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エラの依頼
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車で博士について行くウェイは、政府機関まできて、中に入り通路を歩いている時、ふと足を止めた。
「この辺でよろしいでしょうか」
「ん? 何がだ?」
バックの遺体を丁寧に降ろして、数歩一瞬で博士に近づいた。
ガキンという音がしてウェイのナイフが弾かれる。
博士とウェイの間に一人の男が立っていた。
「どういうつもりだ?」
「ワタクシ、あなたを殺す依頼を受けましたの」
博士は苦笑する。
「金を払ってもらってないんじゃないのか?」
それを聞いたウェイは大きく高笑いした。
「ワタクシ沢山頂きましたわ! 愛や友情というお金に変えられない物を!」
「なら何故バックを殺すのを止めなかった?」
「ワタクシも共有していたからですわ」
それはバックの願い。それを尊重したのだ。彼女が殺されるのは止めない。それがバックの願いだったから。ウェイなら止められるかもしれないとバックは釘を刺したのだ。
「そして今度はエラの願いを聞く番ですの」
目の前の男と刃物で戦い合うウェイだったが、ウェイは初めて胸を深く刺された。男は自分の脇腹にわざと深く刺されて、ウェイの手を掴み逃げられなくして、ウェイに接近し胸を刺したのだ。
「流石ですわ……師匠」
「情を持つとは。お前は一流だったが、三流に落ちたな」
博士はバックの遺体を抱き上げて、最後に聞く。
「何故エラの前で戦わなかった?」
「……ワタクシ、勝ち目のない勝負はしないタチですの」
ウェイが奥歯を強く噛むと、まるで手品のようにバックの遺体から巨大なナイフが飛び出し、博士の胸に突き刺さる。
「博士!」
男が駆け寄るが、博士は倒れ伏す。
「流石だ……何か言い残すことはあるか?」
ウェイは薄れゆく意識の中ではっきりと自分の願望を言った。
「ワタクシ……もし叶うのでしたら、バックと共に同じ墓に眠りたいですわ……ウェイ=ヴォイス、この名を墓に刻んでくださいませ」
「わかった」
博士は男に要望を伝えて、運ばれていく。そしてウェイは息を引き取った。
博士もまた心臓の傷が深く、程なくして亡くなった。
エラにウェイが死んだことは伝えられなかった。それが彼女の願いだったから。
代わりに博士が死んだことも伝えられなかったが、エラにとっては博士の情報なんてどうでもいい情報かもしれない。
エラは手紙を大切にしながら、三人で楽しんだあの日々を思い出し、バックとウェイとエラの写真を見つめて涙するのだった。
「ウェイ、どうしているかしら。きっとまた殺し屋稼業についているのでしょうね。私達に情が湧くなんてことはなかったのかしら……」
だが一ヶ月後、バックの墓に墓参りにきたエラは驚愕する。
『英雄バック=バグ、ウェイ=ヴォイス、ここに眠る』
そうあったからだ。何故ウェイが死んでいる? まさか、あの後……そこまで考えて、考えるのを停止した。
ウェイも同じ気持ちだったと知れて、エラは嬉しく思い同時に悲しくなり、また涙した。
隣には彼氏が立っていた。悲しむエラを励ましてくれた彼に肩を抱かれ、墓を後にする前に一言添える。
「また来るからね、バック、ウェイ」
◆
こうして月呪法の戦いは幕を下ろした。月呪法の書類は全て燃やされた、はずだった。
ネットの海に埋もれたその文章は、いつか誰かが国を呪うかもしれない。
今も尚、国の諜報機関は、記事の削除に全力を注いでいる。
絶対に悲劇を繰り返さないために。
◆
(あらあら、また誰かが我らを喚ぼうとしてますね)
(ほほほ、また我らの出番が来るのでしょうか)
(くくく、死を招く。人間の愚かさよ!)
ラック、ハーフ、デスの月は月の背面で笑う。どれも凄惨な顔なことに変わりはないが、また彼らが表舞台に出てくることがあるのかもしれない。
「どうか、あいつらを殺す手伝いをしてください……」
願う少女は、文献の通りに呪詛を使うが上手くいかない。何度も何度も繰り返す内に、効果はないものと判断したのか、諦めて辞める。
宗教程の妄信的な何かでなければ、叶わない呪いなのかもしれない。バック=バグが成功させた月呪法は神の領域。
バック=バグの魂は神の世界にたどり着いた。そしてエラ達を見守っている。隣にはウェイ=ヴォイスもいる。
国の未来は守られた。幸せな終わりとして締めくくろうか?
