ミントバニラ

第三章

3年後…

島に来てから３年の月日が流れた…
今日は俺の25回目の誕生日だ。

最初の2年は何度も闇に飲み込まれそうになり、本当にもがき苦しみながら咲也に支えられて生きていたけど、今では大分落ち着いて、生活のために働いたりしてるうちに何となく昔の記憶も薄れていって、ここ1年くらいはあまりそういうことも無くなっていた。

朝起きて咲也が居ないことにも驚きはしない。
あいつは今船に乗って働いてるから朝が早いんだ。
俺は島のじじばばの為に、ルート配送とか買い物の手伝いなんかをしてる。

そう、こっちに来て車の免許も取ったんだ。

みんな俺を本当の孫のように可愛がってくれて、この島の人達に生かされているようなもん。
俺が死んだら泣く人が増えちゃったから…

お日様がもう高い位置にあるって事は、そろそろ咲也が帰ってくるはず。
休日の為、まだ寝ぼけまなこな俺は欠伸をしながら窓を開けると、海風にのってあの匂いが鼻を掠めた。

ミントバニラの香り…

咲也が帰ってきたんだ。

３年経っても咲也に対する気持ちは変わらなくて、むしろ大好きで仕方ないくらい。
咲也はそんな俺を本当はどう思ってるのか分からないけど、いつも満更でもなさそうにニヤニヤしながら頭を撫でてくれるから、きっと同じ気持ちでいてくれるって信じてる。

俺はそっとカーテンを閉じて、駆け寄りたい気持ちを抑えながら、咲也が家に入ってくるのを大人しく待っていた。


「ただいまぁ」

「おかえり」

「おぉ、起きてたか」

「うん、今起きたとこ。仕事お疲れ様」

「おう…なんかあった…？」

「ん？なんも？…なんで？」

「今日は随分と、こう…落ち着いてるというか…」

「うん、だってもう25だもん」

「えっ？…あっ！！今日何日！？」

「え？もしかして忘れてたの！？」


慌てた咲也はふかしていたタバコを灰皿に押し付けると、俺の事をギュッと抱きしめた。


「忘れるわけねぇだろ…誕生日おめでとう…柊」

「ありがとう…」


さっきまで咲也が吸ってたタバコの香りを肺いっぱいに吸い込むと、やっぱりすごく落ち着くんだ。
だけどなんか足りなくない？
咲也の手には去年も一昨年もあったある物がない。
やっぱり忘れてたんじゃ…


「なぁ、柊…」

「ん？」

「一緒に来て欲しいところがある」

「えっ？」

「早く着替えて？車で待ってるから」

「う、うん…」


なんだかよく分からないけど、でもきっと悪いことではないって言うのは分かってて、ワクワクする気持ちを抑えながら急いで適当な服に着替えて咲也の車に乗り込んだ。