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森には『また』がたくさんあります
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空の精霊なお爺ちゃんに誘われるまま北の森――人の世では精霊の森と呼ばれている――に住み着いたマナ。
生活を始めて直ぐに実感した『自分がやらなきゃ何も出てこない!』精神を持ち続け、わんぱくな精霊を癒す日々。
暇つぶしに始めた畑に植える種を精霊に用意してもらい魔法で水を上げたり、元の世界にいた時は親に任せっぱなしになっていた料理に挑戦してみたり、魔法の限界に挑戦と言って精霊と遊んだり、それなりに充実していた。
「マナ~」
「クー……またドリーが怪我でもした?」
畑を広げようかなと魔法で土を耕していたマナは、ふらふら飛んでポスンと手に落ちてきたクーを目の高さに両手で持ち上げ首を傾げる。
そんなマナを四つん這いになったクーがうるうるっと見詰めた。
「違う~。南の木が人間に伐られてた」
「今度はそっちの『また』!?」
精霊の怪我が自然へと返る様に、自然破壊もまた精霊へ返る。酷い時は消滅という形で。
以前にも木を伐採され樹の精霊が瀕死になった事がある為、マナの顔は険しくなる。
マナはクーを左手に乗せると、空いた右手で宙を掻く。
すると、空中が軽く歪み、大量の木が伐り倒された一角が映し出された。
「あ~……この辺りはアリーの司る樹、だね」
「アリーは大丈夫?」
「見てくるから、クーは塔に居て」
魔法でクーの体を浮かべ、窓枠に座らせる。
その後、パチンッと指を鳴らすと――。
――次の瞬間、伐採された木が見える森の中に立っていた。
行きたい場所にサクッと行ける。この魔法は急いでいる時には大変便利だ。
近くの木を見上げながら、切り株へと近付いていく。
「アリー?」
「あ……マナ~~~!」
泣きそうな声と共に、小さな緑色が近くの木から落ちてくる。
マナは慌ててそれを両手で受け止め、ホッとしながら目の高さに持ってきた。
「アリー、大丈夫?」
「少し力は落ちたけど大丈夫」
緑の髪、茶色の目、緑のチュニック、スカート、靴。女の子バージョンの樹の精霊アリーが言葉とは裏腹に目に涙を溜めてマナを見る。
よく見ると、可愛い顔は細かな切り傷でかなり痛々しい。
その姿にマナはムッとし、アリーを左手に乗せると、右手をエイッと横に薙ぎ払う。
マナの手の動きに合わせ『力』が渦を巻き――それまで切り株だった樹が一斉に復元した。
最早何でもありなマナの魔法。しかしそれこそがファンタジー。
出来るのが当たり前になっているマナは、樹が復元したのを見ると今度は右手を下から上へ振り上げ、
「自然破壊禁止ーーーーー!!」
と叫ぶ。
その大声と共に森が広がった。
目に涙を溜めていたアリーは、その光景にぽかんと口を開け、マナの手にへたり込んだ。
「マナ……樹の精霊、増えるよ……」
「うー……その時はその時!」
「……新しく生まれたら、また、名前付けてね」
「うぐ……頑張って考える」
そう。マナがこの森に来るまで、精霊達には固有の名前がなかった。
皆、種族名で呼び合うものだから「樹の精霊」なんて呼ぶと、近くに居た樹の精霊が一斉に振り返るのが当たり前。
あまりにも不便を感じたマナが、一人ひとりに名前を付け、喜んだ精霊達がそれを仲間に名乗り、羨ましがった仲間がマナの元を訪れ名前を付けてもらい、またその精霊が自慢して……といった事が繰り返され。
結果として、この精霊の森に住む精霊達には固有名が付き、新しく生まれるとお兄さんお姉さんになった精霊が新米精霊をマナの所に連れて来て名前を付けるのが定番になった。
まあ、喜んでくれるので良しとしようとマナは思っている。
……段々、使える文字が少なくなってきているので名付けが大変になってはいるが……。
精霊が増え、顔と名前を一致させるのが大変になってきてはいるが……うん。良しとしようという事にしている。
取り敢えず、いつかの未来を心配しても仕方ないので新米精霊が出る可能性の話は明後日の方向へすっ飛ばし、マナは本来の目的を達成する為アリーに手をかざし傷を癒す。
精霊とはいえ女の子。傷が残っては大変だ。じっくり、丁寧に手当てした。
治療が一段落し、傷が残っていないかアリーを見る。見える範囲に傷は無い。
「アリー。違和感は無い?」
「無いよ。ありがとう、マナ!」
先程まで泣きそうだった顔も声も存在しない。
その事にマナはホッとし、近くの木にアリーを下ろすと、その小さな頭をくりくりと撫でる。
