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メルディ国編

40 渡りに船ですヨ

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「リジー殿?」

 不動の神の過保護っぷりやマルのツッコミ(?)にツッコミを入れていると、恐る恐る声を掛けられた。

 ……うん、またまたすまぬ。やはし、存在を忘れていたよ……。

 チラッと声を掛けてきたカジスの隊長を見ると、隊長は難しい顔をして、あたしと罰てんこ盛りなクズを交互に見ていた。

「……何か考え込んでいる様に見えましたが、あのベリジアズ副隊長がどうかしましたか?」

 おや。なんか勘違いされた。(頭の中で)ツッコミ入れていただけなのに、何か考えているかに見えたようだ。

 ……そんなに難しい顔をしていたんだろうか……。

 ――まあ、いっか。折角勘違いしているんだから、これを利用して(奴の意識がないうちに)色々と積んでおこうか。
 あたしは軽く握った右の拳――マチは自動でトキの中――を口元にわざとらしくあて、軽く首を傾げる。

「……副隊長?」
「はい。リジー殿に切り掛かった愚か者は、このルチタンの町の副隊長です」
「……アレで?」
「はい。……程度が低くて申し訳ありません」

 あたしはアイツの情報なんて(本当なら)知らないんだから、やっぱりわざとらしく聞くと、隊長二人は揃って恐縮した様に頭を下げてきた。いや、そこまで求めてないから。
 だがまあこれで、ダメ押し的に理解した。この隊長達は結構な真面目ちゃんらしいと。
 これなら、アレの情報を引き出して、分かっている情報とかアレが起こした行動とかを結び付けて考えるように促せば、ちゃんとした結論に行き付くかな? いや、そこはちゃんと持っていくべきか。
 ただ、推理ものは好きだけど、物語の序盤に勘で犯人当てちゃうあたしに促すとか可能だろうか? まあいい。頑張ってみよう。
 さて、どこから――って、そうだ。盗賊被害から確認してみよう。

「……ちょっと、聞きたいんだけど」
「はい?」

 頭を上げる様に促しつつ問い掛けると、隊長達が揃って首を傾げた。……色々、シンクロし始めたね。

「各町や村から違う町や村に行く人の統計とか取ってる?」
「厳密には取っていませんが、進む道でどこに行くのか予測が付きます」
「じゃあ、ルチタンからカジスへ行った人数は分かる?」
「カジスへはこの道からしか向かえませんので、出て行った方向でおおよそは分かります」
「そっか……」

 うーん……厳密じゃないのはちょっと痛いけど、全く分からないよりはいいか。

「じゃあ、そうだね……ここ1カ月、カジスへ向かった人数は大体どのくらい?」
「そうですね……」

 あたしの問い掛けにルチタンの隊長は考え込み。

「報告によれば――36人程でしょうか。5人組の冒険者が2つ、15人の商隊……こちらは護衛人数も含まれています。後は、6人家族、4人組の冒険者、1人の冒険者――こちらは、最後にルチタンへ向かったネスフィル殿です」
「――は?」

 ルチタンの隊長の言葉に、カジスの隊長が疑問の声を上げる。

「じゃあ、ルチタンからカジスに来た人数は大体どのくらい?」
「えっと、この1カ月で宜しいんですよね?」

 カジスの隊長の言葉にあたしは頷く。
 すると、カジスの隊長は眉根を寄せつつ。

「……15人の商隊と、ネスフィル殿だけです」
「は?」

 今度はルチタンの隊長が不思議そうな声を上げる。
 それはそうだろう。じゃあ、5人組の冒険者パーティー2組と、6人家族、4人組の冒険者はどこへ行ったという話だ。
 間違いないかお互いに確認し合っている隊長達には悪いが、話を進めさせてもらおう。

「じゃあ、次。この1カ月の、カジスからルチタンに向かった人数は?」
「え、あ、はい。……15人の商隊と4人組の冒険者、3人組の冒険者です。最後は我々ですね」

 この護送メンバーを移動人数に入れていいのか疑問だがまあいい。

「じゃあ、カジスからルチタンに来た人数は?」
「……15人の商隊と、4人組、3人組の冒険者の22人です……」

 どういう事だと首を傾げる隊長達。おいおい。合わない人数はどう考えてもソコにいる百貫デブ盗賊団に襲われたんでしょうが。
 ただ問題は、被害の遭い方・・・・・・ってだけ。

「その15人の商隊ってなに?」
「国が雇っている商人が定期的に行っている行商の団体です。カジスは大きな村ではないので護衛を含めて15人ですが、大きな町等になりますと、50人近い団体となります」
「それは、国が管理し、人数や日付なんかを記録しているんだよね?」
「当然です。到着した町や村で何を販売し、何を仕入れたか等も、立ち会った兵士等が記録しています」

 ホント、妙な所できちんと管理してるね……。まあ、国から委託されている以上、不正がない様に第三者が記録しておくのはいい事か。――癒着がなければね。

「カジスからルチタンに来た4人組の冒険者は?」
「彼等は1カ月以上前にルチタンからカジスに来たAプラスランクの冒険者パーティーです」
「……全員、人間?」
「はい、そうですが?」

 ふむ……1カ月以上前に、ルチタンから無事に・・・カジスへ来た冒険者、と。

「じゃあ、3人組の冒険者は?」
「以前、商隊の護衛としてカジスに来て、数カ月滞在していたCプラスランクの冒険者パーティーです」
「全員、人間?」
「いえ。こちらは、1人だけ獣人です」

 なるほど。商隊の護衛・・・・・ね。

「……ルチタンからカジスに向かった5人組の冒険者パーティー2組と、6人家族、4人組の冒険者に人間以外の種族・・・・・・・は含まれている?」
「はい? 少しお待ち下さい」

 ルチタンの隊長は大慌てで門の奥に引っ込んでいく。記録かなんかを確認しに行ったのかな?