否、こんな未来は認めないという人もいるだろう。エラもまたその内の一人だ。
それでもこの未来はバックが得た最高の未来だった。誰よりも、自分が呪ってしまった国を救うために動いた、バックの願いは達成されたから。
バックが死ぬ必要がなかったかもしれない。でもバックはすぐにでも死にたかったのかもしれない。
自分の大切な両親、仲間を呪い殺す羽目になった過去を、そしてのうのうと生き延びた自分を呪っていたのかもしれない。だからその思いを汚すわけにはいかない。
「さようなら、バック=バグ」
――――――
まだ終わりません。あと2話、お付き合いください。よろしくお願いします。
「この辺でよろしいでしょうか」
「ん? 何がだ?」
バックの遺体を丁寧に降ろして、数歩一瞬で博士に近づいた。
ガキンという音がしてウェイのナイフが弾かれる。
博士とウェイの間に一人の男が立っていた。
「どういうつもりだ?」
「ワタクシ、あなたを殺す依頼を受けましたの」
博士は苦笑する。
「金を払ってもらってないんじゃないのか?」
それを聞いたウェイは大きく高笑いした。
「ワタクシ沢山頂きましたわ! 愛や友情というお金に変えられない物を!」
「なら何故バックを殺すのを止めなかった?」
「ワタクシも共有していたからですわ」
それはバックの願い。それを尊重したのだ。彼女が殺されるのは止めない。それがバックの願いだったから。ウェイなら止められるかもしれないとバックは釘を刺したのだ。
「そして今度はエラの願いを聞く番ですの」
目の前の男と刃物で戦い合うウェイだったが、ウェイは初めて胸を深く刺された。男は自分の脇腹にわざと深く刺されて、ウェイの手を掴み逃げられなくして、ウェイに接近し胸を刺したのだ。
「流石ですわ……師匠」
「情を持つとは。お前は一流だったが、三流に落ちたな」
博士はバックの遺体を抱き上げて、最後に聞く。
「何故エラの前で戦わなかった?」
「……ワタクシ、勝ち目のない勝負はしないタチですの」
ウェイが奥歯を強く噛むと、まるで手品のようにバックの遺体から巨大なナイフが飛び出し、博士の胸に突き刺さる。
「博士!」
男が駆け寄るが、博士は倒れ伏す。
「流石だ……何か言い残すことはあるか?」
ウェイは薄れゆく意識の中ではっきりと自分の願望を言った。
「ワタクシ……もし叶うのでしたら、バックと共に同じ墓に眠りたいですわ……ウェイ=ヴォイス、この名を墓に刻んでくださいませ」
「わかった」
博士は男に要望を伝えて、運ばれていく。そしてウェイは息を引き取った。
博士もまた心臓の傷が深く、程なくして亡くなった。
エラにウェイが死んだことは伝えられなかった。それが彼女の願いだったから。
代わりに博士が死んだことも伝えられなかったが、エラにとっては博士の情報なんてどうでもいい情報かもしれない。
エラは手紙を大切にしながら、三人で楽しんだあの日々を思い出し、バックとウェイとエラの写真を見つめて涙するのだった。
「ウェイ、どうしているかしら。きっとまた殺し屋稼業についているのでしょうね。私達に情が湧くなんてことはなかったのかしら……」
だが一ヶ月後、バックの墓に墓参りにきたエラは驚愕する。
『英雄バック=バグ、ウェイ=ヴォイス、ここに眠る』
そうあったからだ。何故ウェイが死んでいる? まさか、あの後……そこまで考えて、考えるのを停止した。
ウェイも同じ気持ちだったと知れて、エラは嬉しく思い同時に悲しくなり、また涙した。
隣には彼氏が立っていた。悲しむエラを励ましてくれた彼に肩を抱かれ、墓を後にする前に一言添える。
「また来るからね、バック、ウェイ」
◆
こうして月呪法の戦いは幕を下ろした。月呪法の書類は全て燃やされた、はずだった。
ネットの海に埋もれたその文章は、いつか誰かが国を呪うかもしれない。
今も尚、国の諜報機関は、記事の削除に全力を注いでいる。
絶対に悲劇を繰り返さないために。
◆
(あらあら、また誰かが我らを喚ぼうとしてますね)
(ほほほ、また我らの出番が来るのでしょうか)
(くくく、死を招く。人間の愚かさよ!)
ラック、ハーフ、デスの月は月の背面で笑う。どれも凄惨な顔なことに変わりはないが、また彼らが表舞台に出てくることがあるのかもしれない。
「どうか、あいつらを殺す手伝いをしてください……」
願う少女は、文献の通りに呪詛を使うが上手くいかない。何度も何度も繰り返す内に、効果はないものと判断したのか、諦めて辞める。
宗教程の妄信的な何かでなければ、叶わない呪いなのかもしれない。バック=バグが成功させた月呪法は神の領域。
バック=バグの魂は神の世界にたどり着いた。そしてエラ達を見守っている。隣にはウェイ=ヴォイスもいる。
国の未来は守られた。幸せな終わりとして締めくくろうか?
否、こんな未来は認めないという人もいるだろう。エラもまたその内の一人だ。
それでもこの未来はバックが得た最高の未来だった。誰よりも、自分が呪ってしまった国を救うために動いた、バックの願いは達成されたから。
バックが死ぬ必要がなかったかもしれない。でもバックはすぐにでも死にたかったのかもしれない。
自分の大切な両親、仲間を呪い殺す羽目になった過去を、そしてのうのうと生き延びた自分を呪っていたのかもしれない。だからその思いを汚すわけにはいかない。
「さようなら、バック=バグ」
――――――
まだ終わりません。あと2話、お付き合いください。よろしくお願いします。
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