65 / 74
メルディ国編
リジーさんの怒涛(?)の日々だヨ③
しおりを挟む
「リジー殿? どうかしましたか」
「あ、モンド隊長。丁度良かった」
3人でネス達の部屋を出て、誰かいないかと案内されてきた廊下を戻っていると、角を曲がった先でモンド隊長とバッタリ行き合った。流石はモンド隊長。タイミングばっちり!(何が?)
「お願いしたい事があるのと、盗品の買い戻し交渉の事を話したくて」
「はい。どの様な事でしょうか」
まず、あの簡易トイレの中とかどうなっているか知らないから見せて欲しい――できれば新品希望――と言うと、モンド隊長は困った様に頬を掻いた。
「申し訳ありません。流石に、新品はありません」
「あー……やっぱり?」
「はい。王都から離れた町や村ですと、頻繁に使用する物でもありませんので、基本は使い回しです。使い終わったら浄化の魔法を掛けて保存し、定期的に不備がないか点検する程度です」
「……浄化魔法を掛けてあるなら、それで良いや」
「分かりました。後で準備しておきます」
「よろしく」
取り敢えず、中を見る前にあたしも浄化の魔法――消臭・滅菌効果付き――を掛けておけば大丈夫だろう。色々と。
「それから――」
さっき決めた事――交渉時間はこちらの指定した時間。立会人は必須。交渉ではなく権力や暴力で強引に取り上げようとする奴はたたんで捨てる等を説明する。
黙って聞いていたモンド隊長は、それならば、と口を開いた。
「交渉時間は1日2回。2の鐘が鳴った1時間後から1時間、4の鐘が鳴った1時間後から1時間の合計2時間でどうでしょうか」
この世界というより、教会がない様な過疎った村以外は、4時間に1回、鐘が鳴る。
1の鐘が4時、2の鐘が8時、3の鐘が12時、4の鐘が16時、5の鐘が20時――つまり、0時。
モンド隊長の提案は、9時から10時までの1時間と、17時から18時の1時間を交渉時間にしたらどうかという事だ。
「扉の前に兵士が2人、立つんでしょ? その時間で大丈夫?」
「逆に、この時間の方が助かります。2と4の鐘が鳴った時から1時間は人の流れが増えますので、兵士は必ず町の内外のパトロールにほぼ出払ってしまいます。1時間程度で人の流れもごたごたも落ち着きますので、それからが丁度良いかと思います」
ああ、なるほど。そういう意味で鐘の1時間後なのね。
ネスやルベルを見ると、2人共頷く。
「ギルドは、いつも開いている。依頼、いつでも出来る」
うんうん。24時間――じゃなくて20時間営業だもんね。いつでも大丈夫か。
「という事だから、それで大丈夫」
「ありがとうございます」
モンド隊長がホッとした様に息を吐いた。
「立会人ですが、私かサージット隊長が立ち会いましょうか?」
確かに、それが一番楽な方法なんだろうけど……。
「モンド隊長やサージット隊長って、中立と見て貰えるかなぁ?」
「あー……」
あたしに良くしてくれている。また、モンド隊長に至っては護衛依頼をした張本人である。
これらの事から中立とは言い切れないと思うんだよね。
モンド隊長もそう思うのか、言い淀んだし……。
「ギルドの職員の方がいいかもしれません」
「そう?」
「はい。まだあちらの方が、リジー殿との繋がりが薄い――まだ冒険者登録していない分、中立と見てもらえると思います」
「……ネスがいるのに?」
「ネスフィル殿は、その……一匹狼と言いますか……」
あ、言い淀んじゃった。
ネスもネスで素知らぬ振りをしているんじゃない!
「つまりは、冒険者登録はしているものの最低限の関わりしか持ってないから、ネス寄りとは見られない、と」
「……ネスフィル殿はAプラスランクの冒険者ですので、ギルドの方も関われないと言いますか、その……」
あ、なんとかフォローしようとしてるけど、墓穴掘ってる様な?
