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第一章 出会いと再会
再びの後悔
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「はぁ…」
本日、何度目のため息だろうか…
少し冷静になろうと風呂でシャワーを浴びてる間に、寝室はもぬけの殻になっていた。
将吾の携帯、バック、財布、上着もない…
これは本当に家を出てしまったんだなと確信すると、携帯を取りだし着信を確認するが案の定なんの音沙汰もない。
もしかしたらあいつ…本当に心のところに行ってしまったんじゃないだろうか…
なんて、そんな不安までもが押し寄せてくるが、そもそも追い詰めてしまったのは多分俺の方だ。
何よりも一番に考えてやらなきゃいけなかったのに、俺は自分のやりたいことを優先してしまった。
仕事が忙しいのは将吾の為なんだから、少しくらい我慢してくれたっていいじゃん…
なんて何も知らない将吾に押し付けても仕方ないのに、一緒にいるんだから少しくらいほっといても平気だなんて思ってたのが間違いだった。
将吾の言ってることはおそらく、嘘では無いと思う。
だけど将吾が心を許した心という男に俺は、どうしても敵わないような気がして、大人気ないほどに感情的になってしまった。
その結果、将吾が今度こそ本当に心の所へ行ってしまったとしても、それはもうただただ俺が不甲斐なかっただけ。
素直に謝れば許してくれるだろうか…
携帯の画面を開いてはどう謝ったらいいのか頭を悩ませ、再び画面を閉じる。
「はぁ…ダメだな…俺」
・・・・・
そして次の日、未だ着信もメッセージもない状況に気まずいよりも、心配が先立って何も考えずに電話をかけた。
コールは鳴るものの将吾は出てはくれない…
せっかくの連休が、こんな事になってしまったのは多分俺のせい。
迎えに行くがてら、早めに将吾のバイト先まで足を伸ばしてみた。
将吾の働く居酒屋の前まで来て、ちらっと中を覗きたくて店の前でウロウロしてると、突然後ろから声をかけられた。
「もしかして…りっちゃん…?」
「え?」
俺の事を、りっちゃんなんて呼ぶやつは一人しかいない。
まさか…と思って後ろを振り返ると、随分とオシャレな男の子が立っていた。
「わっ、やっぱりっちゃんだ!」
「けん…た?健太か!?」
「超久しぶりじゃん!!何してんだよこんなとこでっ…」
「しぃーっ!声でかいよ…」
「んだよ…ストーカーでもしてんの?」
「ちっげぇよ…っ、ちょっと知り合いがさ…」
「え?この店に知り合いいんの?」
「うん…まぁ」
「へぇ…ちょっと話さね?久々だしさ」
「あ、うん…」
将吾の仕事が終わるまで、ここでウロウロしてるよりはマシだと思い、誘われるがまま向かいの店に入った。
ちょうど居酒屋の様子が見えるし、将吾の仕事が終わるまで健太と話しながら待つことにした。
高校生の時のような青臭さが抜け、髪も伸び随分と垢抜けて、今どきの大学生って感じの健太を見てると、オシャレもままならず、生活していくだけでいっぱいいっぱいだった将吾との違いに少し胸が痛む。
そして昔の懐かしい話から健太の大学の話、昔のように女の話なんかをしてた時、ふっと健太の表情が曇った。
「なぁ、りっちゃんの知り合いってどんな奴?」
「あぁ、覚えてっかなぁ、保健室によく来てた将吾って…」
「将吾…?あっ、夏川将吾っ!?」
「そうそう、お前よく喧嘩してたよな」
「あいつが突っかかってくるからさぁ…ってか、辞めてからもずっと仲良かったの?」
「いや、偶然再会してさ、それで…」
それで、今付き合ってる…って事まではさすがに言い出せずに言葉を詰まらせると、健太はそこにあまり興味がなさそうにさらっと聞き流された。
とは言え恐らく、あの頃の俺と将吾の関係に薄々気がついてたとは思うのだけれど…
「ふぅ~ん、そっか…ところでさ、りっちゃん」
「ん?」
「俺さ、好きなやつがいんの」
「へぇ、どんな子?」
「大学の同級生」
「写真とかないの?見せてよ」
「いいけどさ…冗談とかじゃないから」
「ん?どういう事…?」
差し出された携帯の画面を覗き込むと、そこには健太と見た事のある男の子のツーショット写真。
この写真のどこにも女の子はいない…
という事は健太の好きな人って…?
