ミントバニラ

むらさきおいも

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第二章

一緒に

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あいつが俺に向けて撃った銃弾は、運良く急所をだいぶ逸れて肩をえぐっただけで済んだけれど、至近距離だったせいで破損も激しく出血も多かったようだ。

痛いは痛いし傷口が安定するまでは、退院したとて病院には通わなければいけない。

だけどこの病院にはもう近づきたくないし、別の病院でも紹介してもらおうかな…なんてそんなことを考えながら、尾行を巻くようにかなり遠回りを繰り返し、寄り道をしてまた更に裏道を抜けて家に帰ると、玄関のロックが外れる音と共に部屋からパタパタと足音が聞こえてきた。


「ただいま…っ」

「―――っ」


玄関の扉が閉まると同時くらいに、柊が俺にしがみつき俺は必至に肩の痛みに耐えながら、そおっと柊を引き剥がした。


「ごめ…っ、遅くなった…何にもなかった?」


うっすら目に涙を浮かべながら頷く柊…

話せなくなってからずっとこんな感じで、出会った頃よりずっと子供っぽくなってしまった。

今まで何をしていたのかと聞けば、(ゴロゴロしてた)とか(お菓子食べてた)とか、本当に子供かって突っ込みたくなるくらいだけど…

柊はやっと俺の肩の傷に気がついたのか、つんつんと腕を突かれると(どうしたの?)と口パクで聞かれた。

余計な心配はかけたくなくて…

でも嘘も付きたくなくて、これから何かあったらまた二人でどうにかしていかなきゃ行けないんだから、最初から逃げてたらダメだと思って正直に話した。


「警察内部に、あの組織と絡んでる奴がいてさ。ちょっと一悶着あってさ…」


柊は何か言いたげに、携帯を持ち出しメッセージアプリに打ち込み始め、それを俺に見せてきた。


(俺のせい?)

「違うって…俺、警察だよ?こういう事もあるから」

(何されたの?)

「あー、ちょっと…撃たれた…ってか…」


突然、文字を打つ柊の手が止まった…
そして、携帯を床に落とすと俺の方に優しく触れて、ボロボロと泣き出した。


「柊!?…どうした?…あ、撃たれたなんて言ったらびっくりさせちゃった!?ごめんな…っ」


次第に子供のようにしゃくり上げながら泣く柊は、自分で自分の涙を拭い落ちた携帯を拾い上げると、素早く文字を打ち込んで俺にまた見せてくれた。


(生きててよかった)

「生きててよかった…当たり前じゃん。柊を一人になんて絶対しない」


すると柊はまた携帯を放り投げて、俺の首にしがみつくもんだから、どんなに細くて軽い柊だとは言え、身長はさほど変わらないので肩が痛いのもあって支えるのに精一杯。


「柊っ、ごめ…嬉しいんだけど、痛い…っ」


柊は俺の言葉に、バッと音がでそうなくらい素早く俺から離れると、またまた携帯を拾って(ごめん)と一言返して、そのまま寝室へと篭ってしまった。

元々コミ障気味だったこともあるけど、話せない事がそれに輪をかけて余計に感情が掴めない。

そもそも出会って数ヶ月しか経ってない俺らなのに、あの時勢いで俺に着いてきて、なんて言ったのを柊自身は本当に納得してるのかどうかだって、本当のところよく分からない。

結局守ってるって言ったって、この中にいるだけじゃ前の生活と対して変わらないのかもしれないし、俺がここに閉じ込めてる限り柊がみんなと同じように自由になれる日は来ない。

寝室のベットに横になり動画を眺めてる柊の横に腰をかけると、俺はこの事について柊に問いかけた。


「柊、俺に着いてきてって言ったけどさ?俺もあの組織のこと全然わかんないの…それにね、一人でぶっ潰すそうとか思ってたんだけど、上の人間に止められた。俺も直接関わってみて本当にヤバいなって思ったからさ、兄貴のことは一先ず置いといて、この件からはもう手を引こう思ってるの。あ、でもね、柊のことは守る。絶対。柊はさ、そんな俺でも一緒にいてくれる?」


見てた動画を消して寝そべってた体を起こすと、しっかり俺の目を見て頷いた柊は、文字を打ち込み俺に見せた。


(俺と一緒で狙われたりしない?咲也に迷惑かけたくない)

「それでも一緒にいたい…だめ?」


柊は少し悩んで首を横に振った。


「良かった、俺ちょっとタバコ吸ってくるね」


そう言ってベランダに出ると俺は兄貴の形見のタバコを一本口に咥え、火をつけると肺いっぱいに吸い込み、バニラミントの薫のする煙を吐き出した。

兄貴…俺、柊のこと守れっかな?
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