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先生と生徒
しおりを挟むハッと気がついた時はもう放課後で、慌てて周りを見渡せばそこは先程とは何ら変わらない風景にほっとして、重ねられていた手をぎゅっと握り直し将吾の頭を撫でながら呼びかける。
「将吾…」
「…んぅ」
「もう学校終わったぞ?」
「んぇ…?まじ?」
寝ぼけ眼の将吾のおでこの冷えピタを剥がし、もう一度掌を当ててみる…
冷やしていた効果が多少はあったのか、さっきよりかは下がったような気もするけど、さっさと帰ってゆっくり休むに越したことはない。
「早く帰ってちゃんと休め…」
「うん…じゃあ…ちゃんと寝たからご褒美ちょうだい…」
「…そうだな」
そんな顔しておねだりされて、やっぱりダメだなんて言えるわけもないだろう。
約束だもん…仕方ない、これはただのご褒美だと自分に言い聞かせながらメガネを外し、将吾の顔の横に手を着き徐々に顔を近ずける…
少し汗ばんだ肌をピンク色に染め、そっと目を閉じる将吾と唇を重ねる…
そして薄く開いた唇に舌をねじ込めば、熱で少し熱い口内と吐息が堪らなく唆る。
前よりも器用に舌を絡めて、俺の首に手を回し積極的に煽ってくる将吾に少し違和感を覚えながら、そっと唇を離した。
「…っ、はぁっ…」
「ご褒美終わり」
「…もう?」
「そろそろ帰る時間だろ?」
「んぅ…」
俺に回した腕を離し素直に帰るのかと思えば、再び布団に潜り込んでしまった将吾…
こりゃ具合が悪い以外にも何かありそうだな。
「なんかあった?」
「…なんもない」
「じゃあ酷くならないうちにもう帰れよ?」
「まだ帰りたくない…」
「んな事言われてもなぁ…」
俺が布団を剥いでさっさと帰れと言うような暴挙に出ることは絶対にしないと将吾も分かっているのか、ひょこっと顔を出して甘えるように俺を見つめてくる。
そんな顔するなよ…
本当に毎度毎度理性を保つのが大変だ。
「加野っちんち行っちゃダメ?」
「家ばダメって言ってるだろ?」
「ケチ…っ」
さすがに家はダメだろ…
そこまで親密になってしまったら、俺の歯止めが効かなくなる。
俺も一応仕事があるからと将吾の頭をポンポンと撫でてデスクに向かうと、保健室の扉がノックもなしにガラガラっと開いた。
「よぉ…将吾いるか?」
「おぉ、隼人!?」
超絶不機嫌顔でズカズカと入ってきた彼は、将吾の幼なじみで唯一の親友の隼人。
隼人はカーテンを勢いよく開けると、将吾は慌てて布団を被って丸まってしまった。
「おい将吾、帰るぞ!」
「やだ…っ!」
「何かあったの??おまえら…」
「うるせぇな関係ねぇだろ?将吾がなんか言ったのかよ…」
「何も聞いてないから聞いてんのぉ」
「お前に関係ねぇだろ?…てかあんたまた将吾に何かしただろ!?」
「えっ…あ…」
してないって言ってしまえばいいものを、何となく口ごもってしまった為に、疑惑の目が向けられる…
二人とも最近まで普通に仲良くしてたはずなのに、ここ最近は何だか上手くいってない様子…
「はぁ…なんでだよ将吾っ!」
「隼人には関係ないだろっ!?何で来るんだよっ!」
「関係なくないだろ?一緒に帰るぞ!」
「やだっ!隼人とは無理って言っただろ!?」
「あぁ!?何でだよっ…ずっと一緒にいたのにっ」
「おいおい、ここで喧嘩すんなよ…」
「うるせぇなぁ!だいたい将吾がこんなんなったのはお前のせいだろ!?エロセンコーは黙ってろよ!」
「うっ…」
隼人が感情的になるのも無理は無い…
俺がここに来た頃は2人共、本当に仲が良かったんだ。
俺も少しは責任を感じて何も言えなくなると、布団を被って丸まってた将吾が急にガバッと起き上がって隼人に向かって珍しく怒鳴り声を上げた。
「何で加野っちに当たるんだよっ!!加野っちは悪くないっ!!隼人のバカっ!!」
「はぁ?何でかばうの?こんな奴のどこがいいんだよっ!」
