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第一章
理由
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結局、俺はこの訳の分からない男に連れられ、ラブホの一室に放り込まれた。
勢いとはいえ、確かに自分で言い出した事だが、いざこんなところで知らない奴と二人きりになるとちょっと怖くて、部屋の隅っこで様子を伺ってると、男は冷蔵庫に入ってる飲み物を二つ取り出し、一つを俺に手渡してきた。
「はい、飲むっしょ?」
「…うん」
「まぁ座ったら?」
まるで我が家のようにベットに腰をかけくつろぎ始める彼と、少し距離を取って隣に座る。
すると彼は、わざと俺との距離を詰めて来て持ってる飲み物で乾杯を促してくるから、俺も仕方なく缶を合わせ一口喉に流し込んだ。
そして、シーンと静まり返った異様な空気の中、彼はお構い無しに話を振ってきた。
「ねぇ、なんで飛び込もうとしてたの?」
「…んなのあんたに関係ないじゃん」
「そうはいかないじゃん…また死のうとされても困るし?」
「なんでお前が困るんだよっ」
「関わっちゃったから…?」
「…っ、だったら今からでも関わるのやめろよ。そもそも俺は助けて欲しいなんて一言も…っ」
「じゃあ、なんで泣いてたの?」
「…っ、それは…っ」
このまま生きていくのが辛くて、でも死ぬのだって怖かった。
最近の光ちゃんは、ずっと何かにイライラしてていつも以上に俺に当たり散らすようになった。
俺はそんな憂さ晴らしの相手でしかなくて、都合のいいように使える光ちゃんのおもちゃ…
どんなに大好きな人でも、償わなければいけない事があるとしても、この先もずっとあの生活を続けなきゃいけないと思ったら、もうさすがに耐える事が出来なかったから。
本当の…自由が欲しかったから―――
「ほら、また泣く…」
「…っ、うるせえよ…っ」
「彼女にでも振られたの?」
「そんなんじゃねぇよ…ただ…」
「ただ?」
明るい場所で改めてしっかりと彼の顔を見つめれば、チャラチャラとした格好の割にやっぱり綺麗に整った目鼻立ち。
それに、俺を見るそいつの目が凄く真っ直ぐで、引き出されるようにように気持ちを吐き出してしまった。
「自由に…なりたかったんだ…っ、みんなと…同じように…っ」
声をつまらせながらそう呟いた俺の手を握り、彼は俺をそっと抱き寄せた。
その時、俺は初めて《《…他人》》の温もりに触れた気がした。
彼の腕の中は暖かくて、ふわふわしてて心地よくて安らぎに満ちていた。
光ちゃんとは、違う感覚…
だけど、どうしてだか光ちゃんと同じ匂いがしたんだ。
「死んだら自由になれねぇじゃん…」
「それでも…っ、今よりはマシだと思った…」
「じゃあさ、俺が自由にしてやろうか?」
「はっ!?無理に決まってんだろっ!?光ちゃんから離れられるわけ…っ」
「光ちゃん?その人が原因?」
「や、ちが…っ、違う、光ちゃんは…っ」
光ちゃんは…
光ちゃんは俺にとって大事な存在で、俺は光ちゃんが好きで…?
いや、そうじゃない。
光ちゃんから離れたくて、自由になりたくて死のうと…思った?
いや違う!
そもそも俺が悪いんだ!全部…っ
組織に入ったのも、光ちゃんがおかしくなったのも、俺が自由じゃなくなったのも全部…っ!
だから俺は…俺なんか―――
「はぁ…っ、う…っ」
「おいっ、大丈夫か!?」
「俺が…っ、俺が死ねば良かった…」
「ん…何だかわかんねぇけど、そんな事言うなよ…」
分からないんだ。
大好きだった光ちゃんに犯されたあの日から、自分の感情も、光ちゃんの想いも…
俺は光ちゃんが好きなのか嫌いなのか、光ちゃんは俺を愛してるのか恨んでるのか、俺が…
生きててよかったのかどうかも…
全てが不安で怖くてどうしようもなくて、あっという間に闇に飲まれそうになるんだ。
君なら俺を…
この闇から救ってくれる?