「お前…こいつのこと好きなの…?」
「うん…冗談とかじゃないからって言ったじゃん」
慌てて携帯をしまうと、顔を赤らめて恥ずかしそうに目を逸らす健太に、本気なんだってことが伺える。
だけどそれ以上に驚いたのはその相手だ。
「その子、将吾と同じバイト先の子だろ…?」
「りっちゃん知ってるの?」
「知ってるも何も…っ」
「俺さ、最初店の前でりっちゃん見かけた時、もしかしてりっちゃんがあいつの好きな人なのかと思ったんだよ。だからりっちゃんの知り合いがあいつじゃないってわかって正直ホッとした…けど俺わかっちゃったわ…心の好きな人…」
寂しそうに視線を落とす健太の気持ちが、今の俺には痛いほどわかる。
俺もそうだから…
自分の好きな人の好きな人がどんなやつなのか、自分はそいつに勝てるのか、なんでそいつの事、一瞬でも好きになったのか…
俺じゃない誰かに惹かれて欲しくないって気持ち。
「心がさ…俺に言うんだよ。歳上なんだけど守りたくなるような人だって。ほっといたら消えちゃいそうでほっとけないってさ…それって夏川先輩の事だろ…」
好きな人から好きな人の話をされるなんて、俺だったら耐えられない。
健太の気持ち、心には届いてないんだろうか…
「心はお前の気持ち、知らないのか?」
「知ってるわけねぇじゃん、言えねぇよ…親友だもん」
親友…か。
自分の気持ちを吐き出してしまったら、親友であることすら難しくなってしまうかもしれない。
そう思ったら、今のままがいいって思うのが普通だよな…
「苦しいな…」
「まぁね、けど相手が夏川先輩じゃなぁ…いいの?りっちゃんはこのままでさぁ…」
「えっ…」
「りっちゃん夏川先輩こと好きなんじゃないの?」
あ、そうか、健太は俺らが付き合ってること知らないから、単に俺が将吾を追っかけてると思ってるのか。
そりゃあいいわけないだろ、俺だってどうにかしたくてここまで来たんだ。
そもそも将吾は俺んだ!
何で心に取られる前提なんだよ。
「好きだよ、そもそもあれは俺のだし、心には将吾に手を出すなって言ってある」
「知っててここでバイトさせてんの?自信あるんだな…」
「そんなんじゃねぇよ…心配だから来てんじゃん」
「あぁ、なるほど。だったらさっさと諦めさせろよ」
「それが心のやつ、全然諦めてくんねぇし…今俺、将吾と喧嘩してて…」
「はぁ!?さっさと仲直りして引き離せよっ!このままじゃ二人がくっつくのも時間の問題じゃんっ!夏川先輩なら寂しがり屋だから優しい方に簡単になびくだろっ」
全くもって健太の言う通りだ…
このままじゃ本当に心に取られかねない。
ようやく自分の置かれてる状況に本気で危機感を感じると、俺は健太に協力を求めた。
「だよな…そうだよな…っ、健太ぁどうしたらいい!?」
「あ!?さっさと謝ってこいよ!どっちが悪いのか知らねぇけどさぁ…謝ったもん勝ちだろ?」
悪いのは俺だ、俺が完全に悪い!
