放課後の保健室でKissして?

むらさきおいも

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将吾との出会い

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あれは俺がまだこの学校に来たばっかりの頃だから、半年くらい前になるか…

この学校の雰囲気にもぼちぼち慣れて来ると、サボり癖のある奴らがちらほら保健室を使いに来るようになって、その中に将吾もいたんだ。

まだ背も今より少し小さくて、茶髪程度に染めた髪に幼さが残ってて可愛かったんだよな…

今も可愛いけど…///


「せんせー、お腹痛いから寝ていい?」

「嘘はいけませんね~、ここはホテルじゃないんだからね~」

「嘘じゃねぇし、マジで痛ぇの!」

「ふーん、じゃあ先生隣に寝てもいい?」

「はぁ!?ばっかじゃねぇのっ?お前そーゆー趣味あんの?」

「あるって言ったら?」

「うわ、キモっ!もういいっ!」

「ははっ冗談だよ!また来てね~♡」

「もう来ねぇよっ!」


この時はホント冗談のつもりだったのに、まさか本当にこんなにも距離が近くなるなんて思ってもいなかった。

そんなある日、またいつもの様に保健室に来た将吾に異変が起きたんだ。


「せんせ…お腹痛い…」

「また?」

「マジで…最近ずっと痛いんだって…」

「じゃあなんで学校来たんだよ。そーゆー時は休めっ、んでちゃんと病院行け!」

「家…誰もいないし。病院どうすればいいかわかんない…」

「え?うーん…。まぁ、じゃあとりあえず横になんな」

「うん…」


ただこの日はいつになく元気がなくて、顔色も悪く見た目でわかるくらい具合が悪そうだったから、念の為熱を計らせたらそれなりに熱もあるし、これはマジなやつだと思い暫く様子を見る事にしたんだ。


「なんかあったら言えよ?」

「ん…」


そして将吾がベッドに入ってから、10分程が過ぎた頃…

カーテンの奥から僅かに俺を呼ぶ声がして、慌ててカーテンを開けると、真っ青な顔をして苦しそうにうずくまる将吾の姿があった。


「せんせ…気持ち悪い…っ」

「わっ、まじか!ちょっと待ってろ!」


俺は慌てて容器を探してすかさず顔の前に差し出すが、嗚咽だけで何も出ては来ない。


「昨日、生物とか食べた?」

「はぁ…っ、食べてない…っ、てか食欲ない…」

「なぁ将吾…今から病院行こうか」

「病…院…?」

「うん、ちょっと心配…」


最近ずっと痛いって言ってたし、万が一があったらと思って担任に連絡してから、病院に連れて行く準備を始めようとしたその時…


「う"ぅっ…い"っ、痛っっ!!」

「おいっ!大丈夫か!?」

「…っ、痛い…っ、はぁっ、はぁ…っ、助けてっ…」


片手で右腹を押え、もう片方の手を俺に伸ばし力いっぱい腕を捕まれ、ただ事ではない事が伺えた。

冷や汗でベッタリとくっついた前髪をかき分けおでこに手を当てれば、さっきより熱が高いことが伺える。


「さっきより上がってるな…将吾?どこが痛い?」

「はぁ…っ、こ…こっ…」


将吾が示したお腹の位置からしてこれはもしやと思って即刻担任に報告すると共に、救急車の手配をする。

ずっとお腹痛いって言ってたのは、あながち嘘じゃなかったんだ…

食欲もなかったし、顔色も良くなかった。
俺がもっと早くに気がついてやれてれば…

もっと…早くに……?

