放課後の保健室でKissして?

むらさきおいも

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決断の時

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冬休みも終わり凍える寒さの中、今日も平和に午前の授業が終わると、お昼を買いに保健室を出てご飯を買って戻ってくる。

ちょっと前までは将吾がそこの丸椅子にちょこんと座って笑っていたのに、本当に来なくなったなぁ…と哀愁に浸りながら、コーヒーのお湯を沸かしパンを口に頬張ると、後ろから誰かがしがみついてきた。


「わっ!誰っ?…って将吾!? 」

「ん…眠い」

「寝れてないのか…?」

「ん、バイトしてて…」

「そうなんだ…」

「家…出たいからさ…」

「そっか…」

「寝ていい?」

「あぁ、おぅ…」


久しぶりだって言うのに、会えて嬉しい!みたいな感じとかないのか…!?

いや、それを言うなら俺の方か…
変に意識してしまってぎこちなさが態度に出てしまったのかもしれない。

あの事故の後から、隼人にベッタリな将吾とどう顔を合わせていいのか、何を話していいか分からなくて、ここに来ないのをいい事に自然と距離を置くようになった。

隼人のお見舞いは俺もたまに行くことがあるけど、何となく将吾と会わないように遅い時間に行くようにしてたから…

でもそれでいいって思ったんだ。
近くなりすぎた距離を元に戻して、そして自然と離れて言ってくれたら…なんて。
全く、大人の俺がこんなんじゃダメだよな。

ため息と同時にお湯が湧いてコーヒーに注ぎ込むと、勢いよく保健室の扉が開いてこの微妙な空気感にそぐわないくらい、とびきり元気な奴が空気なんか全く読まずにズカズカと入ってきた。


「よぉ、りっちゃん!!」

「お、おぉ…健太、久々だな?」

「最近忙しくってさぁ~!彼女と遊んでて♡」

「へぇ…羨ましい限りだな」

「ほら見てよ!可愛くね?」

「ふぅん、可愛いじゃん」


正直女子高生に興味なんかないけど、健太のご機嫌取りに話を合わせる。


「俺、今度スケボーの大会に出んのよ!」

「おぅ、すげぇじゃん!」

「今度の大会はマジでやんねぇとな」

「頑張れよ~!彼女も見に来んの?」

「あったり前じゃんっ!いいとこ見せねぇとな!」

「いいねぇ…青春だねぇ」


健太は高校生活を高校生らしく謳歌してて本当に楽しそうなのに、将吾はどうなんだろうか。

あいつは今、ちゃんと自分の人生を楽しめてるのだろうか…


「なぁ、りっちゃん?まだ女いねぇのかよ」

「いないねぇ~誰か紹介してくんない?」

「俺が友達紹介したら、りっちゃん犯罪者になるよ?」

「ははっ、そうだよな」

「やばっ!まぁ、とか何とか言って本当は遊んでんだろ?」

「まぁね~」


健太の話に合わせながら、本当に適当に会話を交わす。

廊下まで響き渡るようなでかい声で、がはははっと大笑いする健太を眺めながら、本当に楽しそうだなぁ…なんて呑気にくつろいでいたら、ベットのカーテンが音を立てて勢いよく開いた。


「人が寝てんのにギャーギャーうっせーんだよ!このガキっ!」

「あぁ!?なんだ?てめぇ…やんのか?こらぁ」

「あーまってまって、落ち着いて…」

「やってやんよ、オラこいよ!」

「先輩だからって関係ねぇからなぁ!?」

「上等だコラァ!」


前から仲悪いとは思ってたけど、さすがに保健室で殴り合いは勘弁して欲しい。

俺の心配を他所に本気で取っ組み合いの喧嘩が始まると、怪我でもして収集つかなくなる前にこの場を収める為、ふぅと一息ついて俺も本気を出すとする。


「おいっ!!ここどこだと思ってんだよこらぁ!やんなら外でやれやクソガキがぁっ!」


二人は掴み合いながら目をまん丸くして、驚いた表情で俺を見ると、ちょうど昼休み終了のチャイムが鳴る。

その隙に2人を引き剥がし、怪我がないかを確かめた。


「はぁ…怪我は?ないな?」

「「うん…」」

「はい、じゃあもうおしまいっ!健太は?次授業だろ?」

「おう…」

「将吾は?寝るの?」

「うん…」

「はい、じゃあ解散!!」


健太は大人しく教室に戻り、将吾は俺を睨みつけながらベットに入り布団を被った。

確かにうるさかったのは分かるけど、何がそんなに将吾の気に触ったのか…
ぶっちゃけ、健太の話を上の空で聞いていた俺には分からなくて、今度は将吾のご機嫌を取りにベットの横に座った。


