記憶の欠片

むらさきおいも

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最終話 思い出の場所

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結斗が退院してから、俺は結斗を連れてあの場所に向かった。
結斗の目が覚めた後、母親から聞いた話で気になる事があったからだ。

俺と結斗を連れて家族で旅行に行った時、星が綺麗に見える丘があるからって行ってみたら、坂を昇った先の丘の上に誰も住んでないお屋敷があって、二人してこの家知ってるって星を見ながらポロポロ泣きだしたって…

親たちには何が何だかわからなかったけど、度々俺らのこういう言動に不思議なものを感じてはいたらしい。

でも今は子供の時とは違う、ちゃんと記憶に残ってるあの風景がまだここにあるんだろうか。 
母親から教えてもらった地図を頼りに丘に続く坂を登り今はどうなってるかも分からないその場所に近くと、潮風がまだ少し冷たくて、ヒラヒラと桜の花びらがどこからともなく流れてきた…

『もう少し…かな?』
「うん…この先だな」

坂道を登りきると、緑のおいしげる敷地の中に立派なお屋敷の入口が見えた。

『あれか…』
「本当にあったんだ…」

本当は中に入ったりしちゃダメなんだろうけど、俺たちは草木をかき分けこっそりと庭に入り込んだ。
視界が開けると、目の前にそびえ立つ大きなお屋敷とその横には大きな桜の木が満開で俺たちを出迎えてくれてるようだった。
お屋敷は所々朽ちていて変わり果てているが、どの部屋に何があってみたいな事が鮮明に蘇ってくる…

『懐かしいなぁ…』
「うん…でも俺…思い出すと…ちょっと苦しいかも…っ」
『大丈夫…俺がついてるから』
「うん…」

お屋敷を眺める結斗の表情は少し辛そうで、手を握り桜の木の側まで移動した。

「綺麗だな…」
『そうだね…』

風が吹く度に花びらがヒラヒラと舞い、俺たちを包み込む。

「結局最後は愛斗とお手伝いさんだけだったの?」
『うん…あの後の事は俺、あんまり覚えてないんだよね』
「そうなんだ…」

結斗が居なくなってからの事は本当に何も覚えてなくて、家主が事故で誰もいなくなってから二人で過ごした数年…
その頃が一番楽しかった…
結斗と二人きりで何不自由なく、毎日幸せに過ごしてたんだ…

「あの人たちがいなくなって俺らだけになって…あの頃が一番幸せだったな…」
『結斗も…そう思ってくれてたの?』
「うん…思ってたよ…それに俺は今も幸せだよ、愛斗…」
『俺も…俺も幸せ…』

お互い顔を見合せ見つめ合えば、自然と目を閉じる結斗の唇にそっとキスを落とす…
そして、俺はしてしまってから慌てて唇を離した。

『あっ…!あの…ごめん…つい…』
「しといて謝んなよ…」
『や、だってさ…』
「いいっつってんだよ…わかれよ…///」
『結斗…』

顔を真っ赤にして恥ずかしがる結斗が、急に思い出したかのように桜の木の根元に走りよる。

「愛斗ーっ、この辺じゃない??」
『あっ、宝物?』
「そうそう、掘ってみる??」
『流石にそれはまずいんじゃ…』
「バレねぇよ…」

結斗はニヤリと笑うと、近くに落ちてた枝でその辺の土を掘り始めた。
俺もまぁいっか…とそれに乗っかりどんどん掘り進めていくと、結構掘り進めた頃枝の先が何か硬いものに触れた。

『えっ…嘘…本当にあるかも…』
「マジ?もっと掘ってみよ!」

周りを掘り進めていき上の方が見えてきて、土を手で払うと古びたお菓子の缶みたいなものが出てきた。

『「あった…」』

土の中からそれを取りだし、錆びた缶の蓋を開けるとその中には、子供の頃に集めたであろうガラクタと、そしてお互いに宛てた手紙らしき物があった…
紙は既に朽ちて何が書いてあったかまでは分からないけど、確かにそこにあったんだ。

「あれ…これは…?」
『あっ…それ…』

俺も忘れてた物がそこにはあった…
結斗がいなくなったあとの事だ…
渡せなかったから掘り起こしてここに埋めたんだ…

結斗が缶からボロボロの小さな箱を取りだしそれを開けてみると、その中には指輪のような物が入っていた。

「これって…」
『結斗に渡そうと思ってたんだけど…間に合わなかったから…』
「愛斗…っ」
『ボロボロになっちゃったけど…受け取ってくれる?』
「んっ…ありがとう…っ、大事にする…」
『後のものは戻してまた埋めておこう…』
「うん…」

確かにあったんだ…
俺らの思い出が…ここに…

『俺ら…ここにいたんだね…』
「うん…これからもずっと一緒にいれるよ…」
『そうだねこれからもずっと…』

桜が舞う丘の上ので二人…
あの頃出来なかった事をこれから沢山しようって、ずっとずっと一緒に生きていこうって誓い合い、ぎゅっと手を握った。
前世からの縁を紡いで、今世でまた命を宿し出逢うべくして出逢った二人…
彼らの思いを胸に、僕らは今を生きていく…
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