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朝です!

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「「「おっはよ~マナッ!!」」」

 ズシッと、体に掛けていた布団越しに重さがのしかかる。
 大して重くはないが、衝撃が……三つ。
 微睡みから急速な覚醒を促されたマナは、おもむろに布団を掴むと――放り投げた。

「クー! ドリー! ルルー!」
「わー」
「逃げろっ」
「にゃはは~」

 三つの影が窓から外へと飛び出す。用意周到に窓を開けていたようだ。

 ああ、いつもの光景だ。

 マナはホッとすると同時に苦笑を零し、もぞもぞと布団から這い出した。勿論、放り投げた掛け布団も回収し、しっかりベッドメイクは忘れない。
 手早く顔を洗い、身支度を済ませ、マナは塔の外へと出る。そこには、悪戯精霊の他に、見慣れた家族達が大量に溢れかえっていた。

「――と言う訳で、名前を付けて欲しいんだ!」

 どうやら、自分達がやらかしたテヘペロ行為を暴露し、名付け協力を自ら頼んでいるようだ。
 そんなクー達の話を聞いた、金の髪に瞳、白いチュニック、ズボン、帽子姿の光の精霊・コーは、呆れた様に息を吐いた。

「お前達がマナに迷惑を掛けてどうするんだ。迷惑なのは精霊王様だけで十分だぞ」

 最もである。

「その『名付け』を手伝ったら、クー達は何くれるんだ?」

 真紅の髪に瞳、赤いチュニック、ズボン、帽子姿の火の精霊・エンの言葉に、白い髪、薄緑の瞳、薄緑のチュニック、スカート、靴姿の風の精霊・フウが笑う。

「マナに同行する権利を譲るってのはどう?」
「あ、それ、良いなぁ」

 水色の髪と瞳、チュニック、スカート、靴姿の水の精霊・スイが同意すると、クー、ドリー、ルルーが大慌てで首を振った。

「マナがどこかに行く時は僕が同行するって、くじ引きで厳正に決めただろ!」
「そうだよ! 今更、変更はダメっ!」
「マナが言ってたにゃ! 魔女に黒猫は付きものなのにゃ!」

 フーと溜め息を零し、土色の髪と瞳、チュニック、ズボン、帽子姿の土の精霊・ノムがポンポンと地面を叩いた。

「皆の衆落ち着け。クー達の口の軽さの責任は後程取らせるとして、今はマナの苦労を減らす方が大事だ」

 見た目は若いのに、どこか古めかしい言葉遣いのノムは再びポンと地面を叩き。

「ふむ……『ぺなるてぃ』に関しては、マナに決めてもらうのが一番だろうな。……おはよう、マナ」

 土色の瞳がマナを映す。
 それにつられる様に精霊達の視線が塔の入り口付近に居るマナへと移り。

「「マナッ! おはよう~!」」

 スイとフウがじゃれる様にマナへと飛びつき。

「おはよう、マナ。気分はどうだい?」

 コーがマナを気遣う様に覗き込み、その肩へとそっと腰掛け。

「マナー! おはおはー!!」

 勢いよく突進し、マナに抱き付くエン。
 そんな他精霊達の行動を見て。

「「あああ~」」

 クーとドリーが負けじと動こうとするが、ノムにがっちりチュニックを掴まれてて無理。

「「あああー……」」

 がっくり項垂れるクーとドリーを見て、スイ、フウ、コー、エンがニヤリと笑い、ノムがしたり顔で頷く。どうやら、こうすればクーとドリーにダメージを与えられると全て計算済みなようだ。
 ルルーはというと……しょぼんとしてはいるが、こういう時は他の精霊に譲るべきだと心得ているのか、その場から動こうとはしない。未練たらたらにマナを見てはいるが……。

