな可愛い将吾に傷をつけた奴を俺は絶対に許さねぇ…


「りつぅ…っ、俺っ、店辞めたいっ…」

「おぅ、辞めてやれそんな店」

「りつと…っ、お店やりたいっ…」

「おぅ、一緒にやろうなっ」

「りつぅ…っ」

「ん?どした?」


俺の腕の中からひょっこりと顔を出し、うるうるなお目目と目が合えば、その蕩けそうな表情はただの可愛い泣き顔ではなく、俺を求めるように欲情しきってるように見えて思わず喉を鳴らす。


「抱いて…」

「…っ、いいのか?」

「りつに…して欲しい…っ」

「分かった…」


そうは言ったものの、あの痣や傷を痛々しくてまともに見れないし、将吾だって本当は見せたくないはず。

壊れ物を扱うかのように将吾を抱え寝室に連れていくと、そっとベッドに寝かせ、出来るだけ優しく…ゆっくり唇を重ね見つめ合った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので

こじらせた処女
BL
 大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。  とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

おねしょ癖のせいで恋人のお泊まりを避け続けて不信感持たれて喧嘩しちゃう話

こじらせた処女
BL
 網谷凛(あみやりん)には付き合って半年の恋人がいるにもかかわらず、一度もお泊まりをしたことがない。それは彼自身の悩み、おねしょをしてしまうことだった。  ある日の会社帰り、急な大雨で網谷の乗る電車が止まり、帰れなくなってしまう。どうしようかと悩んでいたところに、彼氏である市川由希(いちかわゆき)に鉢合わせる。泊まって行くことを強く勧められてしまい…?

ドSな義兄ちゃんは、ドMな僕を調教する

天災
BL
 ドSな義兄ちゃんは僕を調教する。

甥の性奴隷に堕ちた叔父さま

月歌(ツキウタ)
BL
甥の性奴隷として叔父が色々される話

風邪をひいてフラフラの大学生がトイレ行きたくなる話

こじらせた処女
BL
 風邪でフラフラの大学生がトイレに行きたくなるけど、体が思い通りに動かない話

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

少年野球で知り合ってやけに懐いてきた後輩のあえぎ声が頭から離れない

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
少年野球で知り合い、やたら懐いてきた後輩がいた。 ある日、彼にちょっとしたイタズラをした。何気なく出したちょっかいだった。 だがそのときに発せられたあえぎ声が頭から離れなくなり、俺の行為はどんどんエスカレートしていく。

処理中です...