『リジー』

 ん? どうした?

『神々から質問があります』

 は? このタイミングで質問? 何?

『あの罰で問題ないか? と言っています』

 あ、それか……いや、問題ありまくりだから。

『そうですか?』

 うん。
 まず、露出狂の変態なんぞ、公害にしかならないから作り出さないで。

『――は、い? 露出狂? 変態?』

 そう。
 技工神の加工されたモノの没収――それって、今着てる服とかも対象なんだよね?

『そうですね』

 うん。そうすると、素っ裸の変態が出来上がる、と。

『……あ』

 そうそう、そういう事。汚いもん、見せるな! ってね。

『……技工神が、アレの今着ているモノの没収を取り止めました――それと、没収品の中で、アレが一度でも身に付けた物に関しては全て焼き捨てると伝言を預かっています』

 ……一時的とはいえ、倉庫にでも入れたのだろうか?
 まあ、貴重品じゃなければご自由に。あ、他人から略奪した物は、できれば本人に返してあげて。

『――盗賊から回収した品の中に紛れ込ませておきましたので、リジーの方で対処をお願いします』

 え? それってまずくない?

『何がでしょう?』

 いや、あたしが盗んだとか妙な言いがかりをアレに付けられない?

『……アレは以前、他の者に見られてはまずいと略奪品を盗賊に預けた事があります。その預けた物が盗品の中に紛れていた事にしてしまいましょう』

 また面倒な事を……。はぁ……。
 仕方ない。あたしが願っちゃった事だしねぇ。了解。

『では、他になにか問題はありますか?』

 ああ。できれば、食べ物や飲み物が全て・・手に入らなくなるのは止めて。

『……神々が不満を口にしています』

 ブーイングする神って……コホン。
 理由。全て手に入らなくなるにしちゃうと、アレ、餓死するでしょ。そんな簡単に死なせるなんて冗談じゃない! 苦しめられた人々がいる以上、それ相応の絶望を味わわせるのは当然!

『当然ですか』

 当ったり前でしょ!
 今、隊長達に聞いた話の限りでも、あいつの所為で、確実に多くの人が行方不明になっているんだよ? 中には、亡くなった人もいるよね? その人達に家族や親戚、親しい仲間や友人はいないの? 突然連絡が取れなくなって、心配しないと思う? 泣かないと思う?
 そんな事、あり得る訳ないでしょうがっ!
 命は唯一無二。替えはない。一人を殺めるだけでも罪深いのに、たくさんだよ? 楽に死なせてたまるかっての!!

『……全て、の部分が削除され、99%となりました』

 大きくは変わってないけど、まあ、1%が神の温情という事で納得しておこう。というか、この世界にパーセンテージがあるって事が不思議。召喚された人が残した知識かな? まあいい。
 それから……闘神が言っていた『殺す意思がない状態での攻撃や反撃のみ、相手は絶対に死なない』とかいうの、他の神も適用できない?

『……なぜでしょう?』

 うん? いやだって、あたしが敵認定してれば、相手は死なないって事でしょ?

『はい??』

 えー? だって、殺す意思がない状態での攻撃や反撃って、イコール敵認定して精神的に甚振いたぶるのもありって事でしょ?

『はい? あれ? そう、ですか?』

 そうそう。だから、あたしが敵認定している以上、その敵に加えられる全ての攻撃はあたしの代理! アレが自分で死のうとしても、あたしがそれを許さない! だから、なにがあっても死なない! それが当然ってやつでしょ!!

『それは……屁理屈というのでは?』

 Noノー problemプロブレム! 問題なーし!
 絶対死なないって事は、それだけ苦痛が長引くって事でしょ? さいっこーの嫌がらせじゃないか!! 死ねない&死なない苦痛を味わえばいい。

『……神々の総意により、そのお仕置きは受理され、追加されました。今後、リジーが敵認定し続ける限り、アレに安息はありません』

 おう。マルも「アレ」扱いになってる。まあ、妥当か。
 そして神! さっきも思ったけど、決断早いなオイ。そこはポイント高いよ! そこだけ・・だけど。

『……』

 なにか言いたそうだけど、過剰すぎる過保護を受ける身としては、評価できるのそのくらいだからね?

『……いずれ、神の有用性を実感すると思います』

 ……それ、どの神が言ってんの?

『……』

 部分的な有用性は認める。だがしかし! 過保護は無用な部分が多いから!
 つ・ま・り・はっ!! 今の所、神の存在はプラマイゼロ! ――よりマイナス寄りかな?

「リジー殿」

 とかなんとかマルと脳内会話を繰り広げているうちに、ルチタンの隊長が手に帳面の様な物を持って戻ってきた。紙の束を紐で括っただけの物。それを広げて一つひとつ読み上げていく。

「まず、5人組の冒険者パーティーですが、1つは2人が獣人で他は人間です。もう1つは、人間2人、獣人、エルフ、ドワーフがそれぞれ1人ずつ。6人家族は、小人族の家族です。4人組の冒険者は、人間、小人族、一角族、ドワーフのパーティーですね」

 おおおおおっ! エルフとかドワーフとか、ファンタジーの定番がッ!!
 ――って、それは置いといて。
 なるほど。カジスにたどり着けなかったグループには、必ず・・人間以外が含まれる、と。

 うん。これでカードは揃ったかな?

 ……なーんて、格好つけて言ってみたけど……これってもう、推理とかいう問題じゃないよねぇ……。
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