こじらせ男子は一生恋煩い

むらさきおいも

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第一章 出会いと再会

再会

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「かの…ち…」

そう小さな声で呟くと、彼と目が合い向こうも俺に気がついたと同時に、力が抜けて膝から崩れ落ちた。


「しょ…ご…?将吾っ!?おいっ、将吾だろ!?何でこんなとこに…っ、どぉしたんだよっ!将吾っ!」


間違えない…この声、この感触…

加野っちだ…

だけどもう目も開けられなくて、俺は夢の中にいるようで、耳元で聴こえる声も、頭を撫でてくれるその手も、きっと全部俺の妄想だって思った。

だって、先生がこんな所にいる訳ないだろ…?


「ん…あれ…」

「将吾っ!?大丈夫か!?」

「え…なんで…っ」

「俺の目の前で倒れて…それで…っ」

「加野っち…?加野っちなの…?」

「あぁそうだよ、久しぶりだな…」


髪の毛、金髪だ…眼鏡もしてない…

でも…この顔、この声、匂い…全部俺が好きで好きで堪らなかった加野っち…

嘘みたい…

あの時みたいに俺の手を握る加野っちの手は、何故か少し震えてた。


「加野っちだ…加野っちに会えた…」

「俺だって信じらんねぇよ、こんなとこで。一体どうしたんだよ、傷だらけじゃん…っ」

「ん…客に無理やり…」


俺、何言ってんだよ…
やっと会うことが出来たってのに、加野っちに何を話そうとした…?

クラクラしてて頭が回らない。

加野っちは黙ったまま少し驚いた表情で、でも変わらず優しく俺の頭を撫でてくれる。


「ねぇ、ここ…どこ?」

「あぁ、俺が働いてる店…」

「…そぅ」


働いてる…?加野っちが…?

学校辞めてからこんな所にいたのかよ…っ。

分かるよ、部屋の中見渡せばここがどんなところだかさぁ。

だって、同じじゃん…俺と…。

再び出会えたこと、まさかこんな近くにいたこと、そして何より驚いたのは、俺と同じ業界で働いてたってこと。


「ゆっくりしてていいから、少し元気になったら家、帰れよ…」

「…またそうやって、俺を突き放すの…?」

「えっ…」

「せっかく会えたのに…俺っ…ずっと加野っちの事…っ」


感情が溢れて苦して、頭がグルグルして気持ち悪い…

つい昨日までは心に抱かれて、さっきまで気持ち悪いオヤジに犯されてたのに、今は目の前にいる大好きだった人に俺はすがろうとしてる。

もう昔の俺とは違う、きっと加野っちも…


「はぁ…ふぅ…っ、んぅ…っ」

「…っ、大丈夫か?将吾…っ!?」

「吐きそぅ…っ」

「…っ!?ちょっと我慢して…っ!あぁ桶っ」


バタバタと桶を取りに行く加野っち…

手渡されたそれは、明らかにローションを溶かすために使うやつ。

俺の背中を擦りながら額に手を当て熱を確認されると、風俗店に居るのに保健室にいるような感覚に胸が熱くなって、余計に苦しくて涙が出てくる…

俺はここでする仕事が何なのか知ってる。

変わっちゃったんだ、二人とも…
何もかも…


「帰る…っ」

「え…っ」

「もう、帰る…っ」


ベットから足を一方踏み出すと、ぐにゃりと地面が揺れたみたいなって平衡感覚が保てず、俺はその場に倒れ込んだ。


「将吾っ!」

「離せ…っ」

「やっぱダメ…っ、帰せない…」

「いいよっ、帰るって言ってんじゃん…っ!離せって!」

「帰るなら一緒に帰ろ…な…っ」


加野っち…泣いてるの…?

一緒に…?どこに帰るの…?

ねぇ、加野っち…
俺はあの日、お前に捨てられたんだよな?
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