もうここはマジで謝り倒して、一先ず将吾を家に連れて帰ろう。
じゃないと、本気で将吾が俺から離れてっちゃう…
守るとかなんとか言ってたけど、そんな事よりなにより、ただ単純に俺には将吾が必要でそばにいて欲しい、ただそれだけなんだ。
将吾のバイトが終わる時間に合わせて向かいの店から出ると、居酒屋の裏口に回り健太と話しながら将吾が出てくるのを待った。
本日、何度目のため息だろうか…
少し冷静になろうと風呂でシャワーを浴びてる間に、寝室はもぬけの殻になっていた。
将吾の携帯、バック、財布、上着もない…
これは本当に家を出てしまったんだなと確信すると、携帯を取りだし着信を確認するが案の定なんの音沙汰もない。
もしかしたらあいつ…本当に心のところに行ってしまったんじゃないだろうか…
なんて、そんな不安までもが押し寄せてくるが、そもそも追い詰めてしまったのは多分俺の方だ。
何よりも一番に考えてやらなきゃいけなかったのに、俺は自分のやりたいことを優先してしまった。
仕事が忙しいのは将吾の為なんだから、少しくらい我慢してくれたっていいじゃん…
なんて何も知らない将吾に押し付けても仕方ないのに、一緒にいるんだから少しくらいほっといても平気だなんて思ってたのが間違いだった。
将吾の言ってることはおそらく、嘘では無いと思う。
だけど将吾が心を許した心という男に俺は、どうしても敵わないような気がして、大人気ないほどに感情的になってしまった。
その結果、将吾が今度こそ本当に心の所へ行ってしまったとしても、それはもうただただ俺が不甲斐なかっただけ。
素直に謝れば許してくれるだろうか…
携帯の画面を開いてはどう謝ったらいいのか頭を悩ませ、再び画面を閉じる。
「はぁ…ダメだな…俺」
・・・・・
そして次の日、未だ着信もメッセージもない状況に気まずいよりも、心配が先立って何も考えずに電話をかけた。
コールは鳴るものの将吾は出てはくれない…
せっかくの連休が、こんな事になってしまったのは多分俺のせい。
迎えに行くがてら、早めに将吾のバイト先まで足を伸ばしてみた。
将吾の働く居酒屋の前まで来て、ちらっと中を覗きたくて店の前でウロウロしてると、突然後ろから声をかけられた。
「もしかして…りっちゃん…?」
「え?」
俺の事を、りっちゃんなんて呼ぶやつは一人しかいない。
まさか…と思って後ろを振り返ると、随分とオシャレな男の子が立っていた。
「わっ、やっぱりっちゃんだ!」
「けん…た?健太か!?」
「超久しぶりじゃん!!何してんだよこんなとこでっ…」
「しぃーっ!声でかいよ…」
「んだよ…ストーカーでもしてんの?」
「ちっげぇよ…っ、ちょっと知り合いがさ…」
「え?この店に知り合いいんの?」
「うん…まぁ」
「へぇ…ちょっと話さね?久々だしさ」
「あ、うん…」
将吾の仕事が終わるまで、ここでウロウロしてるよりはマシだと思い、誘われるがまま向かいの店に入った。
ちょうど居酒屋の様子が見えるし、将吾の仕事が終わるまで健太と話しながら待つことにした。
高校生の時のような青臭さが抜け、髪も伸び随分と垢抜けて、今どきの大学生って感じの健太を見てると、オシャレもままならず、生活していくだけでいっぱいいっぱいだった将吾との違いに少し胸が痛む。
そして昔の懐かしい話から健太の大学の話、昔のように女の話なんかをしてた時、ふっと健太の表情が曇った。
「なぁ、りっちゃんの知り合いってどんな奴?」
「あぁ、覚えてっかなぁ、保健室によく来てた将吾って…」
「将吾…?あっ、夏川将吾っ!?」
「そうそう、お前よく喧嘩してたよな」
「あいつが突っかかってくるからさぁ…ってか、辞めてからもずっと仲良かったの?」
「いや、偶然再会してさ、それで…」
それで、今付き合ってる…って事まではさすがに言い出せずに言葉を詰まらせると、健太はそこにあまり興味がなさそうにさらっと聞き流された。
とは言え恐らく、あの頃の俺と将吾の関係に薄々気がついてたとは思うのだけれど…
「ふぅ~ん、そっか…ところでさ、りっちゃん」
「ん?」
「俺さ、好きなやつがいんの」
「へぇ、どんな子?」
「大学の同級生」
「写真とかないの?見せてよ」
「いいけどさ…冗談とかじゃないから」
「ん?どういう事…?」
差し出された携帯の画面を覗き込むと、そこには健太と見た事のある男の子のツーショット写真。
この写真のどこにも女の子はいない…
という事は健太の好きな人って…?