「まあいいや。じゃあ、これからギルドの方に行って、話しをつけてくる」
「先程、リジー殿の事や元副隊長の悪事等を書類に認め、ルチタンの支部長に届けておきました。全てご存知の筈ですので、直接、支部長を尋ねる方が早いと思います」
「分かった。ありがとう」
仕事が早いなモンド隊長!
と、言う訳で、一端モンド隊長と別れ、冒険者ギルドに行ってみよう!
「ネス。ギルドまで案内よろしく」
「分かった」
頷いたネスがさっさと兵舎出口方面へ歩き出す。その背中をルベルはぼーっと見送っている。おい。
そうじゃなくて。ネス! ちょっと待って。
「モンド隊長。ギルドの用事が済んで戻ってきたら、あの移動式の牢を見せてね」
「はい。準備しておきますので、戻りましたら私かサージット隊長に声を掛けて下さい」
「……どこにいるの」
「あー……その辺の兵士に声を掛けて、隊長室へ案内してもらって下さい」
「りょうかーい」
そう言えば、どちらかが必ず隊長室にいるんだっけ。
あたしは頷くと、モンド隊長に手を振り、既にかなり先を行くネスの背中をルベルと共に慌てて追いかけた。
「ネスってば、歩くの早いね」
「……そう、か?」
コンパスの差か、あたしは小走り、ルベルは結構頑張って走り、兵舎の出入り口近くで漸くネスに追い付いた。最も、身体能力が高いお蔭であたしもルベルも息切れひとつしていないけど。加護の影響スゴイ。竜も――残念系でも――スゴイ。
「ギルドまで遠いの?」
「いや。そこ」
「そこ?」
ネスが指差す方を見ると、ルチタンの町の中心辺りに石造りの大きな建物が。カジス村と同じく、街のほぼ中央という好立地にギルドは立っているようだ。
やはり有事の際、どこにでも駆け付けられる様に、誰でも逃げ込める様にというのはギルドの基本理念らしい。
カジス同様、実用一辺倒な木製の扉を開けると、これまたカジスと同じギルド風景が目の前に広がる。ギルドの作りはどこも共通のようだ。
ただこちらの場合、カウンターにいる人が登録や依頼受付等、全ての業務を行っている訳ではないらしく、カウンターの上に『総合案内』、『依頼(冒険者用)』、『素材買取』等の札が掛けられている。『依頼主はこちら』という看板まであり、ギルドに依頼をする者は直接奥へ行くシステムの様だ。
カウンター業務をしている人達の奥にいる人も案内や依頼、買取で分かれているらしく、円滑に仕事が進められている様に見える。
これが『支部長の資質の差』というやつかもしれない。あの絶望レベル高年オヤジじゃこのレベルの仕事は無理だろう。
そう考えると、このルチタンの支部長はかなりまともな部類の入るのではないかと推察できる。
まあいいや。会えば分かる。
あたしはネスとルベルにはちょっと離れた所で待っててもらい――絡まれると鬱陶しいからね――『総合案内』のカウンターに近付き、そこにいた、どこにでもいそうな普通の女性――悪口ではない。テンプレな美人受付ではなく、本当に普通の事務員って感じの人って意味――に声を掛けた。
「すみません。支部長にお会いしたいのですが」
「お約束ですか?」
「いえ。特に約束はしてませんけど、盗賊の事で話があると言って頂ければ分かると思います」
「かしこまりました。支部長に話してきます。失礼ですが、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「リジーと言います」
「リジー様ですね。では、申し訳ありませんが少々お待ち下さい」
「はい」
普通に話し掛けたら、普通に対応された。なぜだろう……すごく新鮮だ。奥の扉に消えていく女性を見送り、そんな事を思う。
……カジスと比べちゃ失礼か、うん。
あたしは離れた所で待っているネスとルベルに近付き、支部長に声を掛けに行ってもらっていると伝える。
――と。
ギルドの奥から、バタバタバタッとけたたましい足音が響いてきたかと思うと、突き破る様な勢いで事務員さんが消えた扉が開いた。
そこにいたのは――意外や意外。初老の男性。
おおおおお。あたし以外の年寄り、初めて――老化現象は除く――見たよ。
……うん。自分で言っておいてなんだけど……ちょっと、凹んだ……。
「あ、モンド隊長。丁度良かった」
3人でネス達の部屋を出て、誰かいないかと案内されてきた廊下を戻っていると、角を曲がった先でモンド隊長とバッタリ行き合った。流石はモンド隊長。タイミングばっちり!(何が?)