「おはよう!」

 挨拶しながら順番に頭を撫でると、マナの周りに居た精霊達が嬉しそうに笑う。
 数歩進み、手を伸ばし――マナはノムの頭も撫でる。

「朝からお疲れ様、ノム」
「うむ」

 凄まじくご満悦である。
 反対に、スルーされた事になるクー、ドリー、ルルーは若干涙目。思わずかわいそうになり、マナは三人の頭も順番に軽く撫で、小首を傾げる。

「そう言えば……」
『うん?』

 ニッコニコなまま精霊達はマナに付き合い小首を傾げ。

「くじ引きって何の事?」

 その一言に、ピシッと固まった。



 随分前の事である。マナの所に飛んできたクーが訊ねた。

「ねえ。マナの世界では、こーへーに物事決める時ってどうするの?」
「え? そうだなぁ……」

 何があったかな? と考え、浮かんできたのが運任せ要素の強い『くじ引き』、『じゃんけん』等々。
 後は……公平にというなら、民主主義には欠かせない『多数決』? でもこれって、ある意味数の暴力だよなぁと却下。
 かけっことかの勝負? いやいやいや。これって不公平だよね。得意不得意あるし。
 じゃあやっぱり、運も実力の内って事で!
 そう結論付け、マナはくじ引きとかじゃんけんとかを教え。

「遣り方は?」
「えっと……」

 勝負の決着の付け方を含め、なるべく分かりやすくクーに伝え。

「そっか! ありがとうっ!」

 嬉しそうに飛んでいくクーを見送った――記憶がある。

「くじ引きで、何を決めたのかな?」

 話を聞いていたのだから、何か起きた時、誰がマナに同行するかを決める為にくじ引きしたのは分かっているが、わざとらしく聞いてみる。
 どうにも素直な精霊達は、マナに黙ってそういう事を決めていたのが後ろ暗いのか、揃って明後日の方を向いてしまう。

「クー? ドリー? ルルー?」

 一緒に居る機会が多い三人に声を掛けるが、時々、チラッとマナを見るだけで顔をこちらに向けようとはしない。

「コー? エン? スイ? フウ?」

 こちらも、チラチラとマナを窺いながら、さり気なさを必死に装いつつ離れていこうとまでする。

「ノームさん?」

 クーとドリーを掴まえている為、身動きの取れないノム。こちらはジッと地面を見詰めていたかと思うと、意を決した様に顔を上げた。

「ワシ等はみな、マナが好きなんじゃっ!」

 突然の告白(?)に、マナは目を瞬き。

「ありがとう?」

 取り敢えず、素直に嬉しいからお礼を言うが、どうにも疑問形になってしまう。何が言いたい?

「好きだからこそ、マナにどこまでもついて行きたい! だが、全員一緒ではうるさいし迷惑だと思い、何かあった時に同行する者を事前に決めていたのじゃあっ!!」
『おお~』

 真っ赤になりながら叫ぶノム。その場に居た精霊達が歓声を上げ拍手をする。

 どうも、精霊達は精霊達なりにマナの事を考え、何かあったらどうするかを決めていたようだ。
 だが……。

「いや別に? みんな一緒でも迷惑じゃないよ?」
『えっ!?』

 まあ、かなり賑やかかもしれないが、マナ自身、精霊達はみんな好きだ。一緒に居て迷惑などある訳ない。

「あ、あの時、話し合った意味は……」

 コーが項垂れ。

「ま、真っ先に負けて落ち込んだのに……」

 エンががっくりと膝をつき。

「悔し涙を流したのにぃ~」
「ううう……」

 スイとフウが手を取り合い。

「わ、ワシ等の気遣いは……無駄だったのか……」

 ノムが深々と溜め息を落とし。

「えーと……」
「どうしよ?」
「にゃ~……」

 今更、みんな一緒に行くとは言えないだろうなぁと、クー、ドリー、ルルーは顔を見合わせ。

 そんな、何とも言えない空気は。

「マナッ! おはようございますっ!!」

 空気の読めない精霊王サーシュがマナに抱き付き。

『あああああーーーーーっ! ダメェーーーーーーーっ!!!』

 一瞬にして立ち直った精霊達が、全員揃ってそれを引きはがそうとし。

「……朝から賑やかだなぁ」

 慣れてしまったマナの一言で、全てが霧散するのであった。
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