ミントバニラ

桜ゆき

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第二章

見てはいけないもの

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携帯は無いし今が何日なのか、何時なのかも分からない。

さすがにトイレも我慢の限界で、何とか足のロープだけ緩ませ、身体を起こしベットから転がり落ちる。

そして寝室を出てトイレに向かう途中、部屋の隅の押し入れの中から放たれる異臭に違和感を覚えた。

ここは…
光ちゃんが荷物を置いた場所?

とはいえ触るなと言われてるし、触ろうにも何か出来る訳もなくとにかく必死にトイレに向かおうと壁伝いに立ち上がろうとしたその時、バランスを崩した俺は押し入れの襖にダイブし、ガッツリ穴を開けてしまった。

すると先程よりも強烈に臭いが充満して、俺は思わずその場で胃液を吐き出した。

これはもしや…!?

ただ事では無いことに気がついた俺は、必死で縄を解こうとするが、手に巻かれた縄のようなものは固くてなかなか解けない。

ガクガクと身体は震えだし尿意も吐き気も限界に達したその時、玄関の鍵が開く音がして、光ちゃんが部屋に入ってきた。


「柊…お前…っ」

「違うっ!トイレ…っ、トイレ行こうとしてそれでっ!」

「中…見たのか…?」

「見てない!この状態で見れるわけないだろ!?」

「そ…か…」

「光ちゃん…っ、トイレ…連れって…っ…んぐ…っ」

「…凄い臭いだな…もうここじゃダメだ…」


ブツブツと何か言いながら誰かと連絡を取り始めた光ちゃんは、俺の事なんか眼中に無いのか、電話の相手に向かって早くしろと怒鳴り散らしている。


「こうちゃ…っ」

「うっせぇっ!黙ってろっ!」


頬に平手打ちをくらい、床に叩きつけられた俺はもう我慢の限界で、ふるふると震えていた。

そのうちに電話を切った光ちゃんが、押し入れの中身を確認しだしたのだ。

そして…バックのファスナーを開けるとその隙間から人の手のようなものがズルリとこぼれ落ちて、俺は恐怖とショックでそのまま我慢の限界を越えてしまった。


「…っ、う…」

「…腐ってやがる」

「こ…ちゃ…」

「あーぁ、柊…ここトイレじゃねーぞ…」

「あ…っ、あぁ…」

「ヤベーよな、俺逃げねぇと…お前と一緒に逃げたかったなぁ」

「こぅ…ちゃん…っ、ヤダよ…っ」

「こんな事されても…まだ俺の事好き?」

「うん…っ、好きだよ…行かないでよ…っ!」


本当は、もう好きかどうかなんて分からなかった。
完全に人の道を外れて犯罪に手を染めてしまった光ちゃんに対して、ただただ怖くて逆らえなくて、好きって言わなきゃ殺されるんじゃないかって恐怖で忠誠を表しただけ。

でも、光ちゃんがいないと生きていけないし、光ちゃんがいない世界なんて考えられない。

頭の中がごちゃごちゃで訳が分からなくて、とにかく目の前の光ちゃんにすがりついた。


「柊…今までごめんな…もう行かなきゃ…お前はこのままどっか遠くに逃げろ」

「やだっ、やだよ…っ!」

「最後に抱かせて…?」

「こう…ちゃん…っ」
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