実らない恋だと思ってたのに!?〜小さな天使は僕らの恋のキューピットだった♡〜

むらさきおいも

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第一章 舞い降りた天使

入り込めない空気

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「おっ、春人!こっちこっち」

「お、おぅ…」

「久しぶりだなっ、春人!元気だった?」

「うん、まぁ…」

「あれ?春くん、何だかお疲れ?」


お疲れはお疲れだよ、何せ殆ど寝てないんだから。

てか千秋いるなら俺別にいらないじゃん。
今日も行くって俺、言ったよな?

心がささくれて余計にしんどくて…
もぉ、眠いし帰ろうかな…なんて思ってると、さっきまでご機嫌だった赤ちゃんが大きな声で泣き始めた。

俺はその声に反射的に動いて、スタスタとキッチンに向かいミルクを用意し始めた。

何だろ…たかが1日面倒を見ただけなのに染み付いてしまったこの感覚は…


「春人、俺やるから赤ちゃんお願い」

「あっ、え?」

「あの子春人が好きみたいよ?」

「えっ!?そんな、誰とか関係ないだろっ…///」

「あるある!千秋が困ってるから代わってやったら?」

「あ…うん…」


何だか冬弥に頼りにされてるみたいで少しむず痒い…

哺乳瓶を冬弥に渡してリビングに戻ると、泣き止まない赤ちゃんをどうにかあやそうと千秋が困り顔で苦戦している模様だ。


「おい春人ぉ、どうしたらいいの?助けてぇ…?」

「あ、うん…」


俺だってどうしたらいいのかわかんないけど、千秋から赤ちゃんを受け取り腕の中にすっぽりおさめると、さっきまでギャン泣きだった赤ちゃんが自分でも不思議なくらい徐々に落ち着きを取り戻していく。

すると丁度いいタイミングでミルクをフリフリしながら冬弥が戻ってた。


「おっ、少しはご機嫌になったな。春人の事好きだもんなぁ♡」


そう言いながら俺の目の前に立ち赤ちゃんを覗き込む冬弥にドキッとして、思わず目を逸らした先にはニヤニヤした空がいた。


「春くん照れてるぅ」

「て…っ、照れてねぇよっ///」

「春人っ、ボリューム…」

「あっ、うん…ごめん…っ///」

「ミルク飲むかぁ?」


冬弥が赤ちゃんに話しかけながらミルクをチラつかせると、手足をバタバタさせて哺乳瓶を掴み抱えるように飲み始めた。

ミルクを一気に飲み干すと恒例のゲップタイムを済ませ、一仕事終えた俺に千秋から拍手喝采を浴びる。

俺は恥ずかしくて仕方がなくて、思わず赤ちゃんを冬弥に任せた。


「春人?ご飯まだ?」

「うん」

「豚汁あるから食べる?俺らもう食べたからさ」

「あぁ、ありがと」


キッチンで少し温め直した豚汁をリビングに運んで、冬弥と千秋が座る対面に座る。

横の空のおふざけの相手をしつつ、豚汁を食べながら眺める目の前の二人はいつも通りといえばいつも通り…

赤ちゃんを抱く冬弥を優しい顔で見守る千秋も、嬉しそうに微笑み返す冬弥も、そんな全部いつも通りのはずの二人に俺の心はチクリと痛む。

別に深い意味は無いんだろうけど、この二人は昔から俺には分からない何かで繋がってて、それが羨ましくて仕方なかった。

仲が良いのは良い事なのに、それを俺は素直に喜べない。

高校の時だってそう…
本当は冬弥と同じ高校に行きたかったのに行けなかった俺と、余裕で冬弥と同じところに行った千秋。

それだって千秋が冬弥と同じところに行くって宣言して、追っかけてったんだから冬弥の事を本当に慕ってるのがわかる。

俺らは同じ中学からそれぞれ別々の高校に通うようになって、それでも冬弥は俺のところに来てくれたけど、2年になってからはいつも千秋が一緒だった。

それはそれで楽しかったけど、得体の知れないモヤモヤがいつもあって、一時は冬弥を無視して女に逃げた時期もあった。

だけど何でか暫くすると、俺の女はみんな冬弥の女になってて、何ヶ月もしない内に振られちゃったわ~とか言って冬弥は俺のところに戻ってくる…

あれは一体なんだったんだろう…

大人になっても俺らの関係はそんな感じで、俺はもう冬弥の代わりの女を作る事すら諦めた。

今日だって自分から乗り込んだくせに、目の前の二人を見てるのが辛くて居た堪れなくてもう帰りたいんだ。

その時、玄関のチャイムが鳴って扉が開く音がすると甲高い独特な声が響き渡った。
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