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メルディ国編

41 推理は難しいヨ

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「あの、リジー殿……」
「何?」
「その……この確認は、なんのために……?」

 オイッ!?
 ここまできたのに、全く、なーんにも繋がんないの!? え? なんで??

 ――……まだ確認が足りないって事?

 ちっ。この国なのか、この世界なのか分かんないけど、これだけおかしな事・・・・・が続いてんだから、自分で考えろっての。
 仕方ない……後、あたしが本来なら知らないであろう情報は……。

「……もう少し、確認したい事があるんだけど」
「え? はい、なんでしょう?」

 本当に不思議そうに隊長達があたしを見ている。
 ……大丈夫か、カジスやルチタンは……おんぶに抱っこじゃ、後々キツイよ?

「……あたしやネスが護送依頼を受けて同行している件の連絡、返事、他の兵士への伝達の事だけど……」
「はい」
「いつ、護送されるかとかも連絡してあるんだよね?」
「当然です。罪人は、一般の方々とは別に扱われます。速やかに行動しなければ迷惑を被るのは一般人。いつ出発するかや、1つの町に何日くらい滞在するかは確実に連絡します」

 カジスの隊長の言葉に、ルチタンの隊長が頷く。

「一昨日、連絡が入り、翌日――つまり、昨日には出発すると言われています。その為、本日中に到着するのは分かっていましたので、一時的に収監する牢等の準備は整っています」

 あ、なるほどね。その準備の為の連絡でもあったんだ。

「じゃあ、護送依頼を引き受けたあたしが人間、ネスが獣人である事も伝えてある?」
「はい」
「それって、アレも知ってるんだよね?」
「はい」

 アレと顎で示すと、ルチタンの隊長は心得た様に頷いた。扱いが雑な事に触れるつもりないようだ。うん、賢明だね。

「それから。アレって、差別主義?」
「――は? 差別……?」

 あ、意味が通じてない? あれ? 差別って言葉が存在しない?

『いえ。存在します』

 んんん? 存在するのになんで……って、あ、そうか。主語がないから通じないのか。

「そう。差別。年寄りは成長が止まっている人よりとか、人間は偉くて、人間以外の種族はその下・・・みたいな考え持ってない?」
「あ、はい、持ってます……態度にも、示します……」

 すっごい苦々しそうな顔でルチタンの隊長が頷く。
 年寄りに対する態度はあたしへの対応を見れば分かるし、獣人等に対する態度はマルが最初からディスっていた事から間違いない。確認するまでもないんだけど、これは口にしないとね~。
 兵士をやっている以上、そういう差別的な態度はタブーだ。どんな辺境であろうと、多くの人と接するからこそ、兵士は国の顔の一部と言える。それなのに、態度で示すって事は……かなりの確率でトラブルが発生し、この隊長、それを収める為に苦労しただろう。ご愁傷様。
 さて。ここまでくれば大丈夫だろう。探偵役ができるか分かんないけど、頑張ってみよう。

「なるほどね」
「「リジー殿?」」
「「リジー?」」

 頷き、溜め・・を作ると、隊長達だけではなく、ネスやルベルも食いついてきた。
 あたしはそんな一人ひとりの顔を見た後、伸びてるアレとその周りで固唾を飲んでこちらを見守る兵士達に視線を向ける。アレが起きてる気配、なーし。起きる気配も、なーし。マップ表示も赤いポチのまま。
 少し視線をずらし、直立不動な盗賊達を見る。あたしの声は聞こえているからか、盗賊全員――あの百貫デブさえも妙に緊張した顔をしていた。騒いだところであいつ等の声が聞こえる訳じゃないから、よーし。マップ表示も赤いポチたくさん。
 変わらないあたしの敵を確認し、隊長達を真っ直ぐ見ながら口を開く。