「将吾…?何怒ってんの?」

「怒ってない」

「怒ってんじゃん」

「別に怒ってないっ!」

「そっか…なら俺仕事戻るな…」

「…っ、だって加野っちがっ…」


冷たく突き放せば、慌てて布団から顔を出して何か言いかけると、また布団を被って拗ねてしまった。

まだそうやって俺に拗ねてくれるの?
それとももう俺なんかに興味無いか…

それならそれでいいんだと思いながらもやっぱり寂しくて、はぁ…と一つため息をつきながらカーテンを閉めた。

気持ちを切り替えて仕事をしながらコーヒーを飲んでると、暫くして将吾がベットから出てきたのか、服の裾をつんつんと引っ張られた。


「ん?なに?寝ないの?」

「遊んでるって何?」

「え?」

「さっき言ってたじゃん…まぁねって」

「そんな事言ったっけ?」

「言ったじゃんっ!」

「そう?もしそうだとしても将吾に関係ないだろ?」

「は…?なんだよそれっ、加野っちのバカっ!」


暫く保健室に顔も出さなかったくせに…
なんて大人気ない嫉妬から、思わず将吾を突き放すような言い方をしてしまった。

でもそうだろ?別に俺らは付き合ってるわけでも何でもないし、将吾がどこで何してようが、俺がどこで何してようが、お互いに関係ないはずだ。

こんな微妙な関係だって、そろそろ本当に辞めにしないと…

その時、保健室の扉を丁寧にノックする音が聞こえた。

いそいそと廊下に出ると、そこには教頭の姿があって、今後の事について話があると言われ俺はそのまま保健室を後にした。

実は冬休みに入る前に俺はこの仕事を辞めるべく、教頭に相談をしていたのだ。

今回の様にあんな大きな事故や、前の子の様な状況はそうそう無いとはいえ、俺の精神的ダメージは相当なものだった…

養護教諭なのに、血を見るのが怖いなんて話にならない。

そしてたまたま代わりの人が居そうだからという事で、俺は早々に退職願を提出してそれが受理され、近い内にこの学校を去る事が決まったのだ。

戻ってくると将吾はスヤスヤと寝ていて、俺は思わずその肌に触れたくなったものの、この期に及んでもうそれは許されない事だとぐっと気持ちを抑えた。

もうこれ以上期待させちゃダメだし、何も望んではいけないと、俺は少しずつ身辺整理を始めた。


―――――


放課後、寝てる将吾を起こすべく揺さぶると、さっき怒ってた事は忘れたのか、寝ぼけた顔で俺に懐いてくる。

俺はそんな将吾に絆されないように覚悟を決めて、今後の話をする事にした。
これは俺にとってのケジメのようなものだ。


「将吾…話がある」

「ん…なに?」

「大事な話…起きて」

「うん…」


将吾は何かを察したのか、寝ぼけながらも素直に起き上がるとベットの上に座り、俺もベットの前に椅子を持ってきて座った。


「俺さ…この仕事、辞める事にした」

「えっ…辞める…って?」

「そもそも向いてなかったんだわ。それに、急にまたやれって言われて来ただけで…本当はもうやる気なかったし…」

「や、そんな事聞いてんじゃねぇよっ、辞めてどうすんだよ!もう会わないとか言わないよな?」


そういう感は鋭いよな…
でも将吾の言う通り、辞めたらもう会う事は無いだろう。

俺がどう切り出そうかと言葉に詰まると、すかさず将吾が畳み掛けてくる。


「辞めるなら一緒にいられるだろ?そうだよな?」

「お前には隼人がいるだろ」

「は?何だよそれ…っ!俺は…っ」

「ダメなんだ…っ、俺がダメなの…誰かと付き合うとか…特別な人を作るのが…っ」

「意味わかんねぇ…」

「ごめん…俺じゃお前を幸せにできない…だから」

「それじゃわかんねぇよっ!」

「ごめん…」


この想いをどう言葉で表したらいいのか分からなくて、過去にあった事を将吾に話したところでそんなの言い訳にしかならないし、それとこれとは関係ないと言われてしまえばそれまでだし、とにかく俺はこれ以上自分が傷つくのが怖くて、好きだからこそ将吾から離れたかった。

大事な人が自分の目の前で、冷たくなって消えていく…
こんな思いするくらいなら最初から要らない。

それに救えなかった彼女を差し置いて、俺だけ幸せになるなんてずるいだろ?
こんな気持ち、将吾に到底理解できるとは思えない。

だったら涼ちゃんじゃないけど、いっその事嫌われてしまえば…そんな事さえ思った。


「いつだよ…辞めんの…?卒業まではいるだろ?」

「…たぶん」

「たぶん?だから何なんだよさっきからっ!俺は加野っちと離れたくないのっ!なのに何で俺を避けるんだよっ!そんなに俺の事…っ、嫌いかよっ!」


嫌いなわけないだろ…っ!

思わず喉まででかかった言葉を飲み込んで、俺は思ってもいない冷たい言葉を将吾に浴びせた。


「…っ、お前は…俺の生徒の中の一人で…それ以上でも…以下でもない…っ」

「…っ、ざけんなっ!!!」


将吾は泣きながら椅子を思いっきり蹴っ飛ばし、物に当たりながら俺の前から姿を消した。

そして倒れた椅子を起こし床にしゃがみ込み、散らばってバラバラになった書類をかき集め、はぁ…っと深くため息を着くと、涙腺が決壊したかのようにボロボロと涙が溢れてきた。

こんなに好きになってたなんて…
もう手遅れだよな。
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