「…助…けて…っ」
「わかった」
強い力で受け止めてくれた彼の腕の中で、大好きな匂いに包まれながら、俺は少しづつ落ち着きを取り戻していった。
勢いとはいえ、確かに自分で言い出した事だが、いざこんなところで知らない奴と二人きりになるとちょっと怖くて、部屋の隅っこで様子を伺ってると、男は冷蔵庫に入ってる飲み物を二つ取り出し、一つを俺に手渡してきた。
「はい、飲むっしょ?」
「…うん」
「まぁ座ったら?」
まるで我が家のようにベットに腰をかけくつろぎ始める彼と、少し距離を取って隣に座る。
すると彼は、わざと俺との距離を詰めて来て持ってる飲み物で乾杯を促してくるから、俺も仕方なく缶を合わせ一口喉に流し込んだ。
そして、シーンと静まり返った異様な空気の中、彼はお構い無しに話を振ってきた。
「ねぇ、なんで飛び込もうとしてたの?」
「…んなのあんたに関係ないじゃん」
「そうはいかないじゃん…また死のうとされても困るし?」
「なんでお前が困るんだよっ」
「関わっちゃったから…?」
「…っ、だったら今からでも関わるのやめろよ。そもそも俺は助けて欲しいなんて一言も…っ」
「じゃあ、なんで泣いてたの?」
「…っ、それは…っ」
このまま生きていくのが辛くて、でも死ぬのだって怖かった。
最近の光ちゃんは、ずっと何かにイライラしてていつも以上に俺に当たり散らすようになった。
俺はそんな憂さ晴らしの相手でしかなくて、都合のいいように使える光ちゃんのおもちゃ…
どんなに大好きな人でも、償わなければいけない事があるとしても、この先もずっとあの生活を続けなきゃいけないと思ったら、もうさすがに耐える事が出来なかったから。
本当の…自由が欲しかったから―――
「ほら、また泣く…」
「…っ、うるせえよ…っ」
「彼女にでも振られたの?」
「そんなんじゃねぇよ…ただ…」
「ただ?」
明るい場所で改めてしっかりと彼の顔を見つめれば、チャラチャラとした格好の割にやっぱり綺麗に整った目鼻立ち。
それに、俺を見るそいつの目が凄く真っ直ぐで、引き出されるようにように気持ちを吐き出してしまった。
「自由に…なりたかったんだ…っ、みんなと…同じように…っ」
声をつまらせながらそう呟いた俺の手を握り、彼は俺をそっと抱き寄せた。
その時、俺は初めて《《…他人》》の温もりに触れた気がした。
彼の腕の中は暖かくて、ふわふわしてて心地よくて安らぎに満ちていた。
光ちゃんとは、違う感覚…
だけど、どうしてだか光ちゃんと同じ匂いがしたんだ。
「死んだら自由になれねぇじゃん…」
「それでも…っ、今よりはマシだと思った…」
「じゃあさ、俺が自由にしてやろうか?」
「はっ!?無理に決まってんだろっ!?光ちゃんから離れられるわけ…っ」
「光ちゃん?その人が原因?」
「や、ちが…っ、違う、光ちゃんは…っ」
光ちゃんは…
光ちゃんは俺にとって大事な存在で、俺は光ちゃんが好きで…?
いや、そうじゃない。
光ちゃんから離れたくて、自由になりたくて死のうと…思った?
いや違う!
そもそも俺が悪いんだ!全部…っ
組織に入ったのも、光ちゃんがおかしくなったのも、俺が自由じゃなくなったのも全部…っ!
だから俺は…俺なんか―――
「はぁ…っ、う…っ」
「おいっ、大丈夫か!?」
「俺が…っ、俺が死ねば良かった…」
「ん…何だかわかんねぇけど、そんな事言うなよ…」
分からないんだ。
大好きだった光ちゃんに犯されたあの日から、自分の感情も、光ちゃんの想いも…
俺は光ちゃんが好きなのか嫌いなのか、光ちゃんは俺を愛してるのか恨んでるのか、俺が…
生きててよかったのかどうかも…
全てが不安で怖くてどうしようもなくて、あっという間に闇に飲まれそうになるんだ。
君なら俺を…
この闇から救ってくれる?
「…助…けて…っ」
「わかった」
強い力で受け止めてくれた彼の腕の中で、大好きな匂いに包まれながら、俺は少しづつ落ち着きを取り戻していった。
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