茜空

美緒

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本編 6 終わり

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epilogue

「ただいま~」

 玄関を開けると、いつも通りアースがたしたしと駆けてきた。
 その小さな体を抱き上げ頬擦りすると、可愛らしい鳴き声が聞こえ――。

 温かな手がアースと私の頬を離した。

「へ……?」

 手の主を振り返ると、少しだけ拗ねた様な統也君が、私からアースを取り上げた。

「……俺の前で、アースに頬ずりとかは厳禁」
「え??」

 と、突然何?
 今まで、そんな事言わなかったよね?

「――妬けるから、ダメ」
「――っ!!」

 内緒話の様に耳元で囁かれ、息が止まりそうになる。

「やややややや妬けるって! 相手はアースだよ?!」

 どもりながらも何とか返事すると。
 統也君は自分の手の中のアースをチラッと見て。

「……アースって……オスだったよな?」
「え? うん」

 先週末、統也君が調べてくれた評判の良い獣医に行って、ワクチン接種と性別確認、一緒にやったよね?
 不思議に思いながら統也君の顔を見ていると、統也君は深々と溜め息を零し。

「……最大のライバルがアース、か」
「は?」

 呟く言葉に瞬きを繰り返し、思わず、統也君とアースを見比べ――

「……」

 言葉を失った。
 だって、あれほど統也君に懐いていた筈のアースが、統也君の手の中で暴れている。
 しかも、それだけじゃ足りないとでも言うように、統也君の指を噛んでいる様な……?

「あ、アース!?」

 慌ててそれをやめさせようとしたけど、何故か統也君に止められる。
 止められる理由が分からず、困惑しながらも心配して統也君を見上げる。どうして?

 統也君は微かに笑い。

「――」

 おふうっ!? 不意打ちは止めてーーーーー!!

 沸騰した頭と顔で統也君を睨み付けると、統也君は苦笑を零した。

「ほら、ライバルだ」
「……え?」

 統也君が視線で促す先にはアース。
 真っ黒い仔猫はいつの間にか統也君の手から逃れ、玄関先で毛を逆立て唸っている。

「あ、アース?」

 私が呼び掛けると、それまでの様子が嘘の様に「なお」と鳴きつつ擦り寄って甘えてくる。

 ……うん。これが統也君の言った『ライバル』って事?

 確認する様に統也君を見上げると、統也君は頷き。

「完全に嫉妬」

 自分の気持ちに気付いた頃から、時々、こういう事があったんだよなぁと統也君が呟く。
 き、気付かなかった……。

「ちなみに。その時から茜がアースに頬擦りしたりするのをモヤモヤしながら見てたんだよなぁ」

 そ、それも気が付かなかった……。

「そういう理由だから、俺の前で過剰なスキンシップは禁止」

 艶やかに笑い、統也君が私に手を伸ばし――

「うにゃっ!!」

 アースが統也君の足に飛び付いた。

「……」
「……」
「ふーーーーーー」

 な、何故だろう。何故かとてもいたたまれない。

 私が何も出来ず、無言で立ったまま統也君とアースを見守っていると、統也君はアースを見ながら伸ばしていた手で私を捕まえた。

「ふーーーーー」

 再び、アースが威嚇する様に鳴くけど、統也君は全く気にせず私を抱き締めてきた。

「ととととと統也君っ!?」

 焦る私を気にもせず、アースをひょいっと掴み上げ、艶然と笑う。

「少しくらい、譲ってくれても良いだろう?」
「ふーーーーー」

 何故か対等に会話(?)している統也君とアース。
 私は為す術もなく見ているしかなくて――。

 ふと、思い出す。
 あれ……原作のアニメだか漫画に、アースと統也君がライバルっぽい描写……あったっけ?

 ……うん、ない。

 統也君の腕の中から、一人と一匹を見る。

「うん?」

 その視線に気付いたのか、統也君が微笑みながら私を覗き込み首を傾げ、アースが甘える様に鳴く。
 恥ずかしいけど……手を伸ばし、統也君とアースをそっと抱き締める。
 統也君はちょっと眉を上げた後、嬉しそうに私を抱く腕に力を込め、アースはいつも通りゴロゴロと喉を鳴らす。

 私は……じ、自覚したばかりの気持ちだけど、間違いなく統也君もアースも大切で。
 欲張りだけど、手にした温もりを放さない、放したくないと思うから。

「……大好き」

 精一杯の気持ちを伝える。

「俺も」
「なぁう」

 返されたものに、心がポカポカ温かくなる。
 うん。絶対、絶対にこの手を放さない。放してやらない。

 目の前で取り合い(?)されるのは困るけど。
 私は欲張りだから――。

 統也君とアース。私の幸せを抱き締めた。
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