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本編 2
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Chapter.2
HRが終了した途端。私は鞄を手に取り、さっさと教室を後にする。
担任より教室を後にするのが早いけど気にしてられない。速攻で帰って、アースと遊ぶ方が大事だ。
昇降口に足早に向かっていると、背後から足音が複数聞こえ。
「茜!」
ポンと肩を叩かれた。
叩いてきたのは、同じクラスの友人達。
「随分急いでるね?」
「うん。家で、可愛い『家族』が待ってるから」
「え?」
「先週末にね、仔猫拾ったの」
「え! どんな子、どんな子!?」
私と同じくらい可愛いもの好きな友人達は食いつき方が違う。並んで歩きながらも、興味津々といった顔で私を見ている。
「全身が真っ黒でね、綺麗な瑠璃色の瞳をしている可愛い子!」
ちょっとだけ自慢げに言うと、友人達が笑った。
「茜ってば。もう飼い主バカになってる」
「だって、そのくらい可愛いんだよ!」
力説すると、「写真ないの?」と聞いてきたから、スマホの待ち受け画面を見せる。
そこには、こっちを見上げているアースの姿。
「かっ、可愛い~~~!」
「ホントに綺麗な瞳の色だね」
写真を覗き込みながら友人達がアースを褒めてくれる。
それが嬉しくて、思わずデレる私。するとまた、友人達が笑った。
「こんなに可愛い子が待ってるなら、早く帰ってあげたいよね」
「そういう事」
足を止めずに断言すると、友人達は笑ったまま立ち止り手を振る。
「では、急ぐのだ茜よっ!」
「あはは、らじゃー」
「落ち着いたら、あたし達にも会わせてよー」
「勿論!」
友人達は部活があるから、また明日、と手を振って別れ、私は昇降口に急ぐ。
帰ったら、まずは掃除しないと。トイレのしつけとかやっているけど、まだ数日。完璧ではない。だからこそ掃除大事。不潔な所為で病気になっちゃうとか冗談じゃない。
昇降口で靴に履き替え、正門に向かう。
拾ってから、こんなに長時間離れている事なかったから、アース、寂しがっているかな。急がないと。
小走り気味に正門を抜けた途端。
「結城」
「へ?」
呼ばれて振り返ると、丁度正門を抜けてくる彼――皐月君の姿があった。
「随分と急いでいるな」
長い足で私に追い付くと、促すように歩き出した。
私は困惑しながらも、皐月君の半歩後ろをついて行くしかない。
「アースが待っているから、早く帰りたいだけ」
「ああ、なるほど。……随分、可愛がっているんだな」
チラッと私を見て微笑する皐月君。普段、笑っているところなど見た事ないから結構な破壊力です。美形、恐るべし。
「だって、本当に可愛いから」
握り拳を作り、きっぱりと返事する。脳裏に浮かぶのは、捨てられちゃった所為か、甘えん坊で、家に居る時は片時も私から離れようとしない仔猫の姿。
思わず、口元が緩む。
「……顔がだらしない事になってるぞ」
「うっ」
慌てて頬を押さえ、ポーカーフェイスを作ろうとすると。
皐月君が肩を震わせ、顔を背けた。
「……からかった」
「いや、そんなつもりはなかったんだが……」
そんなつもりないとは言いながらも、声が笑っている。
昨日まで面識なかった人間をそんなに笑うな!
少しむくれていると、皐月君は笑いながら振り返った。
「あまり、甘やかしすぎるなよ?」
「うっ……」
実は、自分がかなりアースに対して甘々な自覚は、ある。
でもさ、あんなつぶらな瞳で自分を見上げ、「なぁお」と擦り寄ってこられて甘やかさないでいられる!? 無理でしょ!!
だから、素直に白旗を上げる。
「手遅れ」
「おい」
今度こそ、皐月君は声を上げて笑った。
もういい。勝手に笑ってれば! ふんっ!!
