放課後の保健室でKissして?

むらさきおいも

文字の大きさ
上 下
9 / 29

リオンの企みと陽介の悩み

しおりを挟む
「あー、疲れたぁ」

 永和宮を辞してしばらく歩くと、黒花は大きく伸びをして肩を回した。ある程度年季の入った女官でも、よその宮、しかも徳妃の前となると緊張したらしい。翠明がいたらこんな真似はしないだろうが、白狼と二人での訪問で余計に気疲れしたのかもしれない。
 白狼も首と肩を解したかったが、今は籠盛りの果物を持っているので腕を振り回すわけにもいかず、首だけ左右に動かすだけにとどめた。

「しっかし、徳妃様のところってみんな若かったわね」
「だよなぁ」
「確か、徳妃様って孫家の御姫様なのよね。乳母とか、年上の侍女とか連れてこなかったのかしら」

 そう言いながら首を傾げる黒花の体内から、こきりと変な音が漏れる。思考を巡らせるために首を回していたのではなく、単に肩を解していただけか。

「まあ、でも若いのが多いからあんまり厳しくないみたいだし、みんな楽しそうだからいいんじゃねえの?」
「そうなんだけどね。でも四夫人のおひとりとしての格を考えると、ちょっと物足りないかなって。経験がないと乗り切れないこともあるだろうし」

 出産とか、と黒花が呟く。

「ご懐妊したっていうの、どうやら噂じゃなかったみたいだしね」
「ああ、そういやそうか。あの服……」

 白狼も頷く。確かに徳妃はかなりゆったりとした服を着ていた。腹が目立たないようなものを選んでいるのだろう。帯らしい帯も付けておらず、そう考えると既に産み月は近いのかもしれない。
 男御子か、それとも女御子か。それも出産まで無事にたどり着けるか。
 永和宮の女官や下女の様子を思い出し、どっちにしろ無事産まれるといいなと思いながら白狼は帰路についた。

★ ★ ★ ★ ★

 贈り物のお返しに行ったのにそのお返しを持って帰った白狼を見て、小葉はけたけたと笑っていた。これはいよいよ燕が白狼に惚れている説が濃厚だ、徳妃もそれを後押ししていると銀月にも伝える始末だ。
 もはや否定するのも面倒くさい。というより、白狼自身もその説を信じてしまいそうな、そんな永和宮訪問だった。

「で、徳妃はこれからも仲良くしてくれと?」
「これもご縁だから、銀月とも親しくしたいって言ってたぜ?」

 ふむ、と銀月は白い碁石を指先で弄んだ。夕餉の後、いつものように寝室に軟禁され碁盤を挟んで差し向いに座る帝姫は何か考え込んだようだ。
 結局戻って来た白狼は、銀月の碁に付き合わされていた。とりあえず姫君の部屋着を着せられ、頭には付け毛を緩く結び付けられている。さっき言ったことを黒花が覚えていたらしい。
 化粧をするとき一瞬手が止まっていたのが気になるが、毎回顔をしかめる白狼に何か配慮しようとしてくれたのかもしれない。

「忘れ去られたような帝姫に近づきたいなど、どういう思惑があるものやら」
「うーん、思惑っていうよりは……」
「ん?」
「あの宮の女官とか、下女とか見たらさ。多分、徳妃ってすげえ世話好きなんだと思った」
「どういうことだ?」
「下女ってさ、後宮に売り飛ばされたり女官に応募してきた庶民の子だろ?」

 明け透けな物言いだが、銀月は頷く。

「基本的にそうやって雇われた下女は後宮全体の尚服や尚食で働く」
「それをさ、後宮に来てすぐの子を徳妃は自分とこの宮で引き取ってんだよ」

 出会ったとき、燕はそう言った。欠員が出たから急遽配置換えをされたと聞いていたようだが、あの人数をみれば「欠員がでた」せいではないだろう。見かけた年端のいかない少女たちを、自分の宮で保護しているとみるのが正解ではないだろうか。
 あの懐き方、宮全体の雰囲気、慈愛に満ちた徳妃の目。以前、毒見要員で庶民の燕を雇ったのだろうと穿った視点で見て申し訳なかったかも、と思うほど永和宮は穏やかだった。
 なるほどな、と銀月は白石を碁盤に打った。

「銀月も十五だし、徳妃にしたら自分とこの下女とか女官みたいに世話してあげたい歳頃なのかもしれないなって。俺に対してもまだ子どもなのにって言ってたぜ?」
「貴族の娘や歴代の帝姫は、十三、四で笄礼の儀を経て十五になる前に輿入れをするのが一般的だ。徳妃も、孫家の令嬢でそのくらいのことは分かっていると思うがな」
「へえ。やっぱちょっと早めなんだな」
「どうせ政略に絡んだ婚姻だ。輿入れして共寝に至るまで数年かかるということもあると聞いたことがある」
「……数年!?」

