放課後の保健室でKissして?

むらさきおいも

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りつの想い

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一方的に将吾と距離を置いたまま1月が終わろうとしていた頃、俺は隼人に呼び出され病室に来ていた。

既に進路が決まっている隼人は慌てる様子もなく、リハビリをしながら退院に向けて卒業には間に合うようにと頑張っているようだった。


「よぉ…なんだよ、急に呼び出して」

「最近全然来てくんねえから…」

「あぁ、悪ぃ…」

「学校…辞めんのかよ」

「まぁね」

「将吾の事…泣かせんなよ」

「…っ、将吾は関係ないだろ」

「あいつ、お前の事好きなんだよ…分かってんだろ?」

「隼人だって将吾の事好きなんだろ?お前が守ってやれよ…ここんとこ保健室よりお前のとこばっかだったろ?将吾だって…っ」

「あいつは…っ、将吾はただ…俺がこうなったのは自分のせいだからって、俺に気ぃ使ってるだけだよ…っ」


静かな病室に気まずい空気が流れて、余計に静まり返る。

将吾が隼人にどういう話をしたのか分からないけど、もう今更何を言われても俺はこの仕事を辞めるし、辞めたあとはもう将吾とは会わない…
そのつもりだ。


「なぁ、将吾の事好きなんだろ?」

「特別な感情はねぇよ…」

「よくそんな嘘つけるな、何がそんなに引っかかるんだよ。俺らがまだ子供だからか?それなら卒業した後なら解決する話じゃねぇの?」

「そんな単純な話じゃねぇの…」

「じゃあどんな話だって言うんだよ…」

「隼人…俺の事はいいじゃん、お前もっと自分のこと考えろ。もうすぐ退院できるんだろ?そしたら将吾と仲良くしろよ?」

「おい、はぐらかしてんじゃねぇよっ!」

「俺は大真面目だよ。お前が将吾を幸せにしてやれ、な?用事それだけならそろそろ俺帰るわ…」

「ふざけんなよっ!おいっ!」


大人なのに、子供に説教されるなんて恥ずかしいやつだよな…

そうだよ、俺はそんな弱い人間だからさ、辛いこと、苦しいことから逃げてまた楽に生きようとしてるんだ。


――――――


そして次の日…
誰もいない放課後の保健室の扉が開き、優しい声で名前を呼ばれた。


「りつ」

「おぅ、涼ちゃんか…」

「本当に辞めちゃうの…?」

「うん…」

「まぁ、無理して続ける事でもないからね。俺はりつが辛くなくなる事が一番だと思うから」

「ありがとう…涼」


リオンとこっそり付き合い出した涼ちゃんだけど、こうして俺へをフォローは前と変わらずしてくれて、俺にとっては本当になくてはならない癒しの存在だ。

これからも俺のそばにいて欲しい…なんて言うのはやっぱりちょっとワガママかな…


「ところで昨日隼人くんに呼び出されたんだけど…」

「え?涼ちゃんも?」

「うん、恐らくりつが帰った後かな?」

「…あいつ、なんか言ってた?」

「りつが抱えてる事、教えて欲しいって。それが理解できなかったら俺が本気で将吾を守ってやれないって…」


隼人のやつ、諦めてなかったのか…
涼ちゃんまで呼び出して。

ってことは、まさか涼ちゃん…!?


「話…たのか?」

「ごめん、話した。りつが思ってるほど彼らは幼くないよ?話した上で、彼らは彼らなりに考える事が出来る…そうでしょ?」

「だからってお前…他人のそういうデリケートなプライベートをさぁ…」

「だって本当にこのままでいいと思ってるの?乗り越えないとりつだって辛いままなんだよ?」

「でもさすがにそれはさぁ…」

「怒った…?」

「…いや、だけど」

「隼人くん…納得してたよ。りつが出来ないなら俺が守るって」

「…そっか」


隼人は強いな…俺とは大違いだ。

納得してくれたならもう、本当に俺の出る幕はないだろう。
これで何も気にする事なく辞められる。


「勝手なことしてごめん…でも、りつは本当にそれでいいの?後悔…しない?」

「…わかんねぇ、だけど今はとにかくこの仕事から解放されたい…」

「そっか…頑張ったね…りつ」


そう、今は将吾を思うことよりも早くこの仕事から開放されたい…
その思いの方が強かった。

だからこそ、そんな俺は将吾に相応しくないし将吾を守ってやれないって、そう思ったんだ。
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