ミントバニラ

むらさきおいも

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第一章

借り

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「…い…おいっ、しゅう!」

「…んぅ」

「おぅ、大丈夫か?」

「うぅ…あれ…?俺…」

「ごめん、夢中で…やりすぎた?」

「あ…いや…っ////」


痛くて苦しくて意識を飛ばした事は何度かあったけど、こんなの初めてで俺の腹の中と脳みそは、どうやらトロトロに蕩けてしまったようだ。

やりすぎだなんてとんでもない、光ちゃんの機嫌によっては拷問みたいな‪時間が何時間も続いたことだってあったくらいだから、こんな優しい時間ならいくらでも受けられる…

心配そうに俺を見つめるさくやを安心させてやりたくて、俺は恥ずかしげもなく素直に答えた。


「凄い…気持ちよかった…///」

「…っ、おっ…なら良かった…///」


さっきまで自信ありげだったさくやの顔が照れてるのか真っ赤に染まると、こっちまで恥ずかしくなって近くにあった毛布で顔を覆った。

するとその毛布の上からさくやが覆いかぶさり、顔の上の毛布を捲られると再び目が合い、胸の高鳴りが止まらない。

さっき会ったばっかりでちょっと交わっただけのやつなのに、なんでこんな苦しいの?

ずっと…一緒にいたい。
でもずっと一緒になんて居られないんだ…

…そうだ、一緒になんて居られないはずだろ!?

こんなことしてる間に、光ちゃんが家に戻ってたら…

俺がいないことに激怒して今頃…っ

俺に自由で幸せな時間なんてないっ!


「俺…っ、帰んなきゃ…」

「えっ、待って!しゅうっ!!」


さくやの静止を無視して急いで支度を終わらせ、お金を払おうと財布を探せど手ぶらで出てきた俺に持ち合わせがある訳もなく、帰りだってこのまま歩いて帰ったんじゃ間に合わないかもしれないと一瞬にして背筋が凍った。


「しゅう、金は気にすんな。俺が誘ったんだし…帰んなきゃやばいんだろ?これ、下でタクシー拾って?」 

「や、でもっ…」

「死なないでいてくれんだろ?」

「えっ…」

「帰るってことは死なないんだろ?」

「あ…」


そうだ、俺、死のうと思ってたんだ。

わざわざ家に帰ることないんじゃないか?
これを冥土の土産に旅立ってもいいだろ…

そう思ってさくやに握らされたお金を返そうとすると、再びさくやにグッと握り返された。
 

「ん、コレ貸しな?今度会った時に返して?」

「こ、今度って…」

「また店行くし、死ななきゃ会えんだろ?」


死ななければ光ちゃんの怒りに触れるかもしれない。

でも、生きてればまたさくやと…

俺はさくやに握らされた金を再び強く握って覚悟を決めた。


「…っ、これ借りなっ」

「おぅ、貸しとくわ!」


俺は慌ててホテルを出て、タクシーを拾い家に戻った。

時間は深夜を回っていたが、光ちゃんが帰ってきた様子はなく一安心すると、ベットの上に横たわった。

今日のあれは一体なんだったんだろう…

変なやつ、と思いながらもさくやとの行為を思い出すと少しだけ体が疼く。


「借り…か…」


また、会えるだろうか…

結局その日、夜が明けても光ちゃんは帰っては来なかった。
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