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第一章 舞い降りた天使
両親とご対面(冬弥)
しおりを挟むあれから俺の体調もすっかり良くなり週末を迎え、本日やっと両親が帰ってくる。
そしてそれに合わせて、千秋の家に預けていたゆきも戻ってくる。
俺もゆきに会うのは久しぶりだ。
というのも俺が千秋の家に行く事に対して春人があまりいい顔をしないから、様子を見に行こうかなぁとは思っていたものの、今日の今日まで結局行くことは無かったのだ。
まぁほんの何日かだけどね。
そしてお昼過ぎ、両親が帰ってくるより先に千秋の車が到着して玄関がガラガラっと開く音がしたから重たい腰をあげると、それと同時に他の部屋のドアが一気に開き、階段を降りて行く足音がバタバタと聞こえる。
空も桜も久しぶりのゆきの帰宅が嬉しいようだ。
俺はそんな二人の後ろからのんびりと階段を降りていくと、どうやら香月も一緒に来たのか玄関中に賑やかな声が響き渡っていた。
「ただいまぁ!」
「いや、何で香月がただいま?」
「かづく~ん、ゲームしよ~!」
「おぉ、桜!しようしよう!」
一体こいつは何しに来たんだ?と寝癖の頭を掻きながらジャージ姿のまま出迎えると、空は千秋からゆきを受け取りそそくさとリビングに移動して行った。
「よっ」
「おぅ、色々ありがとな」
「俺は別になんも、それよりちゃんと休めた?」
「お陰様で」
「なら良かった」
俺より年下の癖に背の高い千秋。
高い位置から頭を撫でられるとやっぱちょっと照れくさくなって、思わずその手から頭をどかした。
この場に春人がいなくて本当に良かった…
「あ、あとこれうちのママから」
「ん?なになに?」
「離乳食?作り置きしてたやつ良かったら使ってって」
「おぉっ!助かる!サンキュー♡」
保冷バッグに入ったタッパーを受け取ると、溶けない内にとリビングを抜けて冷凍庫にそれをしまった。
そして久々のゆきとのご対面。
彼女は俺を忘れてはいないだろうか…
香月の胡座の中に寄りかかりながら、ちょこんと座るゆきに顔を近付け名前を呼ぶ…
「ゆーき♡」
「冬弥キモイって~!」
「おまっ、感動のご対面だぞ?」
香月にからかわれてるって事を知らずか、ゆきはキャッキャと笑いながら俺の顔を摘むから周りのみんなが大爆笑。
痛い痛いと喚きながらも喜ぶゆきが可愛くて、痛さを我慢しながら久々のご対面を済ませた。
そしてしばらくすると、玄関から愛しい声がする…
俺がその声に反応したと同時に、ゆきもキョロキョロと辺りを見回している。
するとひょっこり現れた春人にゆきが手を伸ばし、あーあーと声を上げた。
ゆきを見つけた春人は、脇目も振らず一目散にゆきの元に駆け寄りゆきを抱き上げた。
そしてゆきを大事そうに抱きしめる春人の姿に、俺の頭の中はお花畑でいっぱいだった…
「ちょっと重くなってね?」
「え、そう?」
こんなやり取りでさえ俺は嬉しくて、みんなの前なのに全くニヤニヤが止まらない。
そしてまたまた玄関からただいまーっと大きな声が響くと、うちの両親がご帰宅。
両親は荷物をその場に下ろすと、今度はゆきには目もくれず両手を広げ、空と桜に抱きついた。
羽交い締めにされてる二人はちょっと迷惑そうにしてるが、なんだかだかんかだ嬉しそうで、流石に俺は来ないだろうと油断していたら、ママもパパも苦しいくらいに抱きしめてきて本当にこっちが恥ずかしくなる…
家族のスキンシップが終わった後、パパとママは大喜びで赤ちゃんを抱き上げ、さっそくお世話をし始めた。
この人達は本当に子供が好きなんだよなぁ。
そしてどっから買ってきたのか、女の子用の洋服がトランクの中から大量に出てきて、俺らへのお土産よりそっちなんだ…と、この子に会う事を本当に楽しみにしてた事が伺える。
そして何よりそれに反応したのが春人で、家にある肌着なんかより遥かに可愛い洋服に目をキラキラさせながらこれ可愛いっ!