「お前…こいつのこと好きなの…?」
「うん…冗談とかじゃないからって言ったじゃん」
慌てて携帯をしまうと、顔を赤らめて恥ずかしそうに目を逸らす健太に、本気なんだってことが伺える。
だけどそれ以上に驚いたのはその相手だ。
「その子、将吾と同じバイト先の子だろ…?」
「りっちゃん知ってるの?」
「知ってるも何も…っ」
「俺さ、最初店の前でりっちゃん見かけた時、もしかしてりっちゃんがあいつの好きな人なのかと思ったんだよ。だからりっちゃんの知り合いがあいつじゃないってわかって正直ホッとした…けど俺わかっちゃったわ…心の好きな人…」
寂しそうに視線を落とす健太の気持ちが、今の俺には痛いほどわかる。
俺もそうだから…
自分の好きな人の好きな人がどんなやつなのか、自分はそいつに勝てるのか、なんでそいつの事、一瞬でも好きになったのか…
俺じゃない誰かに惹かれて欲しくないって気持ち。
「心がさ…俺に言うんだよ。歳上なんだけど守りたくなるような人だって。ほっといたら消えちゃいそうでほっとけないってさ…それって夏川先輩の事だろ…」
好きな人から好きな人の話をされるなんて、俺だったら耐えられない。
健太の気持ち、心には届いてないんだろうか…
「心はお前の気持ち、知らないのか?」
「知ってるわけねぇじゃん、言えねぇよ…親友だもん」
親友…か。
自分の気持ちを吐き出してしまったら、親友であることすら難しくなってしまうかもしれない。
そう思ったら、今のままがいいって思うのが普通だよな…
「苦しいな…」
「まぁね、けど相手が夏川先輩じゃなぁ…いいの?りっちゃんはこのままでさぁ…」
「えっ…」
「りっちゃん夏川先輩こと好きなんじゃないの?」
あ、そうか、健太は俺らが付き合ってること知らないから、単に俺が将吾を追っかけてると思ってるのか。
そりゃあいいわけないだろ、俺だってどうにかしたくてここまで来たんだ。
そもそも将吾は俺んだ!
何で心に取られる前提なんだよ。
「好きだよ、そもそもあれは俺のだし、心には将吾に手を出すなって言ってある」
「知っててここでバイトさせてんの?自信あるんだな…」
「そんなんじゃねぇよ…心配だから来てんじゃん」
「あぁ、なるほど。だったらさっさと諦めさせろよ」
「それが心のやつ、全然諦めてくんねぇし…今俺、将吾と喧嘩してて…」
「はぁ!?さっさと仲直りして引き離せよっ!このままじゃ二人がくっつくのも時間の問題じゃんっ!夏川先輩なら寂しがり屋だから優しい方に簡単になびくだろっ」
全くもって健太の言う通りだ…
このままじゃ本当に心に取られかねない。
ようやく自分の置かれてる状況に本気で危機感を感じると、俺は健太に協力を求めた。
「だよな…そうだよな…っ、健太ぁどうしたらいい!?」
「あ!?さっさと謝ってこいよ!どっちが悪いのか知らねぇけどさぁ…謝ったもん勝ちだろ?」
悪いのは俺だ、俺が完全に悪い!
もうここはマジで謝り倒して、一先ず将吾を家に連れて帰ろう。
じゃないと、本気で将吾が俺から離れてっちゃう…
守るとかなんとか言ってたけど、そんな事よりなにより、ただ単純に俺には将吾が必要でそばにいて欲しい、ただそれだけなんだ。
将吾のバイトが終わる時間に合わせて向かいの店から出ると、居酒屋の裏口に回り健太と話しながら将吾が出てくるのを待った。
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