ミントバニラ

むらさきおいも

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第一章

救いの手

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浅い呼吸を繰り返し雨に打たれ痛みに耐えながら蹲ってると、歪んだ視界に見慣れたブーツが見えて冷たかった雨が急に遮断される。

ふと見上げると、今にも泣きそうな顔の咲也が、俺に傘を向けて立っていた。


「柊…」

「お前っ、なんでこんなとこにいんだよっ!」 

「会いたかったから…」

「…っ、会わないって言っただろっ!?もう来んな…っ」

「なんでだよ…っ、だって…」

「もう来んなって言ってんの!」


さっきまでそこに光ちゃんがいたんだ、またいつ戻ってくるかも分からないのに、こんなところにいたら何されるか分からない。

店から人が出てきたら直ぐに報告されてしまうだろうし、俺は出来うる力でやっと立ち上がると咲也を押し返した。


「帰って…っ」

「意味わかんねぇよ、なんなんだよさっきのアイツ…殴られてたじゃん…っ」

「…っ、見てたの?」

「…ごめん…助けに入れなくて」

「いや、いい。いいからもうほっといてくれ…っ」

「ほっとけねぇよ、歩けるか?」


咲也が俺を抱き寄せ歩き出そうとするのを、俺は必死に振り払い抵抗した。


「いいって言ってんだろっ!もう俺に関わるなっ…」

「ほっとけるわけねぇだろ…っ?」


俺なんかに関わったって、良い事なんて一つもない。

何も知らない、普通の生活をしている咲也をこっち側になんて引き込みたくないし、何より光ちゃんに見つかったら何をされるか分からない。

もし咲也が、普通の生活を送れなくなってしまったら…

一緒にいたらダメなんだ! 
早く…っ、早くここからいなくなってっ!


「お願い…だから…っ、ほっといてくれよ…っ」

「なぁ、もしかして…あれが恋人…?」

「…っ、そう、だよ…だから…」


本当の事なん言える訳ない。
俺らの関係は、あまりにも不自然すぎるから。

俺らの事は俺らにしか分からないし、黙ってれば多分バレる事は無い。

どうせもう会わないならこんな事、知らないままでいいんだ。

何も知らないまま、俺なんか見捨ててさっさとここからいなくなって欲しい。

好きなやつにこんな事…
知られたくないから―――


痛みと吐き気で、雨に打たれて頭がぼぉっとする…

いつまでもこんな所にいて、光ちゃんに見つかりでもしたらただじゃ済まないって分かってるのに、そんな自分の思考とは裏腹に雨音は耳鳴に変わり、コントロールの効かない身体からは力が抜けて俺はそのまま意識を失った。
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