これ絶対似合うっ!とうちの両親と盛り上がっている。
あぁ…なんて幸せな空間なんだ…
「春人デレデレだねぇ」
「いいお母さんになれると思う…」
ほんわかした雰囲気の中に突如として落とされた桜のつぶやきに、そこにいたみんなが目を丸くした。
子供って分かってるのか分かってないのか、急にドキッとするような事言い出すよね。
多分深い意味は無いんだろうけど…
まぁ確かにこれまでの春人を見てると、俺的にも実は子煩悩なんじゃないか?と思っている。
それともゆき限定なのか?
「春人は本当にゆきの事好きだなぁ?」
「うん…好き」
いつもそう簡単に『好き』なんて言わないのに、あまりの即答になんか嫉妬のようなものが渦巻いてきて、凄く悔しくなってきた…
俺のことも好きって言って欲しいっ…
「ふぅん…俺より?俺より好きなの?」
「ばっ、おま、親の前でっ…////」
「なになに!?春くん、冬弥の事好きなのぉ!?」
香月は目をキラキラさせながら興味津々に春人に詰寄るが、春人の顔は真っ赤。
「すぅっ…好きじゃっ…////」
「え~!?俺は好きだよ~♡冬弥ぁ~♡」
春人の返事なんか聞いちゃいない香月がベタベタと俺にまとわりつき始めると、春人はちょっと御立腹な様子…
いつまでもテンションの高い香月を落ち着かせ、春人に擦り寄るとあっちいけと言わんばかりに思いっ切り抵抗された。
「なぁ…恥ずかしがんなよ。別にいいだろ?」
「よくないっ////」
みんな相変わらず仲良いわねぇ、なんてうちの親はこんなんだから全然その辺なんとも思わないし寧ろウエルカムなのだ。
だから俺も別に隠したりはしない。
「あぁ違う違う、そういうんじゃなくて俺ら付き合ってんの」
俺のトンデモ発言に驚いてるのは千秋と春人本人くらいで、香月は何故か盛り上がってるし空と桜は、あぁやっぱりそうだったんだ…って感じの反応。
さすがうちの子…そしてママはと言うとニコニコ笑いながら
「あらぁ春人くん、冬弥なんかでいいの?よろしく頼むわね」
だって笑
あっけに取られた春人は真っ赤になりながらも
「あ…はいっ///」
なんて身の締まるよう返事しちゃって、俺の方がお嫁にでも行くのかと思ったわ。
「は?なぁ!?どういう事だよ。香月お前知ってたの?」
「ん?しらないよ?」
「はいはい、千秋も香月も後で説明すっから!なぁ?」
俺の問いかけにはそっぽを向いて全然目を合わせてくれないし、千秋はだいぶ困惑気味だし、俺らの茶番に飽きたのか空と桜は自分の部屋に戻って行った。
そしてその後、改めて香月と千秋に俺らの関係を説明すると、二人は茶化すことなく応援してくれた。
春人は顔を真っ赤にして、ずっと黙ったまま俯いていたけどね。
そして千秋と香月が帰った後、ゆきを両親に任せて俺らは二階の部屋でくつろいでいた。
「なぁ…お前の親マジで寛大だな」
「そお?」
「だって普通さ?自分の息子が男と付き合ってるなんて言ったら卒倒すんだろ…」
「いや、だって本当の親じゃねぇしさ…平気なんじゃん?」
「いや、そういうんじゃねぇよ」
「そうか?」
「うん、あれは正真正銘お前の両親だよ。だってお前、めちゃくちゃ愛されてんじゃん」
「うん…確かにな…」
俺は本当の両親を知らない。
今の両親が本当の親じゃない事も物心ついた頃から知ってたから、ショックもなかったしそれが普通だった。
だけどどんなに優しくて良い人達でも、結局は他人なんだと思うとどこか冷めてた自分がいたんだ。
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