「このルチタンの兵士――というより、アレとあの盗賊達は繋がっているんだろうね」
『なっ!?』

 あ、ミスった――とか思う間もなく、異口同音に兵士という兵士から驚きの声が上がった。「なぜ……」という囁き声もさざ波の様に広がっていく。隊長達も、同じ驚きを発し、口を開き固まっていた。
 ネスやルベルは――普通だね、うん。ネスはただじーっとあたしを見ているだけで口を挟む気配なし。ルベルは、何と言うか、すっごい楽しそうな顔であたしを見上げている。こちらも、口を挟む気配は今の所ない。
 はあ~……結論から先につい言っちゃったよ……まあ、なんとかなるかなぁ……。

「ど、どういう事でしょう!?」

 いち早く我に返ったカジスの隊長が食い気味に声を発する。あたしが何をしても立ち直りが早くなったね。
 だがしかし! それは頂けないよ、それは。どういう事と聞く前に自分で考えろっての全く……推理を楽しまないなんて、なってないぞ! いや、最初に結論言っちゃった駄目ダメ探偵役なあたしが言えたもんじゃないけど……。
 まあ、それをそのまま伝えると話が進まないだけじゃなく、アレが目覚める可能性あるから、あたしの方でサクサク進めよう。こうなった以上、時短大事、うん。え、あたしが悪いんだろって? 聞こえない!

『なにも言ってませんが……』
「今、1カ月だけだけど、カジスとルチタンを行き来した人達の人数が合わないのは一緒に確認したよね」
「はい」
『……』

 その他の合いの手はまるっと無視し話しを進める。
 あたしの言葉にカジスの隊長が頷くと、漸くルチタンの隊長が気を取り直し、真剣な顔をしてあたしとカジスの隊長の話に耳を傾けてきた。

「ずっと山籠もりしていたから正しいかどうか分からないけど、盗賊被害って、普通、行きと帰りのどちらも遭いやすいよね?」
「そうですね」
「うん。じゃあなぜ、被害が偏っているんだろうって考えてみた訳だ」
「……ルチタンからカジスに向かう人ばかりが被害に遭っているから、ですか?」
「そう」
「ですが、被害はなかったとはいえ、我々も盗賊に襲われそうでしたが――」
「今は一般人の被害・・・・・・についての話だから、その件は後で」

 あたしの言葉に、隊長2人以外に、兵士達もハッとする。何だ……今気が付いたの? そう。盗賊の被害に遭っているのはこの人達が言う『一般人』。守るべき対象。
 気付いたのなら、ぼーっとあたしの考えを聞くだけじゃなく、自分でしっかり考えて発言しなよ? そうしないと、同じ様な事があっても防げないから。
 そんな事を考えていると、隊長2人が思案しつつ口を開く。

「ルチタンからカジスに行く者ばかり被害に遭う……?」
「国が関わらない冒険者や旅人――しかも、人間以外が多い……」

 2人がチラッとアレに視線を向け、その顔に苦々しいものが浮かぶ。

「……盗賊に、旅人の情報を漏らしている者がいると考えれば、被害が偏る事にも辻褄が合う、な」
「出発したその日の内に宿泊地に着く。つまり、出発した日や人数が分かっていれば待ち伏せは可能」
「逆に、カジスから出発する者達の情報はない。戦力が分からない以上、待ち伏せも襲撃もしない……」

 おおおおおっ!? ちゃんと頭を使えば、導き出せるじゃないかっ!

「あれだけの人数がいれば、例え冒険者といえど、不意をつかれたら終わりだ」
「盗賊が出る等という情報がない場所である以上、警戒対象は魔物だけ」
「人が近付いてきても夜間の移動は危ないとしか思わないだろう」

 そこまで考え付いて、今回の事案がどれだけ外道か気が付いたのだろう。隊長も兵士も軒並み拳を握り締める。
 人数、戦力、特徴等々。敵側には全ての情報が筒抜け状態なのに、こちら側にはなんの情報もない。これで身を守れというのも無理な話だ。襲われた方は……混乱しただろう。

「しかしリジー殿。疑問があるのですが……」
「うん? ネスや護送隊が襲われた事?」
「はい」

 本当に不思議そうだけど、その答えは簡単だと思うよ?

