6 / 11
本編 6 終わり
しおりを挟む
epilogue
「ただいま~」
玄関を開けると、いつも通りアースがたしたしと駆けてきた。
その小さな体を抱き上げ頬擦りすると、可愛らしい鳴き声が聞こえ――。
温かな手がアースと私の頬を離した。
「へ……?」
手の主を振り返ると、少しだけ拗ねた様な統也君が、私からアースを取り上げた。
「……俺の前で、アースに頬ずりとかは厳禁」
「え??」
と、突然何?
今まで、そんな事言わなかったよね?
「――妬けるから、ダメ」
「――っ!!」
内緒話の様に耳元で囁かれ、息が止まりそうになる。
「やややややや妬けるって! 相手はアースだよ?!」
どもりながらも何とか返事すると。
統也君は自分の手の中のアースをチラッと見て。
「……アースって……オスだったよな?」
「え? うん」
先週末、統也君が調べてくれた評判の良い獣医に行って、ワクチン接種と性別確認、一緒にやったよね?
不思議に思いながら統也君の顔を見ていると、統也君は深々と溜め息を零し。
「……最大のライバルがアース、か」
「は?」
呟く言葉に瞬きを繰り返し、思わず、統也君とアースを見比べ――
「……」
言葉を失った。
だって、あれほど統也君に懐いていた筈のアースが、統也君の手の中で暴れている。
しかも、それだけじゃ足りないとでも言うように、統也君の指を噛んでいる様な……?
「あ、アース!?」
慌ててそれをやめさせようとしたけど、何故か統也君に止められる。
止められる理由が分からず、困惑しながらも心配して統也君を見上げる。どうして?
統也君は微かに笑い。
「――」
おふうっ!? 不意打ちは止めてーーーーー!!
沸騰した頭と顔で統也君を睨み付けると、統也君は苦笑を零した。
「ほら、ライバルだ」
「……え?」
統也君が視線で促す先にはアース。
真っ黒い仔猫はいつの間にか統也君の手から逃れ、玄関先で毛を逆立て唸っている。
「あ、アース?」
私が呼び掛けると、それまでの様子が嘘の様に「なお」と鳴きつつ擦り寄って甘えてくる。
……うん。これが統也君の言った『ライバル』って事?
確認する様に統也君を見上げると、統也君は頷き。
「完全に嫉妬」
自分の気持ちに気付いた頃から、時々、こういう事があったんだよなぁと統也君が呟く。
き、気付かなかった……。
「ちなみに。その時から茜がアースに頬擦りしたりするのをモヤモヤしながら見てたんだよなぁ」
そ、それも気が付かなかった……。
「そういう理由だから、俺の前で過剰なスキンシップは禁止」
艶やかに笑い、統也君が私に手を伸ばし――
「うにゃっ!!」
アースが統也君の足に飛び付いた。
「……」
「……」
「ふーーーーーー」
な、何故だろう。何故かとてもいたたまれない。
私が何も出来ず、無言で立ったまま統也君とアースを見守っていると、統也君はアースを見ながら伸ばしていた手で私を捕まえた。
「ふーーーーー」
再び、アースが威嚇する様に鳴くけど、統也君は全く気にせず私を抱き締めてきた。
「ととととと統也君っ!?」
焦る私を気にもせず、アースをひょいっと掴み上げ、艶然と笑う。
「少しくらい、譲ってくれても良いだろう?」
「ふーーーーー」
何故か対等に会話(?)している統也君とアース。
私は為す術もなく見ているしかなくて――。
ふと、思い出す。
あれ……原作のアニメだか漫画に、アースと統也君がライバルっぽい描写……あったっけ?
……うん、ない。
統也君の腕の中から、一人と一匹を見る。
「うん?」
その視線に気付いたのか、統也君が微笑みながら私を覗き込み首を傾げ、アースが甘える様に鳴く。
恥ずかしいけど……手を伸ばし、統也君とアースをそっと抱き締める。
統也君はちょっと眉を上げた後、嬉しそうに私を抱く腕に力を込め、アースはいつも通りゴロゴロと喉を鳴らす。
私は……じ、自覚したばかりの気持ちだけど、間違いなく統也君もアースも大切で。
欲張りだけど、手にした温もりを放さない、放したくないと思うから。
「……大好き」
精一杯の気持ちを伝える。
「俺も」
「なぁう」
返されたものに、心がポカポカ温かくなる。
うん。絶対、絶対にこの手を放さない。放してやらない。
目の前で取り合い(?)されるのは困るけど。
私は欲張りだから――。
統也君とアース。私の幸せを抱き締めた。
「ただいま~」
玄関を開けると、いつも通りアースがたしたしと駆けてきた。
その小さな体を抱き上げ頬擦りすると、可愛らしい鳴き声が聞こえ――。
温かな手がアースと私の頬を離した。
「へ……?」
手の主を振り返ると、少しだけ拗ねた様な統也君が、私からアースを取り上げた。
「……俺の前で、アースに頬ずりとかは厳禁」
「え??」
と、突然何?
今まで、そんな事言わなかったよね?
「――妬けるから、ダメ」
「――っ!!」
内緒話の様に耳元で囁かれ、息が止まりそうになる。
「やややややや妬けるって! 相手はアースだよ?!」
どもりながらも何とか返事すると。
統也君は自分の手の中のアースをチラッと見て。
「……アースって……オスだったよな?」
「え? うん」
先週末、統也君が調べてくれた評判の良い獣医に行って、ワクチン接種と性別確認、一緒にやったよね?
