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第三章
船旅
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「んぅ…うぇぇ…っ」
「大丈夫か?」
「ぎもぢわるぃ…んぅ…っ」
出航からまだ30分くらいしか経ってないのに、見事なまでに船酔している柊。
ここから先、目的の島までまだまだかかるのに、こんな状態なんて心配しかない。
念の為、酔い止めは飲ませてみたもののそんなに直ぐに効くはずもなく、数十分一通り嗚咽を繰り返し、やっと落ち着いたところでようやくベットに寝かせる事が出来た。
まぁ、だけど何となくこうなる事は想定できてたから、個室を取っておいてよかった…
「…咲也ぁ?」
「…んぅ、あれ…?俺も寝ちゃったのか…もう平気?」
「うん…全然慣れないけど…」
「少し外の空気でも吸いに行く?」
「うん」
柊の隣で寝落ちしてた間に、既に数時間が経過していた。
時間にしてみたらもうそろそろ着いてもいい頃で、俺らは展望デッキへと手を繋いで歩きだした。
「咲也…っ、手…」
「ん?だってまだフラフラしてるじゃん…ダメだよ」
「そう…だけどぉ////」
「恥ずかしいの?」
「うん…///」
耳まで真っ赤にして俯きながら歩く柊は、恥ずかしいと言いながらも、俺の手をしっかりと握っている。
思ってるより誰も俺らのことなんか気にしてないし、ただでさえ揺れてる船の上で柊の手を離すわけにはいかなくて、俺も柊の手を強く握り返した。
展望デッキに出ると、外は晴天で風がすごく気持ちいい…
都会では感じられないような良い空気に、自然と心が洗われる気がした。
「わぁ…凄いね…」
「ほんとだな…なんか吸い込まれそう…」
「このまま吸い込まれちゃっても良いかも…」
「だぁめ。気ぃ抜いて落っこちんなよ?」
手すりに掴まって前のめりになる柊を、慌てて後ろから抱きしめると、振り返った柊の笑顔が今まで見た事ないくらい花が咲いたように明るくて、思わず見蕩れてしまった。
「ん?咲也…!?」
「あ…いや…////良かった、気持ち悪いの少しは治った?」
「うん、今は気持ちいい…あれ?あれ島じゃない?」
「おっ、ほんとだ!あれが俺らが住む島か…」
「楽しみだなっ」
何もかもから開放されたような、晴れやかな柊の笑顔。
そんな顔初めて見た…
思えばあの日もそうだった。
橋の上にポツン一人、川の流れに吸い込まれそうになってる柊を、俺が後ろから抱きしめて無理やり引き止めた時。
あの時は兄貴のことで頭がいっぱいで、柊の事というよりも、大事な情報源がなくなっては困ると思って行動した迄だったけど、振り返った柊があまりにも苦しそうで、死ぬことを阻止した俺を恨むように睨みつけた目に光なんかなくて、本気だったんだって分かったら俺の方が苦しくなったのを覚えてる。
だけどこれからは何も苦しむことは無いし、ここまで来れば誰かに追われる心配もない。
自由に、そして平凡に、ただ普通の生活をしたらいい。
俺は柊を守る…
だから兄貴、どうか兄貴も俺らを見守って―――
「大丈夫か?」
「ぎもぢわるぃ…んぅ…っ」
出航からまだ30分くらいしか経ってないのに、見事なまでに船酔している柊。
ここから先、目的の島までまだまだかかるのに、こんな状態なんて心配しかない。
念の為、酔い止めは飲ませてみたもののそんなに直ぐに効くはずもなく、数十分一通り嗚咽を繰り返し、やっと落ち着いたところでようやくベットに寝かせる事が出来た。
まぁ、だけど何となくこうなる事は想定できてたから、個室を取っておいてよかった…
「…咲也ぁ?」
「…んぅ、あれ…?俺も寝ちゃったのか…もう平気?」
「うん…全然慣れないけど…」
「少し外の空気でも吸いに行く?」
「うん」
柊の隣で寝落ちしてた間に、既に数時間が経過していた。
時間にしてみたらもうそろそろ着いてもいい頃で、俺らは展望デッキへと手を繋いで歩きだした。
「咲也…っ、手…」
「ん?だってまだフラフラしてるじゃん…ダメだよ」
「そう…だけどぉ////」
「恥ずかしいの?」
「うん…///」
耳まで真っ赤にして俯きながら歩く柊は、恥ずかしいと言いながらも、俺の手をしっかりと握っている。
思ってるより誰も俺らのことなんか気にしてないし、ただでさえ揺れてる船の上で柊の手を離すわけにはいかなくて、俺も柊の手を強く握り返した。
展望デッキに出ると、外は晴天で風がすごく気持ちいい…
都会では感じられないような良い空気に、自然と心が洗われる気がした。
「わぁ…凄いね…」
「ほんとだな…なんか吸い込まれそう…」
「このまま吸い込まれちゃっても良いかも…」
「だぁめ。気ぃ抜いて落っこちんなよ?」
手すりに掴まって前のめりになる柊を、慌てて後ろから抱きしめると、振り返った柊の笑顔が今まで見た事ないくらい花が咲いたように明るくて、思わず見蕩れてしまった。
「ん?咲也…!?」
「あ…いや…////良かった、気持ち悪いの少しは治った?」
「うん、今は気持ちいい…あれ?あれ島じゃない?」
「おっ、ほんとだ!あれが俺らが住む島か…」
「楽しみだなっ」
何もかもから開放されたような、晴れやかな柊の笑顔。
そんな顔初めて見た…
思えばあの日もそうだった。
橋の上にポツン一人、川の流れに吸い込まれそうになってる柊を、俺が後ろから抱きしめて無理やり引き止めた時。
あの時は兄貴のことで頭がいっぱいで、柊の事というよりも、大事な情報源がなくなっては困ると思って行動した迄だったけど、振り返った柊があまりにも苦しそうで、死ぬことを阻止した俺を恨むように睨みつけた目に光なんかなくて、本気だったんだって分かったら俺の方が苦しくなったのを覚えてる。
だけどこれからは何も苦しむことは無いし、ここまで来れば誰かに追われる心配もない。
自由に、そして平凡に、ただ普通の生活をしたらいい。
俺は柊を守る…
だから兄貴、どうか兄貴も俺らを見守って―――
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