「まずネスが襲われたのは、獣人だから・・・・・だろうね」
「「は?」」

 訳が分からないのか、隊長2人が揃って首を捻る。

「アレは獣人を下に見て――蔑んでいる。ネスがSランク間近・・・・・のAプラスランク冒険者だと知っていても、人間には歯向かわない、歯向かえる訳がないとか勝手に思っていそうだよね?」
「……そう、ですね」
「確かに……」

 ネスの冒険者ランクを聞いて、リアカーに乗ったままの盗賊達の顔色が青くなる。口をパクパクさせているのが多いから、知らなかったのだろう。

『Sランク冒険者は平均的な人間が相手なら1人で50人に勝てると言われています。パーティーになれば100人は余裕でしょう。知らなかったとはいえ、そんな冒険者を襲ったのですから顔色も悪くなるというものです』

 ああ、そういえば……ネスと同じAプラスランクの冒険者パーティーは無事だったんだっけ。全員が人間だったという事もあるけど、Aプラスランクの冒険者だったというのも大きいのだろう。
 あ、でも、襲われた冒険者達のランクは聞いてないから決めつけるのは早いか……。

「ねえ」
「はい」
「襲われたであろう冒険者パーティーのランクは分かる?」
「お待ち下さい」

 ルチタンの隊長が再び帳面を捲る。

「Bマイナスランク、Cランク、Bランクの様です」

 なるほど……マル?

『冒険者のパーティーランクは、パーティーの中で一番上の冒険者のランクが割り当てられます。その為、パーティーランクが分かれば、冒険者達はそれ以下のランクの集団であると分かります』

 誰かのランクが上がらない限り、パーティーランクは据え置き、という事だね。

『はい。また、ランクによって相手にできる人数が違います。Aランク数人なら80人、Bランク数人なら50人という具合です』

 盗賊達の人数は57人……いや、1人マイナスで56人。全員で掛かれば、Bランクまでならなんとかできてしまう。Aランクが襲われなかったのは、そういう理由もあるって事かぁ……。

「……あの盗賊は57人いる。Aランクは無事で、Bランク以下は無事じゃない理由はそこにもあるね」
「ネスフィル殿はAプラスランクです」
「うん。さっきも言った通り、ネスのランクが高いのは知っていたけど、自分より下に見ており、尚且つ人間に手出しできないと考えていたからネスが勝つ・・なんて思ってなかったんだろうね。いつも通り・・・・・襲わせて、金目の物でも奪うつもりだったのかも?」

『リジー。奴隷とする可能性も考えられます。奴隷にして売れば、金目の物を奪うより稼げます』

 ……え?

『この世界には隷属魔法が存在します。隷属魔法は魔法を使う者より魔力量が多い者に掛ける事は不可能ですが、低い者なら簡単に掛けられます。獣人は人間より魔力の低い者が多い為、隷属魔法に掛かりやすいです。隷属魔法を解除するのは、魔法を掛けた者か、掛けた者より上の魔力保持者でなければできません。高位魔力保持者は軒並み貴族のお抱えになっていますし、奴隷は主人に逆らえませんので――』

 解除する者がいない、と……。

『はい』

 なんというか――ほんっとーにゲスだね。
 もふもふを大事にしないなんて世界の損失なんだけどっ!?

『……そこですか、怒る点は……』

 当たり前でしょっ!!!

