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第一章 舞い降りた天使
赤ちゃん
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俺の腕の中に収められたこの小さな赤ちゃんは、どんな事情があってここに置き去りにされたんだろうか…
力いっぱいに泣きじゃくるこの子を見て、さすがに赤の他人の俺でもそれを思うと少々心が痛んだ。
何となく勝手に手が動きトントンとあやしてみると、少しずつ泣き声が治まってくる…
再びクリクリの可愛いお目目と目が合うと、自然と目尻が下がり暖かい気持ちになった。
「おっ…泣き止んだ」
「ほんとだ…」
「可愛いねぇ…」
「うん…可愛いな…」
「あはっ…違う違う」
「え?何が?」
今の会話のどこが違うのか全く理解できなかった俺は冬弥に視線を向けると、やたらニヤニヤしていて何だか気味が悪い…
「いやぁ、めっちゃ蕩けてんじゃん…春人…」
「は?」
「可愛いなぁと思って…春人が♡」
「ば…っ、…んぅ」
悪態でもついてやろうと思ったけど、せっかく落ち着いた腕の中のこの子の手前キレることも出来ずに、恥ずかしい気持ちでいっぱいになりながらも言葉を飲み込んだ。
「あっ…見て春人、笑ったぁ」
「…可愛い」
「赤ん坊でもイケメンってわかんのかなぁ?」
「なんだよ、それ…」
「ふふぅん…イケメン春人くんの腕の中は落ち着きますかぁ?」
二度目の煽りにさすがに我慢のならなかった俺は、赤ちゃんの負担にならない程度に声を荒らげて反発した。
「へっ、変な事言うなよっ…冬弥っ////」
「だって本当の事だもん…なぁ~?赤ちゃんっ!」
「んぅ…もう…っ」
コイツは毎度毎度こうやって、俺の気持ちを知ってか知らずかヘラヘラしながら俺をからかって遊んでるんだ。
そもそもコイツの口から出てくる誘惑じみた言葉に意味なんかないんだから、イチイチ動揺なんてしなくたっていいのに…
そうだ…そうだろ?
だって昔から女の子にモテモテのお坊ちゃんに、俺の本当の気持ちなんてわかるはずないんだからっ。
俺のイライラが伝わったのか、再びぴえーんと泣き出した赤ちゃんに結局どうすることも出来ず、緊張して支えたままだった体はその形のまま硬直して痺れて動かない…
そんな俺とは対照的に、冬弥は赤ちゃんを躊躇無く軽々と持ち上げると、膨らんだお尻を触り何か納得したように赤ちゃんをベットに下ろし、ゴソゴソとベットの下からオムツを取りだしそれを俺に押し付けた。
「はいっ」
「はっ?」
「オムツ、おしり気持ち悪いって」
「なっ、やった事ねぇよっ…」
「はいはい、じゃあ見ててね」
冬弥は慣れた手つきで素早く赤ちゃんの洋服を脱がしていく。
へぇ…足の所にボタン付いてんのか…便利だな。
なんて感心していると、おしっこしたのが分かるように青くなるのを説明され、新しいオムツを下にセットするとペリペリとテープを剥がして使用済みの方を引っこ抜いた。
ここで判明したのが性別だ…
お目目がクリクリでまつ毛が長く可愛い顔をしているとは思っていたけど、やっぱり女の子のようだ。
余計に扱いがわからなくなってきた俺は、もうこの時点でもう既に見ていられない。
「清潔にしとかないとだから、しっかり拭いてあげてな」
「や…っ、…無理///」
「何言ってんだよ、赤ちゃんだろ?」
「わ、わかってるわっそんくらい!でも、無理…っ///」
「何度も見てんじゃん、今更恥ずかしがんなよ…」
「ば…っ、お前と一緒にすんなっ…!」
そりゃ俺だって女の子と付き合ったことくらいあるよ…
経験だって無いわけじゃない。
高校の時はそれなりにモテたし、大学まではそこそこ彼女だっていた。
だけど、お前みたいに軽いヤツと一緒にされたくは無い!
