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メルディ国編

16 教えますヨ

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 何とも言えない微妙な空気の中、隊長が気を取り直した様に――というより、色々とぼける為に咳払いし、あたしを見た。

「こちらのネスフィル殿に護送の協力依頼をし、受けて頂けました。接近戦がネスフィル殿の得意分野ですので、どうかどうか、魔法分野での協力をお願い致します」

 どうしてもあたしに協力して欲しいらしい。
 もう面倒だから、アレが魔力レベル中の下に落ちてるって教えちゃう? え? さらに面倒な事になる? 鑑定魔法使えると思われる? あ、鑑定魔法――正確には違うけど――が使えるのはバレるとマズイか。

 えええー。じゃあ、どうすれば断れる?
 ……無理……そう、断言するんだ。
 え? ネスフィルと懇意になれば得する事が多い? だから受けろって……マルあんた……得って……。
 は? 取り敢えず、違和感を感じた剣と本人を、許可貰って看破しろ? え? 許可貰うの? バレるよ?
 敵じゃないから無許可では使わない? ……妙な所で良識的だね。
 うん? 鑑定魔法は使えないって言え? それで誤魔化せる? 鑑定魔法の下位互換で識別魔法というのがあり、その種類や性質だけ見分けられると。それで下位互換? え? 使える人が多いし、分かる情報量が少ないの? なるほどね。
 じゃあ、適当な理由を付けて、魔法を使ってみますか。
 あたしはネスフィルの顔を見た後、剣を見て、再び顔を見上げた。

「あたし、ネスフィルって言われても知らないんだよね」

 ネスフィルと隊長が驚いた様な顔をする。
 おいおい……そんなに変? 一応、(設定としては)山に籠ってた変人だよ? どれだけ有名人でも、関わりなきゃ知らんって。
 それに思い至ったのか、隊長が納得する様に頷くと、ネスフィルに耳打ちする。多分、あの設定を教えているんだろう。
 すると、ネスフィルの顔に――何で、気の毒そうな表情が微妙に浮かぶの?

「そうか。大変だったんだな」

 ……この人が考えるあたしの『大変』って何だろう……山に籠っていた事? 一人な事? それとも、それ以外の何か?
 表情があんまり変わんないから分からん。

「では、訓練場で剣を振ってみるか? それで少しはオレの実力が分かると思う」

 あ、訓練場なんてものがあるんだ――って、そうじゃなくて。
 折角、勘違いにしろいい方向に話が進んでるんだから、識別魔法(違う)を使わせてって言おうか。

「それより、その剣とネスフィルに魔法を掛けて調べていい?」

 そう言った途端。隊長はあからさまに驚き、ネスフィルは片眉を上げた。

「……鑑定魔法が使えるのか?」
「いや。鑑定魔法は使えない」

 ホントホント。だってあたしが使えるのは看破魔法だし。まあ、使おうと思えば使えるのかもしれないけど、わざわざランクを落とす意味がない。
 ただ、軽-く言ったのが悪いのか、ネスフィルの顔に訝し気な色が微かに浮かび……何かに納得すると剣をあたしに差し出してきた。

「なるほど、識別か。確かに、それを使えばどれだけ戦い慣れているか分かるな」

 え? そうなの? そんな効果が?
 マルの説明とちょっと違うから驚いたけど、それを表情に出さないよう気を付けながら、あたしは片手をネスフィルに突き出し剣の受け取りを拒否した。

「あんた、剣士なんでしょ? 自分の相棒を簡単に人に渡そうとするな」

 確か、戦う人にとって武器って、共に苦難を切り開いてきた大事な相棒とかって何かで見たか読んだ気がする。それを、初対面の人に渡そうとするなっての。あんたバカ? 万が一『何か』があったらどうするんだ。
 あたしの言葉に、ネスフィルは少しだけ意外そうな顔をした後、小首を傾げた。……ちょっとその仕草が可愛いと思ったのは内緒だ。

「では、どうやって魔法を使うつもりだ? 識別魔法は、近くにないと発動しないだろう?」

 え? そうなの?
 ああ……マルが言うには、それは間違いらしい。識別魔法が使えても魔力が少ない人が多く、近付いて対象をしっかり視認しないと上手く魔法が発動しないだけなんだって。
 あたしはそれをネスフィルに伝える。すると、ネスフィルも隊長も驚いていた。どうも、魔法についてはあまり正確には人々に伝わってないのかな?

「では、鑑定魔法もそうなのでしょうか?」

 隊長が恐る恐る問い掛けてくる。
 何、その、マズイかなぁ大丈夫かなぁみたいな顔は。いくらあたしでも、取って食いはしないっての。
 で、マル? そこんとこどうなの?