「お願いしたい事があるのと、盗品の買い戻し交渉の事を話したくて」
「はい。どの様な事でしょうか」
まず、あの簡易トイレの中とかどうなっているか知らないから見せて欲しい――できれば新品希望――と言うと、モンド隊長は困った様に頬を掻いた。
「申し訳ありません。流石に、新品はありません」
「あー……やっぱり?」
「はい。王都から離れた町や村ですと、頻繁に使用する物でもありませんので、基本は使い回しです。使い終わったら浄化の魔法を掛けて保存し、定期的に不備がないか点検する程度です」
「……浄化魔法を掛けてあるなら、それで良いや」
「分かりました。後で準備しておきます」
「よろしく」
取り敢えず、中を見る前にあたしも浄化の魔法――消臭・滅菌効果付き――を掛けておけば大丈夫だろう。色々と。
「それから――」
さっき決めた事――交渉時間はこちらの指定した時間。立会人は必須。交渉ではなく権力や暴力で強引に取り上げようとする奴はたたんで捨てる等を説明する。
黙って聞いていたモンド隊長は、それならば、と口を開いた。
「交渉時間は1日2回。2の鐘が鳴った1時間後から1時間、4の鐘が鳴った1時間後から1時間の合計2時間でどうでしょうか」
この世界というより、教会がない様な過疎った村以外は、4時間に1回、鐘が鳴る。
1の鐘が4時、2の鐘が8時、3の鐘が12時、4の鐘が16時、5の鐘が20時――つまり、0時。
モンド隊長の提案は、9時から10時までの1時間と、17時から18時の1時間を交渉時間にしたらどうかという事だ。
「扉の前に兵士が2人、立つんでしょ? その時間で大丈夫?」
「逆に、この時間の方が助かります。2と4の鐘が鳴った時から1時間は人の流れが増えますので、兵士は必ず町の内外のパトロールにほぼ出払ってしまいます。1時間程度で人の流れもごたごたも落ち着きますので、それからが丁度良いかと思います」
ああ、なるほど。そういう意味で鐘の1時間後なのね。
ネスやルベルを見ると、2人共頷く。
「ギルドは、いつも開いている。依頼、いつでも出来る」
うんうん。24時間――じゃなくて20時間営業だもんね。いつでも大丈夫か。
「という事だから、それで大丈夫」
「ありがとうございます」
モンド隊長がホッとした様に息を吐いた。
「立会人ですが、私かサージット隊長が立ち会いましょうか?」
確かに、それが一番楽な方法なんだろうけど……。
「モンド隊長やサージット隊長って、中立と見て貰えるかなぁ?」
「あー……」
あたしに良くしてくれている。また、モンド隊長に至っては護衛依頼をした張本人である。
これらの事から中立とは言い切れないと思うんだよね。
モンド隊長もそう思うのか、言い淀んだし……。
「ギルドの職員の方がいいかもしれません」
「そう?」
「はい。まだあちらの方が、リジー殿との繋がりが薄い――まだ冒険者登録していない分、中立と見てもらえると思います」
「……ネスがいるのに?」
「ネスフィル殿は、その……一匹狼と言いますか……」
あ、言い淀んじゃった。
ネスもネスで素知らぬ振りをしているんじゃない!
「つまりは、冒険者登録はしているものの最低限の関わりしか持ってないから、ネス寄りとは見られない、と」
「……ネスフィル殿はAプラスランクの冒険者ですので、ギルドの方も関われないと言いますか、その……」
あ、なんとかフォローしようとしてるけど、墓穴掘ってる様な?
「まあいいや。じゃあ、これからギルドの方に行って、話しをつけてくる」
「先程、リジー殿の事や元副隊長の悪事等を書類に認め、ルチタンの支部長に届けておきました。全てご存知の筈ですので、直接、支部長を尋ねる方が早いと思います」
「分かった。ありがとう」
仕事が早いなモンド隊長!