「ふはっ!けど俺、春人と大体同じの見てっけどなぁ…」
「そ、それはっ…お前が悪趣味だからだろっ!」
「まぁまぁ、いいじゃない。とにかく赤ちゃんは肌が敏感なんだから、ちゃんと拭くんだよ?わかった?」
「んぅ…わかった」
そして新しいオムツを付け使用済みのオムツにおしりふきを入れてクルクルっと丸めてテープで貼ると、それをオムツ専用ゴミ箱にポイッと捨てた。
ここまで実に華麗な手さばきだ…
これから夜の仕事に出かける奴のやる事とは思えない。
「あとミルクな、さすがに母乳は出ないから」
「だろうな…」
ちょっとごきげんになった赤ちゃんをベットに置いて、冬弥と二人でキッチンに向かうと哺乳瓶がいくつも並んでて、ここがつい最近まで保育所だった事を思い出す。
冬弥の家は、お寺でありながら保育所もやっていたのだ。
なので冬弥が手馴れているのは、まぁそのせいもあるのかもしれない。
そしてこの保育所にはあの子と同じ様に、赤ちゃんを置いていく人が数年に1回くらい現れる…
やっぱり育てますと言って戻ってきた人もいれば、そのまま行方をくらませ里親に出された子もいる。
この子がこの先がどうなるのかは、俺たちにもまだ分からない…
そしてキッチンで一通りの手順を教わりミルクを作り上げるが、コレを1人でやれと言われたらマジで無理だ…
混乱している俺を笑いながら、冬弥は粉ミルクを1回分ずつ丁寧に小分けにしておいてくれた。
幸いお湯もウォーターサーバーが完備されており、お湯の量さえ間違えなければ大丈夫そうだが、人肌程度の温度ってのがいまいちわかんない…
「なぁ…放っといて大丈夫なの?」
「おぅ、別にずっと付きっきりじゃなくても大丈夫。ベッドから落ちたりしないようにちゃんとしとけば、ちょっとくらい放置してても平気じゃん?」
「ふーん…そっか」
「あ、でも3時間置きにミルクあげてな?」
「3時間置き…うん、わかった」
「夜中もだぞ?」
「えっ!?夜中も!?」
「そっ!夜中も!」
「これ俺一人でやんの?」
「世のママはこれみんな一人でやってんだよ…尊敬だよな」
「いやまて、俺はママじゃないし、なんならパパでもねぇ…」
「まぁそう言うなよ…助っ人も呼んどいたし、もうすぐ空も帰ってくるからさ!…あ、あとアイツはいつも通り部屋に引き篭ってるけど何かあったら呼び出せ!何気に一番頼りになるかも!んじゃよろしく~」
冬弥は言いたい事だけ言って、出来上がったミルクと俺の不安な気持ちをマルっと置いてけぼりにして、そそくさと仕事に行ってしまった。
え、待って!?
ミルクってどうやってあげたらいいの!?
力いっぱいに泣きじゃくるこの子を見て、さすがに赤の他人の俺でもそれを思うと少々心が痛んだ。
何となく勝手に手が動きトントンとあやしてみると、少しずつ泣き声が治まってくる…
再びクリクリの可愛いお目目と目が合うと、自然と目尻が下がり暖かい気持ちになった。
「おっ…泣き止んだ」
「ほんとだ…」
「可愛いねぇ…」
「うん…可愛いな…」
「あはっ…違う違う」
「え?何が?」
今の会話のどこが違うのか全く理解できなかった俺は冬弥に視線を向けると、やたらニヤニヤしていて何だか気味が悪い…
「いやぁ、めっちゃ蕩けてんじゃん…春人…」
「は?」
「可愛いなぁと思って…春人が♡」
「ば…っ、…んぅ」
悪態でもついてやろうと思ったけど、せっかく落ち着いた腕の中のこの子の手前キレることも出来ずに、恥ずかしい気持ちでいっぱいになりながらも言葉を飲み込んだ。
「あっ…見て春人、笑ったぁ」
「…可愛い」
「赤ん坊でもイケメンってわかんのかなぁ?」
「なんだよ、それ…」
「ふふぅん…イケメン春人くんの腕の中は落ち着きますかぁ?」
二度目の煽りにさすがに我慢のならなかった俺は、赤ちゃんの負担にならない程度に声を荒らげて反発した。
「へっ、変な事言うなよっ…冬弥っ////」
「だって本当の事だもん…なぁ~?赤ちゃんっ!」
「んぅ…もう…っ」
コイツは毎度毎度こうやって、俺の気持ちを知ってか知らずかヘラヘラしながら俺をからかって遊んでるんだ。
そもそもコイツの口から出てくる誘惑じみた言葉に意味なんかないんだから、イチイチ動揺なんてしなくたっていいのに…
そうだ…そうだろ?
