バック=バグと三つの顔の月

みちづきシモン

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少女バック=バグと三つの顔の月

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 少女エラ=フィールド、謎の蝿が飛んできて倒れる。少女バック=バグ、能力を使い蝿を潰す。
 デスの月の能力、死蝿しばえで倒れたエラをバック、持っていた薬で助けた。
(我らの力を抑える忌まわしき少女め)
 そう思うデスの月に不思議な部屋から語りかける謎の男。
「その力、解放するにはどうしたらいい?」
 そう言う男に、凄惨な恐怖を覚えさせられる笑顔のデスの月は語りかける。
「この少女を取り除け! そうすれば生と死を逆転することを約束しよう!」
 バック=バグがデスの月の背中に張り付いていた。それは彼女が捧げる太陽の神の能力による幻影。

 翌日、エラは学校でバックに詰め寄る。
「昨日私に何をしたの!」
「何って別に……」
 エラは昨日あったことを皆に話す。帰る途中ふらついて、倒れた時バックがいた事。
 バックが何かしたんだと思ったエラは更に詰め寄る。だが先生がやってきて、それを止める。
「そこまでですよ。証拠もないのに詰め寄ってはいけません」
「でも先生、バックが……」
「………………」
「バックを責めるのは駄目ですよ」
(くっくっくっ、油断したな?)
 ハッ! と顔を上げるバックは、小さく舌打ちした。やってしまったという顔のバック。
(助けたのに責められるのは嫌だよなぁ? そんなくらいなら言ってやればいいのになぁ?)
 うるさいと思いつつバックは鞄を持って立ち上がる。
「先生……私、早退します」
「どうしたの? 気分が優れないの?」
「何よ? これくらいで……」
 バックは話を続けることなく駆け出す。

 今この国は三つの顔の月に支配されている。それがバック以外にはわからない。
 神に選ばれた少女バックは三種類の……顔のある月を、神に与えられた能力で押さえ込んでいる。
 ラック、ハーフ、デスの三種の顔。命が欠ける、命が半分になる、命が死ぬ。放っておけば……という事だ。
 デスの月は一番厄介で、死蝿を放ち人を殺す。死を司る月の顔なのだ。
 バックは感覚でどこに死蝿がいるかわかる。猛ダッシュで死蝿を潰して回っていた。
 太陽の神に与えられた能力で、幻影のバック=バグが月に張り付いている。
 それが月の力を抑えているのだが、感情が落ちると能力が落ちる。
 話せる内容じゃないし、話しても分かって貰えないものだと思って、他人にはほとんど話していない。
 あの日、三つの顔の月を知ってしまった日、神に力を与えられた。

 どうして自分なのだと恨みもした。でもデスの月の時に死蝿で倒れた人を見て、助けないといけないと感じた。
 それからは使命感で人を助け、月の力を抑えている。
 バックは孤独だった。昼はまだ月の力が弱い。出ていない時もあるくらいだからだ。
 だが夜になり月が出ている時間が来ると一気に力が強くなる。感情が低下すれば抑えきれないほどに。
 だから死蝿を潰して回る。バックは睡眠時間が短くても大丈夫。
 人を助けるために自己犠牲しているのだ。
(今日は嫌な気分になったな)
 バックは日が落ちていき月の時間になったために駆け回る。
(話せれば落ち着くのかな?)
 今日は昼から出ていた月なので、あまり長い時間は月が出ていない。
(終わったらご飯を食べて寝よう……)
 バックは一人暮らしの高校生。『ある人』から生活のための物は配布される。それがせめてもの救いだ。

「バック!」
「!?」
 後ろからエラに声をかけられた。バックの心臓は高鳴る。振り返ると怒ったエラがバックの元へ来た。
「あなた……こんなところで、こんな時間に何してるの? 学校サボって」
「エラには関係ないでしょ」
「ふーん? 不良少女って言い回ってもいいのね?」
「勝手にすれば」
「何なのよ? 何かあるなら教えてよ!」
(イライラする……話してなんになる? エラには何も出来ないでしょう?)
 バックは自分の感情が下がるのがわかった。
(まずい……!!)
 分かっていたのに防げなかった。
 デスの月が、大きくなってきて自分とエラを見ている。

「な、何? 月が……」
「よーお! バック=バグ! 随分弱ってるなぁ?」
 喋る月にエラは混乱している。
「何をする気……? デスムーン……」
「なーに、たまには俺を必死に抑えるバック=バグちゃんに嫌がらせしてやろうと思ってなぁ」
 デスの月が怪しく光る。
「やめて!」
「あ……」
 エラは倒れて、その命を止めてしまった。バックは慌てて薬を飲ませる。
 それはデスの月によって殺された者を生き返らせる薬。
「さっさと去って! デスムーン!」
「ははは、随分な言い草だな。いつかお前を引き剥がしてやる。その準備はしているから、覚悟しておくんだな」
 デスの月は去っていく。そして、通常の世界に戻った。

 エラは生き返っている。だがすぐには起きない。バックはエラを背負って、エラの家まで送り届けるのだった。
 そして翌朝、学校で問い詰められるのだ。
「説明してよ! 何よあれ! 私に何が起きたの?」
「話すことは何もないよ、夢でも見てたんじゃない?」
「バック、私がそんなに信用できない?」
 バックは頷く。エラは全く信用出来ないし、役にも立たない。
 それに怒ったエラはバックに言い放つ。
「いいわ! 自分で調査するわ! 絶対解明してみせるんだから!」
(勝手にすればいい。どうやってもたどり着けないのだから)
 バックはただそう思って、投げやりな気分のまま勉強に取り組むのだった。
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