記憶の奥にチラつく残像を振り払うと、保健室脇に止まった救急車に、急いで俺も乗りこんだ。


「はぁ…せんせ…俺っ…死ぬ?」

「大丈夫だ!絶対死なせないっ!」

「側にいてっ…」

「いるから!ずっと側にいるから!…っ?将吾!?将吾っ!!」


そのまま意識を失った将吾は病院に搬送され、案の定俺の不安が的中し症状が重い事から、緊急手術を行う事になってしまった。


付き添ってる間も、手術中も動悸と冷や汗とが止まらなかった。

もしもの事があったら…
あの時みたなことになったら…っ。

何故なら、病院に運ばれていく生徒を見るのは、俺にとってこれが初めてではなかったからだ。

暫くして担任の先生から、親御さんと連絡が取れないから可能なら自分が向かうまで付き添って欲しいと連絡が入り、それもまたあの時と酷似していて怖くて怖くて仕方なかった。

そして、無事手術が終わり病室に移動すると、真っ先に将吾の手を握った。

麻酔から目覚めるのを待っている間、俺は出逢って間もないこの子の事が、本当に心配で心配で仕方なくて、将吾の手を握る俺の手はずっと震えていたんだ。


「…せん…せ…」

「将吾っ!あぁ…良かったぁ…っ」

「俺…い"っ、、」

「あー動くな動くなっ、手術してるから…」

「えぇ、嘘…っ!?」

「いや、マジ…だから大人しくしてて」

「え…ヤバい…病気…?」

「ううん、とりあえず入院は必要だろうけど、大丈夫だから」

「…そっか」


将吾はまだトロンとした顔でいまいち状況を飲み込めていないようだが、目が覚めてくれて一先ずほっと胸を撫で下ろした。

そして安心とともにふと手を握っていた事に気が付いて、慌ててそれを離した。


「あっ、悪りぃ…つい心配でな」

「握っててよ…落ち着く…」

「そぉ?じゃあ…」

「俺の命の恩人だし」

「そんな大したもんじゃねぇよ。それに、すぐ気が付いてやれなくてごめんな…辛かったろ?」

「ううん…大丈夫…」

「良く頑張ったな…」

「うん…っ」


ようやく自分の置かれた状況を飲み込めてきて安心したのか、将吾の目から大粒の涙が溢れた。


「大丈夫か?」

「怖かった…っ、死んじゃうかと思って…っ」

「そうだよな、怖かったな。でももう大丈夫だからな…」

「ほん…とっ? 」

「あぁ、ほんと」

「良かった…」


頭を優しく撫でてやると、将吾はまたゆっくりと目を閉じて眠りについた。

そして心から安心した俺の頬にも、涙が一雫伝ってほろりと落ちた。

結局その日、将吾の親御さんが来たのは結構夜遅くなってからだったようだ。

将吾は慣れてるからと笑ってたが、子供がこんな時に仕事でもないのに来れない理由ってなんだよって腹が立った。

それから将吾は、家の話もしてくれるようになり、父親はいなくて母親もほとんど家に居ないし兄弟もいないから、帰ってもずっと1人だったと話してくれた。

友達の話なんかもしてくれたが、出てくる名前はいつも同じで、友達もさほど多くもなさそうだった。

だから学校にいる間くらいは俺が守ってやりたい…なんて、またそう思ってしまったんだ。

でもこの時はまだ、男同士だし良い話相手にでもなれれば…くらい軽く考えていた。

そして退院するその日まで毎日お見舞いに行き、ゲーム機や漫画を持って行ったりして面倒を見るようになり仲良くなると、将吾はいつの間にか俺を加野っちと呼ぶようになっていた。


そして数日が経ち、すっかり体調も回復してちゃんと学校に通えるようになった将吾は、今日も保健室に来ていた。


「加野っち、お腹痛い…」

「お前、いい加減それやめて?笑えないから」

「眠みいんだよ…」

「夜中まで遊んでっからだろ?」


俺に断りもなく黙ってベットに入り込むと、すぐに俺を呼ぶ声がする。


「加野っちぃ…」

「なーにー?」

「また手、握ってよ…」

「ふふ…いいよ」


将吾の前髪をかき分け、おでこで体温を計り手を握りながら体調を見るのは、俺の日課になりつつあった。

この頃はまだ、その可愛い寝顔を眺めているだけで良かったんだけど―――
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