私は鞄を抱え直し、駆け出す。
――が。
皐月君の横をすり抜けようとした瞬間、腕を掴まれ引き止められる。
驚いて振り返ると、少しだけ眉根を寄せた皐月君が私を見下ろしていた。
「その、な……」
歯切れ悪く、何か言いたそうに視線を彷徨わせる。
何故かピンと来た。ああ、皐月君はアースに会いたいのだと。
思わず、私の口から言葉が零れる。
「アースに会いに来る?」
「えっ!?」
皐月君が大きく目を見開いた。
HRが終了した途端。私は鞄を手に取り、さっさと教室を後にする。
担任より教室を後にするのが早いけど気にしてられない。速攻で帰って、アースと遊ぶ方が大事だ。
昇降口に足早に向かっていると、背後から足音が複数聞こえ。
「茜!」
ポンと肩を叩かれた。
叩いてきたのは、同じクラスの友人達。
「随分急いでるね?」
「うん。家で、可愛い『家族』が待ってるから」
「え?」
「先週末にね、仔猫拾ったの」
「え! どんな子、どんな子!?」
私と同じくらい可愛いもの好きな友人達は食いつき方が違う。並んで歩きながらも、興味津々といった顔で私を見ている。
「全身が真っ黒でね、綺麗な瑠璃色の瞳をしている可愛い子!」
ちょっとだけ自慢げに言うと、友人達が笑った。
「茜ってば。もう飼い主バカになってる」
「だって、そのくらい可愛いんだよ!」
力説すると、「写真ないの?」と聞いてきたから、スマホの待ち受け画面を見せる。
そこには、こっちを見上げているアースの姿。
「かっ、可愛い~~~!」
「ホントに綺麗な瞳の色だね」
写真を覗き込みながら友人達がアースを褒めてくれる。
それが嬉しくて、思わずデレる私。するとまた、友人達が笑った。
「こんなに可愛い子が待ってるなら、早く帰ってあげたいよね」
「そういう事」
足を止めずに断言すると、友人達は笑ったまま立ち止り手を振る。
「では、急ぐのだ茜よっ!」
「あはは、らじゃー」
「落ち着いたら、あたし達にも会わせてよー」
「勿論!」
友人達は部活があるから、また明日、と手を振って別れ、私は昇降口に急ぐ。
帰ったら、まずは掃除しないと。トイレのしつけとかやっているけど、まだ数日。完璧ではない。だからこそ掃除大事。不潔な所為で病気になっちゃうとか冗談じゃない。
昇降口で靴に履き替え、正門に向かう。
拾ってから、こんなに長時間離れている事なかったから、アース、寂しがっているかな。急がないと。
小走り気味に正門を抜けた途端。
「結城」
「へ?」
呼ばれて振り返ると、丁度正門を抜けてくる彼――皐月君の姿があった。
「随分と急いでいるな」
長い足で私に追い付くと、促すように歩き出した。
私は困惑しながらも、皐月君の半歩後ろをついて行くしかない。
「アースが待っているから、早く帰りたいだけ」
「ああ、なるほど。……随分、可愛がっているんだな」
チラッと私を見て微笑する皐月君。普段、笑っているところなど見た事ないから結構な破壊力です。美形、恐るべし。
「だって、本当に可愛いから」
握り拳を作り、きっぱりと返事する。脳裏に浮かぶのは、捨てられちゃった所為か、甘えん坊で、家に居る時は片時も私から離れようとしない仔猫の姿。
思わず、口元が緩む。
「……顔がだらしない事になってるぞ」
「うっ」
慌てて頬を押さえ、ポーカーフェイスを作ろうとすると。
皐月君が肩を震わせ、顔を背けた。
「……からかった」
「いや、そんなつもりはなかったんだが……」
そんなつもりないとは言いながらも、声が笑っている。
昨日まで面識なかった人間をそんなに笑うな!
少しむくれていると、皐月君は笑いながら振り返った。
「あまり、甘やかしすぎるなよ?」
「うっ……」
実は、自分がかなりアースに対して甘々な自覚は、ある。
でもさ、あんなつぶらな瞳で自分を見上げ、「なぁお」と擦り寄ってこられて甘やかさないでいられる!? 無理でしょ!!
だから、素直に白旗を上げる。
「手遅れ」
「おい」
今度こそ、皐月君は声を上げて笑った。
もういい。勝手に笑ってれば! ふんっ!!
私は鞄を抱え直し、駆け出す。
――が。
皐月君の横をすり抜けようとした瞬間、腕を掴まれ引き止められる。
驚いて振り返ると、少しだけ眉根を寄せた皐月君が私を見下ろしていた。
「その、な……」
歯切れ悪く、何か言いたそうに視線を彷徨わせる。
何故かピンと来た。ああ、皐月君はアースに会いたいのだと。
思わず、私の口から言葉が零れる。
「アースに会いに来る?」
「えっ!?」
皐月君が大きく目を見開いた。
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