上 下
63 / 104
第二章 心との生活

はんぶんこ

しおりを挟む
「将吾…っ」


息を切らし腹を押さえながらゆっくりと俺に近づいてくるりつはどっからどう見ても絶対に無理してて、俺は思わず駆け寄って人目もはばからずりつを抱きしめた。


「…っ、将吾…?どうした?泣いてんの?」

「ごめん…りつ…っ」

「……そんなに心との別れが辛かった…?」

「…っ、違う…っ、りつのせい…っ」

「え…?」

「りつが…っ、りつが迎えに来てくれたから…っ、無理させちゃったから…っ」

「あぁ、だってさ…?無理してでも、引き止めたかったから。今日は絶対ね…」

「えっ…」

「将吾が行くって言ったら、俺引き止めたよ…まぁ、ちょっと遅れちゃったけど…」

「りつ…」

「俺、考えたの。自分で着いて行ってもいいみたいなこと言ったけどさ、もし将吾が本当に心に着いていくって言いだしたら…諦められるか?って…諦められるわけねぇじゃん、そんなの。やっぱ俺さ、心より全然ダメだけどさ、でもそれでも将吾の事好きだから…行かせたくないって、今度こそ俺がお前を幸せにするって思ったから」


俺の欲しかった言葉全部言ってくれた…
りつが俺に好きだって、幸せにするって…っ。

何度も聞いたことある言葉かもしれないけど、何度聞いたって嬉しいし今一番言って欲しかった言葉。


「りつは…っ、俺が必要…?」

「うん、必要」

「ほんとに?」

「嘘ついてどうすんのよ…」

「じゃあ俺の事…っ、ほんとに好き…っ?」

「おぅ、マジで大好き」

「ずっと…っ、一緒にいてくれる…っ?」

「もちろん、死ぬまでずっと一緒にいる」

「違ぅ…」

「え?」

「死ぬ時も一緒だから…っ、勝手に死ぬな…っ」

「ふふっ…そうだったな…」


お前が死ぬ時は俺も死ぬ時なんだからなっ。

そう思って抱きしめる力を強めると、りつの身体に少し熱を感じて慌てて顔を覗きこめば顔色は悪いし尋常じゃない汗の量だし段々と息が上がってきててもう一度しっかりと抱き抱えた。


「りつ!?どっか痛いの!?」

「いや…っ、まだ体力的にキツイかも…」

「ちょっと休んだ方がいいよ…っ」

「うん…そうかもな…」


少し軽くなったりつの身体を支えながらとりあえず近くのベンチに座らせると、自販機で水を買ってきてとりあえず飲ませる。

どうしてあげたらいいのか分からなくてパニックになる俺に、りつは大丈夫だからと逆に俺をなだめてくれた。

大丈夫なわけないのに、絶対辛いはずなのに…


「りつ…」

「ん?」

「沢山振り回してごめんね…」

「いや、俺こそ…不安にさせてばっかでごめん、でももう絶対…何があっても離さないから」

「俺も…ずっとりつのそばにいる」

「ん…もうどこにも行かないで…っ」


俺の肩に寄りかかりながら目を閉じたりつの長いまつ毛を伝って一粒涙が頬を伝った。
鼻をすすりながら身体を震わせ俺にしがみつくりつ…

年上の大人の先生だと思ってたこの人が、今日はなんだか凄く繊細で弱々しく見えて、これからは大事にされるだけじゃなく大事にしなきゃって心の底から思った。


「…もう平気だから、そろそろ帰ろうか」

「うん…でも…っ」


さっきよりは汗も引いて呼吸も落ち着いてはきたものの、まだ身体は熱いままだしここまで車できたってから運転だって心配だ。

俺が変わりに運転出来れば良かったのに、俺免許持ってないんだよな…

まずは免許、りつのために絶対取ろうって決めた瞬間だった。


「なぁ…将吾…?」

「ん?」

「帰ってくるんだろ?」

「ぅ…でも俺、りつの世話になってばっかで…」

「んな事気にすんなよ…」

「んぅ…」

「じゃあさ、これからは家賃折半な?半分払ってくれる?」

「あ…っ、うんっ!」

「ふふっ、じゃあ決まりな」


りつとの間に色々あって、更に心と一緒に過ごしてわかったことがある。
もうちょっとだけ、他人を信じてみてもいいかなって。

0か100じゃなくて半分こ、頼るだけでも頼らない訳でも無く、俺は好きな人と平等に一緒に幸せになりたいんだ。

それに、こんなに俺の事好きなやつ他のどこ探したってもういないと思う。


「じゃ、帰るか」

「うん////」


そして遠回りに遠回りを重ねた俺らの新生活が、ついにここから始まる…
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

愛玩奴隷 〜 咲 〜

うなさん
BL
鬼畜な凌辱ショーを中心とした、SMクラブ、− Night − 愛と欲望、支配と服従が交錯する世界

エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので

こじらせた処女
BL
 大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。  とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

【※R-18】αXΩ 懐妊特別対策室

aika
BL
αXΩ 懐妊特別対策室 【※閲覧注意 マニアックな性的描写など多数出てくる予定です。男性しか存在しない世界。BL、複数プレイ、乱交、陵辱、治療行為など】独自設定多めです。 宇宙空間で起きた謎の大爆発の影響で、人類は滅亡の危機を迎えていた。 高度な文明を保持することに成功したコミュニティ「エピゾシティ」では、人類存続をかけて懐妊のための治療行為が日夜行われている。 大爆発の影響か人々は子孫を残すのが難しくなっていた。 人類滅亡の危機が訪れるまではひっそりと身を隠すように暮らしてきた特殊能力を持つラムダとミュー。 ラムダとは、アルファの生殖能力を高める能力を持ち、ミューはオメガの生殖能力を高める能力を持っている。 エピゾジティを運営する特別機関より、人類存続をかけて懐妊のための特別対策室が設置されることになった。 番であるαとΩを対象に、懐妊のための治療が開始される。

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

処理中です...