ミントバニラ

第三章

奈落の底

夢なのか、目が覚めたのか分からないけど、目の前には白い天井が広がり、辺りからは機械の音が沢山聞える。

痛みもよくわからないけど、動かそうとしてもどこも動かない…

でも何より咲也はどこにいるのか、咲也の側に行きたかった。

誰かを呼びたいのに声が出ない、そして段々と身体中に痛みが走り耐えられなくなって息が荒くなる。


「はぁっ、はぁっ…咲也っ、咲也…っ」

「長谷川さん！先生っ、長谷川さん目を覚ましましたっ！」

「よく意識が戻ったな…でもまだ安心はできない……」


先生の声が遠くなって聞きたかったことは何一つ聞けず、俺はまた意識を手放した。


・・・・・


そして数日が経ち、俺は再び意識を取り戻した。
声が出せるようになってまず最初に確認したのは、咲也の所在。

咲也は生きていた。
だけど未だにICUに入ったまま、意識は戻らないらしい…

俺も手は動かせるものの足をだいぶ負傷したらしく、寝たきりのまま毎日咲也の様子を看護師さんから聞いていた。

そして2週間経っても一ヶ月経っても、咲也が目を覚ましたとは誰も言ってくれなくて、動けないのがもどかしくて、本当は死んでるのに嘘をつかれてるんじゃないかと、俺もそっち側に行きたいと毎日うなされた。

そしてやっと、俺は車椅子を使って外に出ることができるようになった頃、咲也のいるICUに入ってもいいとの許可が降りた。

俺は覚悟を決めて咲也の元へ向かうと、そこには沢山のチューブと機会に繋がれ静かに眠る咲也が居た。


「咲也…っ、咲也ぁ…」


何度呼びかけても返事は無い…
本当にただ静かに、機械に生かされているような…そんな感じ。

それでも咲也は生きてる…
そう思ったら俺は死ねないと思った。

だけど、いつまで待ったら目が覚めるの？
目が覚めたとして、咲也は前のように元気になれるの？

そうじゃなかったら…
俺はそれに耐えられる？

いや、それでもいい…目を覚ましてよ、咲也…っ！

俺を…一人にしないで―――