不思議に思いながら統也君の顔を見ていると、統也君は深々と溜め息を零し。
「……最大のライバルがアース、か」
「は?」
呟く言葉に瞬きを繰り返し、思わず、統也君とアースを見比べ――
「……」
言葉を失った。
だって、あれほど統也君に懐いていた筈のアースが、統也君の手の中で暴れている。
しかも、それだけじゃ足りないとでも言うように、統也君の指を噛んでいる様な……?
「あ、アース!?」
慌ててそれをやめさせようとしたけど、何故か統也君に止められる。
止められる理由が分からず、困惑しながらも心配して統也君を見上げる。どうして?
統也君は微かに笑い。
「――」
おふうっ!? 不意打ちは止めてーーーーー!!
沸騰した頭と顔で統也君を睨み付けると、統也君は苦笑を零した。
「ほら、ライバルだ」
「……え?」
統也君が視線で促す先にはアース。
真っ黒い仔猫はいつの間にか統也君の手から逃れ、玄関先で毛を逆立て唸っている。
「あ、アース?」
私が呼び掛けると、それまでの様子が嘘の様に「なお」と鳴きつつ擦り寄って甘えてくる。
……うん。これが統也君の言った『ライバル』って事?
確認する様に統也君を見上げると、統也君は頷き。
「完全に嫉妬」
自分の気持ちに気付いた頃から、時々、こういう事があったんだよなぁと統也君が呟く。
き、気付かなかった……。
「ちなみに。その時から茜がアースに頬擦りしたりするのをモヤモヤしながら見てたんだよなぁ」
そ、それも気が付かなかった……。
「そういう理由だから、俺の前で過剰なスキンシップは禁止」
艶やかに笑い、統也君が私に手を伸ばし――
「うにゃっ!!」
アースが統也君の足に飛び付いた。
「……」
「……」
「ふーーーーーー」
な、何故だろう。何故かとてもいたたまれない。
私が何も出来ず、無言で立ったまま統也君とアースを見守っていると、統也君はアースを見ながら伸ばしていた手で私を捕まえた。
「ふーーーーー」
再び、アースが威嚇する様に鳴くけど、統也君は全く気にせず私を抱き締めてきた。
「ととととと統也君っ!?」
焦る私を気にもせず、アースをひょいっと掴み上げ、艶然と笑う。
「少しくらい、譲ってくれても良いだろう?」
「ふーーーーー」
何故か対等に会話(?)している統也君とアース。
私は為す術もなく見ているしかなくて――。
ふと、思い出す。
あれ……原作のアニメだか漫画に、アースと統也君がライバルっぽい描写……あったっけ?
……うん、ない。
統也君の腕の中から、一人と一匹を見る。
「うん?」
その視線に気付いたのか、統也君が微笑みながら私を覗き込み首を傾げ、アースが甘える様に鳴く。
恥ずかしいけど……手を伸ばし、統也君とアースをそっと抱き締める。
統也君はちょっと眉を上げた後、嬉しそうに私を抱く腕に力を込め、アースはいつも通りゴロゴロと喉を鳴らす。
私は……じ、自覚したばかりの気持ちだけど、間違いなく統也君もアースも大切で。
欲張りだけど、手にした温もりを放さない、放したくないと思うから。
「……大好き」
精一杯の気持ちを伝える。
「俺も」
「なぁう」
返されたものに、心がポカポカ温かくなる。
うん。絶対、絶対にこの手を放さない。放してやらない。
目の前で取り合い(?)されるのは困るけど。
私は欲張りだから――。
統也君とアース。私の幸せを抱き締めた。
0
お気に入りに追加
232
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。
桐壺の更衣になるはずだった私は受領の妻を目指します
白雪の雫
恋愛
美容オタクというか休みの日は料理を作ったり、アロマオイルマッサージをしたり、アロマオイルを垂らしてバスタイムを楽しんでいるアラフィフ女な私こと桐谷 瑞穂はどうやら【平安艶話~光源氏の恋~】という源氏物語がベースになっている乙女ゲームに似た世界に、それも入内したら桐壺の更衣と呼ばれる女性に転生した・・・らしい。
だって、私の父親が按察使の大納言で母親が皇族だったのだもの!
桐壺の更衣ってあれよね?
父親が生きていれば女御として入内出来ていたかも知れないのに、父親が居ない為に更衣として入内するしかなかった、帝に愛されちゃったが故に妃達だけではなく公達からも非難されていた大納言家の姫にして主人公である光源氏の母親。
そして主人公が母親の面影を求めて数多の姫達に手を出すと同時に、彼女達を苦しめ不幸となる切っ掛けともなった女性──・・・。
ゲームでは父親の遺言から幼い光源氏を残して逝くところまでが語られるけど、実は後見人が居ない状態で入内する前に私を心配して保護しようとしてくれている年上男性の存在が語られているし立ち姿もちゃんとあるのよね~。
その男性は智寿といって受領で超金持ち!長身のゴリマッチョ!しかもセクシーな低音ボイス!
実は女性受けしそうな外見をしている帝や光源氏、頭中将達といったキャラよりも筋骨隆々な智寿様が推しだったのよね~♡
今の私は大納言の姫とはいえ根は二十一世紀の日本で生きていた庶民。
そんな私が帝の妃として・・・否!何もかも占いで行動が決められるという窮屈な場所で生きて行けるはずがない!
よしっ!決めた!
二十一世紀・・・とは言わないけれど、せめて健康的で清潔な生活を送る為に私は智寿様の妻になる!!!
私が入内しなければ藤壺も葵の上も六条の御息所も・・・皆不幸にならないもの!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる