こじらせ男子は一生恋煩い

むらさきおいも

文字の大きさ
上 下
38 / 106
第一章 出会いと再会

疑心暗鬼

しおりを挟む
昨日の夜はネカフェで過ごしたせいか、全然寝れなくていつもより疲労感が半端ない。

それを悟られないようにと動いていたつもりだったのに、流石の心くんはそんな俺を見てすかさず声をかけてくる。


「将吾…大丈夫?」

「ん?何が?」

「昨日ちゃんと家帰れたの?」

「あ…うん、帰ったよ」

「わだかまりは取れた?」

「…うん」


そんな俺の嘘を困った顔で眺める心…
一晩一人で過ごしてみてわかったのは、やっぱり独りは寂しいって事。

だからと言って誰でもいいって訳ではなくて、やっぱり俺にはりつが必要なんだって、改めて感じたんだ。

だから、朝になって数件の着信があった事にホッとしたのも確かで、何も言わずに拗ねた自分も悪かったと反省して、今日はちゃんと帰って謝ろうと思ってた。

バイトが終わる頃、いつもだったらりつが迎えに来てくれるはずだけど、さすがに今日は来ないと思って一人で帰ろうと裏口から出ようとすると、後ろからそっと腕を掴まれた。


「将吾…っ」

「心?」

「送ってくよ…」

「でも、お前まだバイト…」

「店長が休憩ってことなら良いって、りつさん来てないんだろ?」


心のその言葉に胸が痛んだ。
りつは来ない、要するに仲直りはできてないし、帰ったところで上手くいくかも分からないって状況を心に既に見抜かれてる。

返す言葉もない俺の手を握る心は、ふわっとした優しい顔で俺を見つめる…


「うち、来る…?」


その一言に一瞬気持ちが揺らいだ。

だけどこのままズルズル喧嘩したまま心の家になんて行ったら、取り返しがつかなくなる。

一先ず家に帰ってりつに謝らなきゃ…


「ううん、帰るよ。取り敢えず帰る…」

「そっか、わかった。なら送ってく」



そう言って裏口から出ようと一歩踏み出すと、外にはいると思ってなかったりつの姿があった。

迎えに来てくれたんだ、嬉しい!って思ったのも束の間、楽しそうに談笑してる隣の男の子に視線を移せば、見たことのある顔…

そうだ、高校の時のあの後輩!?

なんで!?
俺とは距離を置いたのに、俺と離れてる間もアイツとは繋がってたのか…!?

そんな風にりつを疑い始めたらキリがなくて、談笑する二人から目を逸らすとじわじわと涙が溢れてきた。


「将吾?どうしたの?」

「やっぱ…ダメかも…っ」


怖気ずいた俺の後ろから、状況を確かめようと心が腕を伸ばし扉を大きく開けて前に出た。

すると…


「健太!?」

「おぅ、お疲れ」

「りつさんも…二人知り合い…?」

「うん、高校の時の…な?」

「おう」

「へぇ、じゃあ将吾も…?」


何で…!?どういう事!?
アイツと心は知り合いなのか!?

でも、だからってりつとアイツが繋がってる理由にはならない。

俺が三人の様子を伺いながらそおっと扉から顔を出すと、りつが何食わぬ顔してこっちに向かって来るから、俺はそんなりつを突き放した。


「将吾っ、俺さ…っ」

「なんでっ?なんでこいつとお前が今でも一緒にいんだよっ!」

「いや、それより俺の話聞いて…っ!」

「それより…っ!?俺のことは切ったくせに、こいつとはずっと連絡取ってたって事…っ!?適当に誤魔化すなよ!」

「違う!さっきたまたま会っただけで…っ」

「嘘つきっ…」

「嘘じゃねぇって、信じてよ!」

「は…?俺の事疑ったくせに…っ、自分の事は信じろって言うの?」

「…っ」


当然だよな?そんな都合のいい話あるわけないだろ?

もう本当も嘘もりつの事も、りつの考えてる事も全部わかんないっ。

俺は自分の呼吸が乱れてることにも気が付かないくらい頭の中がぐちゃぐちゃで、揉め始めた俺らの間に慌てて入ってきた心に背中を摩られて、初めて苦しいって事に気が付いた。


「なにっ!?どうしたんだよ二人とも…っ」

「はぁっ…はぁっ…」

「仲直りするんじゃなかったのかよ…っ、りっちゃん」

「そのつもりだったよっ、けどこんなんじゃ話になんないから一旦落ち着けて…っ」


あぁそうか、二人でそうやって俺の話してたんだな…
どうしたらいいかって、りつはあいつに相談してたんだ。

そんなこと話せるくらい仲良かったんだな。

こんなん…か、そうだよな、話になんねぇよなこんな俺じゃ。

次から次へとネガティブな思考ばかりが浮かんできて、俺はもうりつの事が信じられなくなって、ついに最終手段に出てしまった。


「将吾…っ、取り敢えず帰ろ?な?」

「はぁ…っ、いやだっ、帰らない…っ」

「もぉっ、これ以上心配させないでよ…っ」


心配…?だったら俺を独りにしないでよ―――


「もう…いい、はぁ…っ、もう、りついらないっ…!」


そう言い放って俺は宛もなく、とにかく歩き出した。

行先なんてない、だけどこの場にいたくなくて足を前に出すけど、苦しくて涙で前が見えなくて直ぐに手を捕まれた。


「将吾っ!」

「はぁっ、は…なせ…っ」


だけど、そんな俺の手を掴んだのはりつではなく心だったんだ…


「待って!どこ行くの!?」

「どこでもいいだろ!?心には関係ないっ!」

「ダメっ、俺は将吾を独りにはさせないっ」

「心…っ」


なんで…
なんで俺の欲しい言葉をくれるのは、りつじゃなくて心なんだよ。

心が俺を引き止めなかったら、りつは俺を引き止めてくれた?

呆然と立ち尽くすだけのりつと目が合うと、りつは俺から目を背けた…

あ…もうダメなんだ…もう、戻れない…

そんなりつの姿に心はすかさず宣戦布告した。


「りつさん、将吾は俺が連れて帰ります」

「心っ、お前…っ、なぁりっちゃん!黙ってないで止めろよっ!なぁって!」


健太がりつを揺さぶっても、りつは動こうとはしなかった。

俺はきっと、また捨てられたんだ。

今度こそ、今度こそはお前の事なんて忘れてやる! 

りつなんて大っ嫌いだ!!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王道にはしたくないので

八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉 幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。 これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

処理中です...