『……』

 マルが黙ったので、護送隊が襲われた理由(推測)にいってみよう。

「護送隊が襲われたのは、護送対象の所為だろうね」
「は?」
「どういう事でしょう?」
「あの犯罪者は鑑定魔法が使えるからね。『救ってあげた』とでも言って、盗賊達に協力させようとか考えたんじゃない?」
「まさか……鑑定魔法で情報を知る為に、ですか?」
「そう。あの犯罪者は近付かなきゃ鑑定できないけど、その情報をなんらかの手段で盗賊に伝えられれば、襲撃の成功率も上がる。場合によっては、Aランク冒険者も襲えると思ってもおかしくない」
「確かに……」

 アレがゲスである事が大前提の理由だけど、隊長達――兵士も含む――が納得できてしまったようだ。全員、しっぶーい顔をしている。
 で、協力者(?)である盗賊達は、自分達が捕まった理由が犯罪者確保の為だったと知り微妙そうだ。唯一、ソレを知らされていたであろう百貫デブだけがあたしを睨み付けている。
 ――ああ、そうだったそうだった。あいつ等の関係にヒビを入れないとね~(棒読み)

「それから――」
「まだなにかあるんですかっ!?」

 ルチタンの隊長が頭を抱える。すまんねー。これも大事なんだよ。

「いつかは、ルチタンとカジスを結ぶ街道に盗賊が出る事は隊長達も知る事になったと思うんだよね」
「それは……」
「いつまでも隠せる訳がないんだよ。例えば今回みたいにカジスの兵士の誰かが来て、カジスに来る人の話なんかをルチタンの兵士とすれば、おかしいのは直ぐに分かる。もしかして盗賊が出るのでは――と考えるのは自然な流れじゃない?」
「そう、ですね……」
「そうなった場合、アレは盗賊達を殺すつもりだったと思う」
「「「――――っ!!?」」」

 隊長も、兵士も、ネスも。ついでに百貫デブを含む盗賊達も、全員が息を飲む。

「どうしてじゃ?」
「うん? それは簡単。自分の手柄・・・・・にする為だよ」

 のほーんと聞いてきたルベルに軽く返す。ルベルはこてんと首を傾げた。

「どうやってじゃ?」
「考えられるのは、毒や睡眠薬なんかを使って動けなくしてからバッサリ、かな?」
「そう簡単にいくのかのぉ?」
「盗賊達がアレを仲間扱いしているなら簡単だよ。お酒の差し入れとか言って、その中に毒とか入れておけばいいんだもん。仮に一緒に飲む事になっても、解毒剤なんかを先に飲んでおけば自分には効かない。時間が経って、盗賊達が動けなくなったところで止めを刺せばいい。抵抗される事はないから楽勝でしょ」
「なるほどのぉ」
「そうやって盗賊を全滅させて、自分が係わった証拠を隠滅し、何食わぬ顔で言えばいい。偶然盗賊達を見付けたので退治した、と。襲い掛かられたから全滅させてしまったとか言っておけば、そんな実力があるかは不明だけど、まあ、反論はできない。しかも、死人に口なし。証言をとる事ができない以上、捜査はそこで終わる。盗賊を退治したアレはその実績だけは残るから、うまくいけば昇進できるかも?」

 あたしの推測に、ルチタンの隊長の頬がピクリと動く。

「……己の昇進の為に盗賊を利用し、一般人に被害を出したと、リジー殿は言われるのですか?」
「それが一番、辻褄が合うんだよ。こんな事件を起こした理由として、ね。後は……アレしか入れない場所とか、アレが管理している場所や物から毒かなにかが出てくれば証拠にならない?」
「おいっ! 至急調べろっ!!」
「「「はいっ!!」」」

 ルチタンの隊長が叫ぶ。アレの周りにいた兵士達がアレを縄でグルグル巻きにした後、駆け出す。その足に迷いがない事から、あたしの言った場所とかに心当たりがあるのだろう。
 兵士達が兵舎の中に入っていくのを見送ったルチタンの隊長は歯を食いしばり、手に持っていた帳面を殴り付ける。

「くそっ」

 その悔しそうな、苦しそうなルチタンの隊長の姿に、その場に残った者はなにも言えなかった。
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