こじらせ男子は一生恋煩い

むらさきおいも

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第一章 出会いと再会

りつの嫉妬

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居酒屋を休んでる間にりつの住む家に引っ越すことになった俺は、最後の荷物の整理をしていた。

とは言え、荷物なんてそうなくてりつが用意してくれたボストンバッグに殆どが納まってしまった。


「ほんっと、荷物少ねぇな」

「楽でいいじゃん」

「家具もないしな…これで終わりか?」

「うん」


そしてりつが運転する車に乗り込み、りつの家に向かった。

本当にこれでよかったんだろうか…

りつと一緒に暮らせることは嬉しいし、経済的な不安が少しでも軽減できるなら、あんな事もうしなくていいならその方がいい。

だけど、りつはそれを続けるんだろう…
それだけがやっぱりどうしても引っかかった。

りつの家に着いて荷解きを開始、と言っても大したことはない。
俺の為にと用意してくれたスペースに服を掛け、小さな衣装ケースに服を詰め込んでいくだけの事。

その時だった…


「ん?これ…お前の?」

「あっ…えっと…」


りつが取り出したそのシャツは、心が前に家に置いていったもの…

なんでりつがそんな風に確認したのか俺には分からなくて、今更自分の物だと嘘もつけずに言葉に詰まってしまった。


「へぇ、そういう人…いたんだ…」

「や、違う…っ」

「んじゃ、誰の?こんなハデハデなの…お前着ないだろ?」


そうか、そうだよな。
りつの服の趣味を散々派手だって言ってたから、この派手なシャツが俺の物では無い事は、りつになら分かるか。

バレてしまっては仕方ない…
ただ、変な勘違いをされては困るし、ここは適当に流しておきたいところだ。


「友達の…」

「へぇ、友達ねぇ…」


なんとも言えない重たい空気に、俺は何とか変な疑いをかけられないようにと考えるが、言い訳のように何かを口にする方がわざとらしいだろうと、そのシャツをりつから奪い取って衣装ケースに適当に突っ込んだ。


「将吾友達いたんだな…」

「当たり前だろ?友達くらいいるよ…っ」

「ふぅ~ん、どんな友達?どういう子?」

「なっ、そんなの普通の友達で普通の子に決まってんだろ…?」

「ちゃんと教えてよ…それとも何かあるの?その子と…」


ないよ、心とは何も…って言いたいけどそれは嘘だ。

りつと再会する前の話だ、そういう事があったって別に問題では無いけれど、でも付き合ってた訳でもないし、あえてそういう人がいたなんて言いたくもない。

だけど、バイトを続けてる限り、りつが心の存在に気が付く日が来るかもしれない。

後から色々バレるよりは少し話しておいた方がいいかもと思って、仕方なく心の話をすることにした。


「バイトの後輩…」

「居酒屋の?」

「うん…」

「へぇ…それで?どういう関係?その後輩と…」

「…っ、だから心は後輩で友達だって言ってんだろっ?」

「心…っていうんだぁ…」

「そぅ、だけど…っ」

「家に来たんだ?」

「家くらい、別に来るだろ…友達なんだから…」

「ふ~ん」


俺に友達がいるのってそんなに変か?
それとも心に対する嫉妬?

りつってそんなに嫉妬深かったっけ…

そっからは荷解きが終わった後も、事ある毎に心の事を根掘り葉掘り聞かれた。


「ねぇ、その心って子は将吾の事好きなの?」

「…っ、知らねぇよ…友だちとしか思ってねぇだろ」

「そうかぁ?本当になんも無い?」

「しつこいなぁ…じゃあ、あるって言ったらどうすんの?」

「…バイト行かせたくないな」


変に感の鋭いりつを丸め込むのに一苦労。

否定し続ければあまりにも疑うもんだから、わざと煽ってみれば今度はしょんぼりと落ち込む始末…

確かに、これがもし逆の立場だったら、俺も多分気になって仕方なかったと思う。
だけど今居酒屋のバイトを辞める事は出来ないから、自分自身もしっかりと心は友達だと割り切って、りつに心配かけないようにしないと…


「本当になんでもないから…俺にはりつだけだから…」

「そ…?ならいいけどさ…」


ぎゅっとりつにしがみつくと、頭をポンポンと撫でられやっと許されたような気がして、ほっと胸をなでおろした。

だが次の瞬間、りつが俺の耳元で囁いた言葉に、りつの本当の嫉妬深さを思い知らされたのだった。


「それ、早く返して来てね…」
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