宇宙人の皆さま、侵略しにきた地球は異世界ですのでお帰りください!

聖千選

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第三話「僕の使命はヒロインとともに・・・」

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 魔族のファラドスは剣を構えて無職の自分に必殺技オーバーキルをかけようとした時、岩陰から三体のモンスターがファラドスに立ちはだかった。カブトムシのようなツノが特徴的な黒い甲虫。鋭い爪を構えた大ネズミ。広げた羽根がプリズム煌めく精霊のような昆虫。

 「なんだと?まさかこいつらが!」

 思わぬ援軍に動揺を隠せないファラドスは一度、剣を納めた。

 「本当に運のいい奴だな。今日のところは引き下がる。だが、そんな低いレベルでどこまでこの魔界で生き残れるかな?」

 こう言い残して敵はさった。どうやらこの世界での自分は強運の持ち主のようだ。だったら現実世界でもその力を発揮しろよと思いつつ自分を救ってくれたモンスターが今度は自分を襲ってくるとも限らない。
 そう思っているとモンスターたちは一斉のこちらを向いた。ドラゴンより迫力は劣るが、ムチ使いとしての自分の力量を知っているなら倒せる相手と判断したのだろう。そして今は手負いの状態。
 今度こそ終わったから思ったが、モンスターが向ける目が殺意あるものに見えない。むしろこの視線は以前にも感じたような・・・。

 「お前、まさか“映えちバエチ”か?」

 “映えちバエチ”とは昨夜、自分と半額のショートケーキを分け合ったコバエである。社会の底辺として害虫の個体を見分ける能力を持った僕はそうあだ名をつけていた。それを紐づければ、爪を研いでいる大ネズミは“ズミさん”だし、その隣のカブトムシのような甲虫はGの“G郎”だとわかる。

 (お前たちが、ドラゴンを説得したのか。)

 流石にモンスターとは言葉を交わすことができない。バエチが直接ドラゴンを説得したとも考えられない。

 しかしこの三体のモンスターは自分よりもずっとこの世界に溶け込んでいるようだ。ネズミであれハエであれ、この世界の微生物を調整し土壌を形成し自然循環の一部になっているとしたら・・・。無碍にドラゴンもバエチや仲間(僕も含めて)に手出しはできなかったのかもしれない。

「まさか、Gの恩返しとはね。絵本にはできそうにないけど・・・。」

 元生物学者の卵として色々と飛躍して考えてみる。いつの間にか溶岩地帯を抜けて一行は草木が茂る森林地帯へ足を踏み入れた。丑三つ時のような夜の世界。ファラドスが言うようにここが魔界ならば、今が夜なのか太陽の光が届かない世界なのか分からない。どちらにしてもモンスターの凶暴性が増す世界だ。

 (モンスターに会ったらとにかく逃げる!)

 そう決意して草木の影を伝い先を急ぐ。すると目の前に巨大な棍棒を持った牛頭のモンスターが現れる。まだ敵はこちらに気付いていないようだ。もちろんコマンドは逃げる一択。仲間のモンスターにもそう伝えようと合図を送る。

 「いやーーーーーーーーーー。」

 森の中に轟く悲鳴が僕の合図をかき消す。咄嗟に牛頭モンスターの方を見るとその脇にエルフ姿の少女がいることに気づく。

 (嘘だろ!)

 僕はのけぞった弾みで木の枝を「ポキリ」と折ってしまう。敵がいることに気づいた魔物はまさに闘牛のように興奮で鼻息を荒げる。それに対してバエチたちは突撃するが、体格差ですでに圧倒されてそれぞれ5メートル四方に吹き飛ばされてしまう。
 「ちくしょう!」とばかりに手にしたムチを振るうが、魔物の屈強な肉体にダメージを与えることができない。

 「結局、役立たずかよ!」

 怒りのあまりムチで地面を叩きつける。有効打を失ったジミオだが、同時に牛頭のモンスターが直立したまま動かない。バシバシと振るったムチを丸め納めるジミオはその鞭の音に反応してモンスターがおとなしくなっていることが分かる。

 (まさか俺が転生したのは魔物使い?)

 モンスターがおとなしく帰っていく姿を見てようやく自分の役職を知る。最強じゃん!

 興奮を覚えながら揚々とムチをからふりする自分の姿を見てエルフは突然、僕に声をかけた。

 「もしかして翁牙くん?」

 忘れかけていた自分の本名をこの異世界で聞いてドキリとした。現実世界でも自分のことを本名で呼ぶ人は少ない。だとすれば、

 「ひょっとしてナナセさん?」

 にエルフの少女はコクリと頷いた。こんなところで幼馴染と出会う妄想のような世界に少々呆れてしまう。そう考えに浸るまもなく空から三尖の槍を手にした悪魔型のモンスターが広げた翼から作り上げた竜巻で攻撃してきた。あたりの草木は根こそぎ剥ぎ取られ抵抗する僕たちがむき出しになる。

 「貴様も魔物なら。」

 先ほどと同じくムチを地面に叩きつける。

 しかし、魔物は難なく手にした三尖の槍をかざして上空から振り下ろす。
 これはなんとか躱すことができたが動揺は隠せない。魔物使いの能力が発揮できない。
 上空の敵には通用しないのか?純粋にレベルの違い?かしこさ?どの原因を探ってもすぐには解決できそうにない。

 次に上空の敵は槍に念をこめて電撃の塊を作り出す。僕の苦境の表情を見て満面の笑みを浮かべる魔物であったが、その油断を突いて別の方向から矢のような閃光が放たれる。閃光の矢は魔物の体を貫き急降下しながら爆発していった。

 「アスカ!来ていたのね。」

 ナナセは最愛の名前を叫んだ。よく見ると高台から魔道士の姿をした男が、杖を構えている。杖から呪文が使われたことがわかる光の残留が漂っている。その顔立ちは表情を変えずに目力だけをたぎらせている。

 「せ、先輩もここへ転生されたのですか?」

 「ああ、大学の在学中の頃からかな・・・。」

 自分だけの世界かと思っていたが先客がいた。しかも、自分が会いたくないリア充な先輩。ここはユートピアではないらしい。

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