「もう大丈夫だね。私は塔に帰るね」
「うん!」
嬉しそうにばいばいと手を振るアリーに手を振り返し、マナは指を鳴らす。
音が鳴り終わると同時、マナは塔に帰り着き、
「お帰り、マナー!」
お留守番(?)のクーに出迎えられた。
「ただいま。アリーは大丈夫だよ」
「良かったー」
空の精霊の行動範囲は広い。常に飛び回っているようなものだから、ある意味森の見回り番。
そのお蔭か、他種の精霊とも仲が良く、心配性な優しい気質を持っている。
だからこそ、アリーは大丈夫というマナの言葉にクーは本当に嬉しそうな顔をした。
「あ、そうだ……」
「ん?」
マナの気まずそうな呟きに、クーはこてんと首を傾げながらふよふよと浮かぶ。
「えーと……」
視線をあちこちに彷徨わせ挙動不審なマナにクーが近付く。
その顔の前に辿り着くと、再びこてんと首を傾げた。
「マナ?」
「うん……」
「うー」とか「あー」とか呻くマナに、クーはハッと目を見張り。
「マナ! まさか『また』――!!」
「えへへ……樹を増やしちゃった」
「ちゃった、じゃないよ!!」
「うわーん、ごめーーん! だってだってーーー!!」
マナが初めて遣って来た頃より、確実に広がっている森。
そして増えてる樹の精霊。
精霊を大切にしてくれるのも、心配してくれるのも嬉しい。
嬉しい、が。
「……取り敢えず、皆に、森が広がったって伝える……」
森が豊かになる事により、人間が伐採に遣って来る確率がまた上がる。
マイナス要因が増えた事にがっくり項垂れるクー。
「人間が樹を伐れない様にするとかさー。何か違う事出来ないのー?」
「あ、そっか! 樹を伐ろうとしたら怪我するとか魔法掛けちゃう?!」
「それ呪いだからっ! そんな事したら、この森『呪いの森』になっちゃうからっ!!」
名案と言わんばかりに手を叩いたマナに、クーは慌てて突っ込む。
ダメだ。マナを野放しにしたら危険だ……!!
「うう……マナは何も考えず、畑でも増やしててよ」
「あ、そうだ、畑!」
クーの言葉にマナは耕し半端にしていた畑を見る。
折角用意してもらった種だから、今日中に植えようと思っていたのだった。
いそいそと畑を耕す作業に戻るマナ。
こんな簡単に誤魔化されて良いのだろうか……。
そんな事を考えながら、空高く舞い上がるクー。
「……空の精霊仲間に樹が増えた事を報告して……手分けして森の皆に伝えなきゃ……」
ちょっとしたハプニングはあるものの、精霊の森は平和です。
生活を始めて直ぐに実感した『自分がやらなきゃ何も出てこない!』精神を持ち続け、わんぱくな精霊を癒す日々。
暇つぶしに始めた畑に植える種を精霊に用意してもらい魔法で水を上げたり、元の世界にいた時は親に任せっぱなしになっていた料理に挑戦してみたり、魔法の限界に挑戦と言って精霊と遊んだり、それなりに充実していた。
「マナ~」
「クー……またドリーが怪我でもした?」
畑を広げようかなと魔法で土を耕していたマナは、ふらふら飛んでポスンと手に落ちてきたクーを目の高さに両手で持ち上げ首を傾げる。
そんなマナを四つん這いになったクーがうるうるっと見詰めた。
「違う~。南の木が人間に伐られてた」
「今度はそっちの『また』!?」
精霊の怪我が自然へと返る様に、自然破壊もまた精霊へ返る。酷い時は消滅という形で。
以前にも木を伐採され樹の精霊が瀕死になった事がある為、マナの顔は険しくなる。
マナはクーを左手に乗せると、空いた右手で宙を掻く。
すると、空中が軽く歪み、大量の木が伐り倒された一角が映し出された。
「あ~……この辺りはアリーの司る樹、だね」
「アリーは大丈夫?」
「見てくるから、クーは塔に居て」
魔法でクーの体を浮かべ、窓枠に座らせる。
その後、パチンッと指を鳴らすと――。
――次の瞬間、伐採された木が見える森の中に立っていた。
行きたい場所にサクッと行ける。この魔法は急いでいる時には大変便利だ。
近くの木を見上げながら、切り株へと近付いていく。
「アリー?」
「あ……マナ~~~!」
泣きそうな声と共に、小さな緑色が近くの木から落ちてくる。
マナは慌ててそれを両手で受け止め、ホッとしながら目の高さに持ってきた。
「アリー、大丈夫?」
「少し力は落ちたけど大丈夫」
緑の髪、茶色の目、緑のチュニック、スカート、靴。女の子バージョンの樹の精霊アリーが言葉とは裏腹に目に涙を溜めてマナを見る。
よく見ると、可愛い顔は細かな切り傷でかなり痛々しい。
その姿にマナはムッとし、アリーを左手に乗せると、右手をエイッと横に薙ぎ払う。
マナの手の動きに合わせ『力』が渦を巻き――それまで切り株だった樹が一斉に復元した。