と、言う訳で、一端モンド隊長と別れ、冒険者ギルドに行ってみよう!
「ネス。ギルドまで案内よろしく」
「分かった」
頷いたネスがさっさと兵舎出口方面へ歩き出す。その背中をルベルはぼーっと見送っている。おい。
そうじゃなくて。ネス! ちょっと待って。
「モンド隊長。ギルドの用事が済んで戻ってきたら、あの移動式の牢を見せてね」
「はい。準備しておきますので、戻りましたら私かサージット隊長に声を掛けて下さい」
「……どこにいるの」
「あー……その辺の兵士に声を掛けて、隊長室へ案内してもらって下さい」
「りょうかーい」
そう言えば、どちらかが必ず隊長室にいるんだっけ。
あたしは頷くと、モンド隊長に手を振り、既にかなり先を行くネスの背中をルベルと共に慌てて追いかけた。
「ネスってば、歩くの早いね」
「……そう、か?」
コンパスの差か、あたしは小走り、ルベルは結構頑張って走り、兵舎の出入り口近くで漸くネスに追い付いた。最も、身体能力が高いお蔭であたしもルベルも息切れひとつしていないけど。加護の影響スゴイ。竜も――残念系でも――スゴイ。
「ギルドまで遠いの?」
「いや。そこ」
「そこ?」
ネスが指差す方を見ると、ルチタンの町の中心辺りに石造りの大きな建物が。カジス村と同じく、街のほぼ中央という好立地にギルドは立っているようだ。
やはり有事の際、どこにでも駆け付けられる様に、誰でも逃げ込める様にというのはギルドの基本理念らしい。
カジス同様、実用一辺倒な木製の扉を開けると、これまたカジスと同じギルド風景が目の前に広がる。ギルドの作りはどこも共通のようだ。
ただこちらの場合、カウンターにいる人が登録や依頼受付等、全ての業務を行っている訳ではないらしく、カウンターの上に『総合案内』、『依頼(冒険者用)』、『素材買取』等の札が掛けられている。『依頼主はこちら』という看板まであり、ギルドに依頼をする者は直接奥へ行くシステムの様だ。
カウンター業務をしている人達の奥にいる人も案内や依頼、買取で分かれているらしく、円滑に仕事が進められている様に見える。
これが『支部長の資質の差』というやつかもしれない。あの絶望レベル高年オヤジじゃこのレベルの仕事は無理だろう。
そう考えると、このルチタンの支部長はかなりまともな部類の入るのではないかと推察できる。
まあいいや。会えば分かる。
あたしはネスとルベルにはちょっと離れた所で待っててもらい――絡まれると鬱陶しいからね――『総合案内』のカウンターに近付き、そこにいた、どこにでもいそうな普通の女性――悪口ではない。テンプレな美人受付ではなく、本当に普通の事務員って感じの人って意味――に声を掛けた。
「すみません。支部長にお会いしたいのですが」
「お約束ですか?」
「いえ。特に約束はしてませんけど、盗賊の事で話があると言って頂ければ分かると思います」
「かしこまりました。支部長に話してきます。失礼ですが、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「リジーと言います」
「リジー様ですね。では、申し訳ありませんが少々お待ち下さい」
「はい」
普通に話し掛けたら、普通に対応された。なぜだろう……すごく新鮮だ。奥の扉に消えていく女性を見送り、そんな事を思う。
……カジスと比べちゃ失礼か、うん。
あたしは離れた所で待っているネスとルベルに近付き、支部長に声を掛けに行ってもらっていると伝える。
――と。
ギルドの奥から、バタバタバタッとけたたましい足音が響いてきたかと思うと、突き破る様な勢いで事務員さんが消えた扉が開いた。
そこにいたのは――意外や意外。初老の男性。
おおおおお。あたし以外の年寄り、初めて――老化現象は除く――見たよ。
……うん。自分で言っておいてなんだけど……ちょっと、凹んだ……。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2,113
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる