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メルディ国編

14 お願いですヨ

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 結論。無理だったーーーーーっ!

 いやもうね。こんなに大事になるなんて思ってもみなかったよ。
 冒険者が呼びに行き、遣って来た兵士が10人。
 あれ? 全員来ちゃったの? 門番は? とか思ったんだけど、マルの説明によるとこのカジス村は山の国境を挟んでいるとはいえグゼナに近いから、他の村より多くの兵士が配備されているんだって。備えあれば憂いなしってね。
 各門にそれぞれ2人残し、非番もみんな着替えてギルドに駆けつけたらしい。それ程、個人情報を軽んじる行為は重罪とされている。

 到着した兵士達は冒険者達に拘束されているギルド職員に代わって手分けして冒険者達から事情を聞たり、ギルド内の色々な情報とか引っくり返したりして調べまくった。
 その結果、個人情報の管理はしてない、情報悪用はしている、断りなく勝手に鑑定魔法使用――冒険者ギルドでは大罪――等々。日本で言う個人情報保護法違反行為やその他諸々の犯罪行為が大量に発覚した。

 ギルドの職員は一応ギルド所属ではあるけれど、支部のある町や村に永住している国民が働いている事が多く、国の身分証明を持つ者はその国の法により裁かれる事になる。今回の場合、結構な重罪となるらしい。まあ、脅迫までしていた様だからね~。
 で、国ではなくギルドの身分証明を持つ者――支部長や副支部長等の上役はギルド本部から派遣されてくるらしい――は、その国のギルド本部――いわゆる首都のギルドへ護送され、ギルドの裁量に任せられる。
 ギルド側は個人情報の管理や保護については国以上に厳しく……過去の最高刑は死罪だったらしい。どれほどの罪を重ねまくった結果かは知らないけどね。

 今回の事件(?)は結局、ギルドの職員全員が捕縛された。理由は簡単。被害者が多過ぎるからだ。
 あの支部長は、鑑定魔法を誰にでも――冒険者や一般人等関係なく使い、弱みを見付けては脅迫していた様だ。
 しかも弱みといっても、無駄に事細かく調べれば、支部長クラスなら調べ上げられちゃいそうな事ばかりだったので、鑑定魔法が使われていたと気付かれなかったらしい。
 そんな、みみっちーい悪事を重ね金を稼いでいた支部長の妙な羽振りの良さにあのメリーナが気付き、秘密を知る為に近付いて、不倫関係に。羽振りの良さの理由を知り、おこぼれを頂戴していたって訳だ。

 その2人の不倫関係に気付いたギルドの職員達。この世界でも、一般人にとって不倫は最低な行為として見られており、訴え出ようとした所を弱みを握られ脅されると同時に金で買収されたらしい。
 脅迫を受け、支部長が鑑定魔法を使っていると気付いたようだが、どいつもこいつも脛に傷を持っていた様で、揃ってお口にチャック。ちゃっかり金も貰う状態。
 何と言うか……これはもう『朱に交われば赤くなる』ってやつ? 本当に最悪だな、おい。 

 そんな訳で、全員捕縛決定。
 小さな村なので、兵士達の3つの詰所の地下にある牢屋だけでは収監が間に合わず、その場に居た冒険者達立会いの下、緊急措置として、ギルドの地下に設けられている懲罰部屋も解放され閉じ込められた。
 今後は、さらに詳しく何を遣ったか――脛に傷の部分を徹底的に――調べ、その罪の大きさに合わせて護送方法を決めるらしい。罪が重くなればなるほど厳重な牢に入れられ連行される事になる。

 最も、ギルドの支部長に関しては兵士達の手に余るらしく、早々に護送する事が決まった。
 早々に王都へ送り、ギルドとメルディ国が協力して取り調べするらしい。

 で。護送されるのが決まったのは良いんだけど……。

「はあ?」

 あたしは目の前に居るこの村の兵士の中で最も身分の高い――いわゆる兵士長を見ながら思いっ切り顔を顰めた。
 たま~に忘れるけど、あたしの外見は今おばあちゃんだ。それが顔を顰めれば……うん、すっごい嫌そうな顔か不機嫌そうな顔になる。まあ、実際の所、本当に嫌なんだけど。
 あたしのそんな顔を見て、この兵士長はすっごく申し訳なさそうに――そう! この世界に来て初めて普通に対応されたよ! ――頭を下げてきた。

「不快な思いをされた方に、この様なお願いをするのは本当に申し訳ないのですが……あの支部長はこの村で一番魔力が強かったのです。護送中、その魔力を使い逃げ出そうとしようものなら、我等では太刀打ちできず……」

 つまり、アレより確実に魔力の強いあたしに護送メンバー入りして欲しいって言ってきたのだ。
 今のアレは中の下レベルまで魔力量が下がっているけど、ギルド所有のあの魔力測定器は彼等の裁量で使う事ができない&魔力測定器って結構高価らしく、村などに置いていない為、それを知らず……。
 結果として、アレの鑑定魔法を弾いたあたしが居れば、アレが魔法で何かしようとしても対処できるだろうと考えたようだ。うわー迷惑だー。絶望レベル高年オヤジの顔なんぞ見たくないー。

「支部長は犯罪者なので、移送式の外を見る事が出来ない牢に閉じ込め、決して外へ出しません。支部長が逃げ出そうと画策しない限り、顔を合わせる事はありません。それに、貴女は身分証明をお持ちでない様ですが、我等が同行しますので、身分証明がなくとも困るような事には決してさせません。身分証明に関しましては、王都のギルドにて作られるのが最良かと思います」

 カジス村のギルドは事実上、閉鎖している状態だから、冒険者として身分登録はできない。
 この兵士長に、どうしてあんな騒ぎになったのか尋ねられたから、マル創作の身の上話を語って聞かせた。えーと……『昔から、人と関わるのが嫌でずっと山暮らしをしていたけど、広い世界を見てみようかと唐突に思い立ち、冒険者登録して世界を回ろうとしたらあんな事になった』と。

 ……この兵士長、信じちゃいましたよ。

 どうもこの世界、魔力量の多い人には変わり者が多いらしく、マル創作の身の上話と同じ様な事をしている者が多々いるんだって。だから嘘っぽい話しなのに、あっさり信じるという……それで良いのか。
 取り敢えず、変人探したいなら山へ行けというのは普通らしい。あたし、変人扱い?

 まあ、そんな身の上話を信じている兵士長だから、あたしの道行きを(多分)心配してくれちゃって。
 首都――この国は王国らしいから実際は王都――まで行って、個人情報保護に関しては厳重過ぎるほど厳重なギルド本部で登録するのが一番だ、そこまで兵士長達他数名が同行するから護送の手伝いをして欲しい、と。

 うん。メインは護送の方だと思うんだけど? 他の案件はおまけだよね?

「引き受けて頂けるなら、今回の護送の件は正式な依頼とします。貴女がギルドに冒険者登録しましたら、指名依頼と依頼達成報告をし、冒険者へのポイント還元及び依頼料をお支払いします」

 冒険者というのはポイント制で、一定のポイントがたまると上のランクに昇格するシステムらしい。最も、高位になればなるほど必要ポイントは増え、実力を測る為に実際の戦闘テストもある。一応、簡単に上へと行ける訳ではない。
 それにしても……どうして冒険者ギルドのランクって『A』、『B』、『C』みたいにアルファベット表記が多いんだろう? しかも、『A』の上が『S』や『SS』なのは何故? いつもファンタジー系の小説でその表記が出る度に不思議だったんだよねー。
 この世界のギルドもそのアルファベット表記。Fマイナスランクから始まって、Fランク、FプラスランクとFだけでも三段階あり、DからCに、CからBに、BからAにランクアップする時に試験があるらしい。
 マル曰く『王道』。誰の!? 何の!? 誰得なのっ!? 何かもう、ツッコミに疲れたよ……。

 まあ、そこまで王道を突き進むなら、魔封じの魔法っぽいものもあるよね?
 その魔封じの魔法――相変わらずややこしい――を護送用の牢屋や縛る縄なんかに掛けておけば、あたし同行する必要ないよね?
 そう言ったら。

「貴方一人では他の町等に入れませんが宜しいのですか?」

 それって脅し? 脅しだよねっ!?

「この村はグゼナ国境に近いとはいえ、実質的にあの山を越える者など皆無です。その為、誰でも身分証明なく入る事は出来ますが、他の町や村、ましてや王都は無理です。身分証明がなければ、かなり高額な手数料を取られて町や村に入る事になります」

 山を越える者など皆無ですと言ったところであたしを見るな! 悪かったね。変人で!
 マルがいるから、山越えだろうと困らないから良いんだよ。
 それにあたしってば、お金に不自由してないから……。
 そう思ってマレットを見ると、気を利かせたマレットが数字を表示する。その数字は現在進行形でアップ中。
 当初、迷惑料として100万ギニー――お金の単位。1ギニーは1円と考えて良い――を貰ってきたんだけど、1日も経っていないこの状況で既に0が一桁どころではない勢いで増えている。あの国、やっぱバカだ。

「あの支部長より魔力が上という事は、魔力量が上ランクだと分かっていますので、依頼料は弾みます。ですから、どうかお願いします」

 深々と頭を下げられる。
 うーわー。ホント、めんどーだよぉー。

 さて。
 どうやって断ろうか?
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