最早何でもありなマナの魔法。しかしそれこそがファンタジー。
出来るのが当たり前になっているマナは、樹が復元したのを見ると今度は右手を下から上へ振り上げ、
「自然破壊禁止ーーーーー!!」
と叫ぶ。
その大声と共に森が広がった。
目に涙を溜めていたアリーは、その光景にぽかんと口を開け、マナの手にへたり込んだ。
「マナ……樹の精霊、増えるよ……」
「うー……その時はその時!」
「……新しく生まれたら、また、名前付けてね」
「うぐ……頑張って考える」
そう。マナがこの森に来るまで、精霊達には固有の名前がなかった。
皆、種族名で呼び合うものだから「樹の精霊」なんて呼ぶと、近くに居た樹の精霊が一斉に振り返るのが当たり前。
あまりにも不便を感じたマナが、一人ひとりに名前を付け、喜んだ精霊達がそれを仲間に名乗り、羨ましがった仲間がマナの元を訪れ名前を付けてもらい、またその精霊が自慢して……といった事が繰り返され。
結果として、この精霊の森に住む精霊達には固有名が付き、新しく生まれるとお兄さんお姉さんになった精霊が新米精霊をマナの所に連れて来て名前を付けるのが定番になった。
まあ、喜んでくれるので良しとしようとマナは思っている。
……段々、使える文字が少なくなってきているので名付けが大変になってはいるが……。
精霊が増え、顔と名前を一致させるのが大変になってきてはいるが……うん。良しとしようという事にしている。
取り敢えず、いつかの未来を心配しても仕方ないので新米精霊が出る可能性の話は明後日の方向へすっ飛ばし、マナは本来の目的を達成する為アリーに手をかざし傷を癒す。
精霊とはいえ女の子。傷が残っては大変だ。じっくり、丁寧に手当てした。
治療が一段落し、傷が残っていないかアリーを見る。見える範囲に傷は無い。
「アリー。違和感は無い?」
「無いよ。ありがとう、マナ!」
先程まで泣きそうだった顔も声も存在しない。
その事にマナはホッとし、近くの木にアリーを下ろすと、その小さな頭をくりくりと撫でる。
「もう大丈夫だね。私は塔に帰るね」
「うん!」
嬉しそうにばいばいと手を振るアリーに手を振り返し、マナは指を鳴らす。
音が鳴り終わると同時、マナは塔に帰り着き、
「お帰り、マナー!」
お留守番(?)のクーに出迎えられた。
「ただいま。アリーは大丈夫だよ」
「良かったー」
空の精霊の行動範囲は広い。常に飛び回っているようなものだから、ある意味森の見回り番。
そのお蔭か、他種の精霊とも仲が良く、心配性な優しい気質を持っている。
だからこそ、アリーは大丈夫というマナの言葉にクーは本当に嬉しそうな顔をした。
「あ、そうだ……」
「ん?」
マナの気まずそうな呟きに、クーはこてんと首を傾げながらふよふよと浮かぶ。
「えーと……」
視線をあちこちに彷徨わせ挙動不審なマナにクーが近付く。
その顔の前に辿り着くと、再びこてんと首を傾げた。
「マナ?」
「うん……」
「うー」とか「あー」とか呻くマナに、クーはハッと目を見張り。
「マナ! まさか『また』――!!」
「えへへ……樹を増やしちゃった」
「ちゃった、じゃないよ!!」
「うわーん、ごめーーん! だってだってーーー!!」
マナが初めて遣って来た頃より、確実に広がっている森。
そして増えてる樹の精霊。
精霊を大切にしてくれるのも、心配してくれるのも嬉しい。
嬉しい、が。
「……取り敢えず、皆に、森が広がったって伝える……」
森が豊かになる事により、人間が伐採に遣って来る確率がまた上がる。
マイナス要因が増えた事にがっくり項垂れるクー。
「人間が樹を伐れない様にするとかさー。何か違う事出来ないのー?」
「あ、そっか! 樹を伐ろうとしたら怪我するとか魔法掛けちゃう?!」
「それ呪いだからっ! そんな事したら、この森『呪いの森』になっちゃうからっ!!」
名案と言わんばかりに手を叩いたマナに、クーは慌てて突っ込む。
ダメだ。マナを野放しにしたら危険だ……!!
「うう……マナは何も考えず、畑でも増やしててよ」
「あ、そうだ、畑!」
クーの言葉にマナは耕し半端にしていた畑を見る。
折角用意してもらった種だから、今日中に植えようと思っていたのだった。
いそいそと畑を耕す作業に戻るマナ。
こんな簡単に誤魔化されて良いのだろうか……。
そんな事を考えながら、空高く舞い上がるクー。
「……空の精霊仲間に樹が増えた事を報告して……手分けして森の皆に伝えなきゃ……」
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