「……鑑定魔法も識別魔法と同じ。近付かなくても分かる。ただし、魔法を使用する者の熟練度と魔力量によってその距離が変わる」
「と言いますと?」
「魔法って、使えば使うほど使いやすさが変わるのは知っている?」
「はい。得意な魔法を使い続けると、魔法の発動時間が早まったり、威力が上がったりします」
「そう。それが魔法の熟練度。たとえ魔法が苦手な人でも、訓練を続ければ熟練度が上がり、それまでより威力が上がったり、発動時間や継続時間が上がる」

 ここまでは分かるのか、隊長もネスフィルも黙って頷く。

「それが、普通の魔法。でも鑑定魔法は、普通の魔法ではない・・・・・・・・・。どんな偶然かは知らないけど、突然使える人が生まれる。あの犯罪者の様に」

 犯罪者と断言した途端、隊長の顔が引きつる。

「鑑定魔法の様に、みんなが使える訳ではない魔法には熟練度というのが存在しない。では、どうすれば遠くにあるものを鑑定できる様になるか。答えは簡単。他の魔法・・・・を訓練して全体的な熟練度を上げればいい。そうすれば、必然的に鑑定魔法の基礎力が上がり、遠くにあるものでも正確に把握する事ができるようになる」
「そんな法則が……」

 長い時の中で、それなりに貴重だからと、鑑定魔法を使える者を優遇し、わざわざ鑑定したいものを近くに持っていくなんて事を繰り返した為、忘れられた法則のようだ。
 まあ、鑑定魔法を使える者が驕り高ぶったのも原因の一つだろう。

「魔力量に関しては説明要らないよね?」
「はい。……ありがとうございました。勉強になりました」

 隊長が深々と頭を下げる。何というか……お礼を言われて微妙な気分になる。だってこれって全部、マルの受け売りだしね。
 答える事ができず隊長の頭を眺めていると、それから、と前置きして、この事を国に報告し、他国へも情報を流していいかと聞いてきた。
 マルが問題ないというからそう答えると、嬉しそうに部屋を出て行ってしまった。

 あれ……護送協力依頼、いいの? あたし、協力するって言ってないけど?

 思わず、ポカンとして隊長を見送ってしまう。
 何と言うか……違う美味しいエサを貰って、当初の目的を忘れたって感じ?
 ……それでいいのかってツッコミ入れても無駄なんだろうなぁ。

「……リジー」

 それまで黙って話を聞いていたネスフィルが、何かを決意した様な目であたしを真っ直ぐ見詰めてくる。

「オレに、魔法を教えてくれないだろうか」
「……は?」

 え? 今の話で、どうしてそうなる?

「貴女は、魔法に関する造詣が深い。その知識と知恵で、オレに魔法を教えて欲しい」
「……何故?」
「オレは魔力量が低く、魔法が苦手な為、ほとんど使えない。苦手だからと、訓練すらしてこなかった。だが今の話を聞くと、訓練次第では、オレにも何かの魔法が使える可能性があると分かった。分かったからには……一つでいい。使える様になりたい」

 真剣な目。本気の様だ。
 あたしは少しだけ考え、そういえば剣やネスフィルに看破魔法を掛けていなかった事を思い出した。

「……答える前に、剣やネスフィルに魔法を掛けてもいい?」
「ああ」

 ネスフィルは頷き、手に持っていた剣をあたしが見やすいように持ち直す。気が利くなぁ。

『看破結果』
 闘神の贈り物  種類:片手剣  所有者:ネスフィル
 戦いと勇気を司る闘神が魔法を苦手とする者の為にたった一振りだけ作り、贈った剣。闘神の加護が付与されている為、この剣で戦う時に補正が掛かる。
 また、闘神の願いにより、この剣の材料に成長神の加護が掛けられていた為、僅かではあるが成長補正もある。
 ネスフィルを自分の所有者――主であると認め、全力で協力している。熟練度・名人レベル。

『看破結果』
 ネスフィル 26歳 ユキヒョウの獣人 獣王国出身のAプラス冒険者
 魔力量・紺・最大398 魔法使いとしては下の中レベル ただし、魔力量成長の可能性あり
 獣神の加護 独身 武器での戦いを得意としており、剣においては名人レベル
 ユキヒョウの姿に変化できる その姿はもふもふ

 看破結果が最初にトキを見た時とほぼ同じ表示なのは何故? ……看破魔法だった? あたし、習得しましたって言われたけど……あれって……。
 誤魔化す様にマレットがネスフィルの看破結果だけを表示する。こいつ……確信犯だ絶対。

 というか、どうして一言余計――いや、これはこれでありだね。もふもふ……。
 もしやマル、あたしが猫好きって気付いた? え? あれだけ絶叫すれば気付くし、自分でそういった? うっ……む、無意識だった……。
 それはともかくとして、魔力量成長の可能性ありとかって表示は初めてだね。といっても、看破魔法使ったのネスフィルで3人目だけど……。
 今は下の中レベルだけど、訓練次第で上に行けるって事?
 あ、そうなんだ。え、だけど? 魔術神の加護を持つ者の指導が必要って……これってあたしに遣れって事?
 って、魔術神って生物に加護を与えた事ないよね? それなのに、加護持ちが指導すれば上がるってどうして分かるの? そういう仕様……仕様ってナニ、ソレ……。
 え? 獣神のお願い? 助けてやって欲しい? う……か、過保護なもふもふ神にそう言われると……。

 あたしはマレットに表示されている情報を見て、ネスフィルを見上げる。
 彼は懇願する様な目であたしを見ていた……あー……尻尾が、耳が……。

「……、……、……分かった、教える……」

 あの目と耳と尻尾に負けた……。
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