だって昔から女の子にモテモテのお坊ちゃんに、俺の本当の気持ちなんてわかるはずないんだからっ。
俺のイライラが伝わったのか、再びぴえーんと泣き出した赤ちゃんに結局どうすることも出来ず、緊張して支えたままだった体はその形のまま硬直して痺れて動かない…
そんな俺とは対照的に、冬弥は赤ちゃんを躊躇無く軽々と持ち上げると、膨らんだお尻を触り何か納得したように赤ちゃんをベットに下ろし、ゴソゴソとベットの下からオムツを取りだしそれを俺に押し付けた。
「はいっ」
「はっ?」
「オムツ、おしり気持ち悪いって」
「なっ、やった事ねぇよっ…」
「はいはい、じゃあ見ててね」
冬弥は慣れた手つきで素早く赤ちゃんの洋服を脱がしていく。
へぇ…足の所にボタン付いてんのか…便利だな。
なんて感心していると、おしっこしたのが分かるように青くなるのを説明され、新しいオムツを下にセットするとペリペリとテープを剥がして使用済みの方を引っこ抜いた。
ここで判明したのが性別だ…
お目目がクリクリでまつ毛が長く可愛い顔をしているとは思っていたけど、やっぱり女の子のようだ。
余計に扱いがわからなくなってきた俺は、もうこの時点でもう既に見ていられない。
「清潔にしとかないとだから、しっかり拭いてあげてな」
「や…っ、…無理///」
「何言ってんだよ、赤ちゃんだろ?」
「わ、わかってるわっそんくらい!でも、無理…っ///」
「何度も見てんじゃん、今更恥ずかしがんなよ…」
「ば…っ、お前と一緒にすんなっ…!」
そりゃ俺だって女の子と付き合ったことくらいあるよ…
経験だって無いわけじゃない。
高校の時はそれなりにモテたし、大学まではそこそこ彼女だっていた。
だけど、お前みたいに軽いヤツと一緒にされたくは無い!
「ふはっ!けど俺、春人と大体同じの見てっけどなぁ…」
「そ、それはっ…お前が悪趣味だからだろっ!」
「まぁまぁ、いいじゃない。とにかく赤ちゃんは肌が敏感なんだから、ちゃんと拭くんだよ?わかった?」
「んぅ…わかった」
そして新しいオムツを付け使用済みのオムツにおしりふきを入れてクルクルっと丸めてテープで貼ると、それをオムツ専用ゴミ箱にポイッと捨てた。
ここまで実に華麗な手さばきだ…
これから夜の仕事に出かける奴のやる事とは思えない。
「あとミルクな、さすがに母乳は出ないから」
「だろうな…」
ちょっとごきげんになった赤ちゃんをベットに置いて、冬弥と二人でキッチンに向かうと哺乳瓶がいくつも並んでて、ここがつい最近まで保育所だった事を思い出す。
冬弥の家は、お寺でありながら保育所もやっていたのだ。
なので冬弥が手馴れているのは、まぁそのせいもあるのかもしれない。
そしてこの保育所にはあの子と同じ様に、赤ちゃんを置いていく人が数年に1回くらい現れる…
やっぱり育てますと言って戻ってきた人もいれば、そのまま行方をくらませ里親に出された子もいる。
この子がこの先がどうなるのかは、俺たちにもまだ分からない…
そしてキッチンで一通りの手順を教わりミルクを作り上げるが、コレを1人でやれと言われたらマジで無理だ…
混乱している俺を笑いながら、冬弥は粉ミルクを1回分ずつ丁寧に小分けにしておいてくれた。
幸いお湯もウォーターサーバーが完備されており、お湯の量さえ間違えなければ大丈夫そうだが、人肌程度の温度ってのがいまいちわかんない…
「なぁ…放っといて大丈夫なの?」
「おぅ、別にずっと付きっきりじゃなくても大丈夫。ベッドから落ちたりしないようにちゃんとしとけば、ちょっとくらい放置してても平気じゃん?」
「ふーん…そっか」
「あ、でも3時間置きにミルクあげてな?」
「3時間置き…うん、わかった」
「夜中もだぞ?」
「えっ!?夜中も!?」
「そっ!夜中も!」
「これ俺一人でやんの?」
「世のママはこれみんな一人でやってんだよ…尊敬だよな」
「いやまて、俺はママじゃないし、なんならパパでもねぇ…」
「まぁそう言うなよ…助っ人も呼んどいたし、もうすぐ空も帰ってくるからさ!…あ、あとアイツはいつも通り部屋に引き篭ってるけど何かあったら呼び出せ!何気に一番頼りになるかも!んじゃよろしく~」
冬弥は言いたい事だけ言って、出来上がったミルクと俺の不安な気持ちをマルっと置いてけぼりにして、そそくさと仕事に行ってしまった。
え、待って!?
ミルクってどうやってあげたらいいの!?
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