「隼人にはわかんないよ…っ」
「…くっ、もういいよっ!」
「おい、隼人っ!」
俺は出て行こうとする隼人を引き止めるも、その手を振り払われて隼人はそのまま出ていってしまった。
将吾は俯いたまま布団をぎゅっと握って、今にも涙がこぼれ落ちそうだ…
「将吾ぉ…大丈夫か?」
「ん…っ」
「何があったのよ…」
「隼人が…っ、俺の事好きって…っ」
「あぁ…そんなの何となくわかってだたろ?」
「分かってたけど…っ」
「何ならお前も好きだったじゃん…何がダメなんだよ…」
「違うっ!俺は…俺は加野っちの事が…っ」
心臓がトクりと高鳴る…
将吾は言いかけた言葉を飲み込み、目に涙を溜めながらじっと俺を見つめてくる。
だから、そんな顔で俺を見るなよ…
「将吾…俺はさ…」
「わかってるよ…っ、どうせ先生だからダメだって言うんだろ…っ」
「…うん」
そう…俺は先生、将吾は生徒。
この関係でいる限り、俺らはそれ以上の何にもなれない…
それに俺に関わる事で将吾の将来を潰したくもないし、もう二度と誰かと深く関わったりしたくないんだ。
少しの沈黙の後…
ポケットに手を突っ込んだままベットに座り、将吾の顔を覗き込んで俺から口を開く。
「なんでそんな嫌なのよ…仲良くしてたじゃん」
「だって…っ、隼人優しくないんだもんっ…」
「え?そぉ?口は悪いけど根は優しいじゃん」
「や…じゃなくて…その…////」
「あ…もしかしてお前っ…」
「…っ、無理やり…襲われて…っ」
「えっ…!…で、シた…の?」
「しっ、してねぇよっ////」
仲が良いのは分かってたし、隼人が将吾を気に入ってるのも知ってたけど、まさかそこまで積極的に事が運んでるとは思ってもなかったし、正直俺もビックリで結構衝撃を受けた。
そして何だかとても胸が痛い…
「俺の気持ち…全然わかってねぇし…」
「うーん…好きだから気持ちが先走っちゃっただけだろ…」
「けど俺は嫌だったのっ!」
「嫌だったらちゃんと言えよぉ…仲直りしろ?」
「言ってもわかんねぇよっ、アイツ…」
「わかるまでちゃんと話し合えよ…な?」
「んぅ…でも俺は加野っちが…いい…っ」
頬を赤らめて俺から目を逸らしボソッと呟いた言葉に、俺の気持ちがグラりと揺れる…
俺だって…っ、や、でも…
それなりにやる事やっといて今更なのは百も承知なんだけど…
これ以上は…っ。
抱きしめて俺の物にしてしまいたい気持ちをグッと抑えて、大人の対応を心がけながらポッケから手を出してぽんぽんと頭を撫でると、気持ちを切り替えて立ち上がる。
「俺はみんなに優しいの…分かったらそろそろ帰れよ…」
「加野っち…」
「ん?」
「それでもいい…だからまた…来てもいい?」
「おぅ、当たり前だろ?」
「ん…じゃ帰る」
「おぅ、気をつけてな」
潤んだその純粋な瞳に吸い込まれそうになりながら、俺は自分の気持ちを必死に押し殺した。
ベットから降りると、上履きの踵を踏んでバックを背負い、ヨロヨロと歩き出した将吾がやっぱり少し心配で、でも手を貸したくなる気持ちをグッと抑えて見守った。
「大丈夫?ちゃんと帰れるか?」
「うん…」
「なんかあったらまた言えよ?」
「うん…」
最初はただ将吾の事が心配で、少しでも力になれたらって、深入りはしないって決めてたのに、将吾を見てると世話を焼かずにはいられなかった。
だけどそうやって面倒見てるうちにこんな関係になっちゃって、今更自分の中でルールを決めて線を引いたとて、もう遅いってわかってる…
だけど、先生と生徒だからって言う言い訳でなんとか今の状態を保ってて、それは自分に対する言い訳でもあって、これがある限り俺たちはこれ以上深くは関われないって、そう思い込む事にしたんだ。
俺は将吾の気持ちには答えられない。
いや、むしろ今のままじゃ、誰の気持ちにもまだ答えることは出来ない…
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