 びっくりしたついでに白狼は黒石を打つ。思惑とはズレたところに置いてしまったがもう待ったは利かないためそのままにするしかない。

「なんだよ、数年かかるんだったら銀月も輿入れしてすぐに男ってバレるわけじゃないのかよ」

 馬鹿め、と銀月が白石を置く。いい一手だった。ひょいひょいと黒石を除けられ、白狼肩を落とした。

「帝姫だからといって共寝を拒否したところで、湯あみやら着替えやらですぐ向こうの女官が気付く。そもそも女帝擁立の話がある以上、何年もあの皇后が放って置いてくれると思うか?」
「そっか、そうだよなぁ……」

 確かにそれは無理だろう。輿入れした途端にやられるか、あるいは道中にやられるか、どっちにしろその二択か。選択肢が増えなかったことにややがっかりしながら白狼は碁笥から黒石をつまみ出す。
 そして碁盤に置こうとして、止まった。いくつも並べられた石と石が燭台の灯りを艶やかに反射する。自陣の黒石が一つ、孤立無援の状態だったが、今持っている石をとある目に打てば自陣とつながりが増える。それを見てふと思いついたことがあったのだ。

「どうした?」

 訝し気に銀月が白狼を覗き込んだ。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。 仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。 基本は受け視点(一人称)です。 一日一花BL企画 参加作品も含まれています。 表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!! 完結済みにいたしました。 6月13日、同人誌を発売しました。

ただの雑兵が、年上武士に溺愛された結果。

緑のおおかみ
BL
「強情だな」 忠頼はぽつりと呟く。 「ならば、体に証を残す。どうしても嫌なら、自分の力で、逃げてみろ」  滅茶苦茶なことを言われているはずなのに、俺はぼんやりした頭で、全然別のことを思っていた。 ――俺は、この声が、嫌いじゃねえ。 *******  雑兵の弥次郎は、なぜか急に、有力武士である、忠頼の寝所に呼ばれる。嫌々寝所に行く弥次郎だったが、なぜか忠頼は弥次郎を抱こうとはしなくて――。  やんちゃ系雑兵・弥次郎17歳と、不愛想&無口だがハイスぺ武士の忠頼28歳。  身分差を越えて、二人は惹かれ合う。  けれど二人は、どうしても避けられない、戦乱の濁流の中に、追い込まれていく。 ※南北朝時代の話をベースにした、和風世界が舞台です。 ※pixivに、作品のキャライラストを置いています。宜しければそちらもご覧ください。 https://www.pixiv.net/users/4499660 【キャラクター紹介】 ●弥次郎  「戦場では武士も雑兵も、命の価値は皆平等なんじゃ、なかったのかよ? なんで命令一つで、寝所に連れてこられなきゃならねえんだ! 他人に思うようにされるくらいなら、死ぬほうがましだ!」 ・十八歳。 ・忠頼と共に、南波軍の雑兵として、既存権力に反旗を翻す。 ・吊り目。髪も目も焦げ茶に近い。目鼻立ちははっきりしている。 ・細身だが、すばしこい。槍を武器にしている。 ・はねっかえりだが、本質は割と素直。 ●忠頼  忠頼は、俺の耳元に、そっと唇を寄せる。 「お前がいなくなったら、どこまででも、捜しに行く」  地獄へでもな、と囁く声に、俺の全身が、ぞくりと震えた。 ・二十八歳。 ・父や祖父の代から、南波とは村ぐるみで深いかかわりがあったため、南波とともに戦うことを承諾。 ・弓の名手。才能より、弛まぬ鍛錬によるところが大きい。 ・感情の起伏が少なく、あまり笑わない。 ・派手な顔立ちではないが、端正な配置の塩顔。 ●南波 ・弥次郎たちの頭。帝を戴き、帝を排除しようとする武士を退けさせ、帝の地位と安全を守ることを目指す。策士で、かつ人格者。 ●源太 ・医療兵として南波軍に従軍。弥次郎が、一番信頼する友。 ●五郎兵衛 ・雑兵。弥次郎の仲間。体が大きく、力も強い。 ●孝太郎 ・雑兵。弥次郎の仲間。頭がいい。 ●庄吉 ・雑兵。弥次郎の仲間。色白で、小さい。物腰が柔らかい。

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

処理中です...