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最終章:想いの力
新しく芽生えた力
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猛烈な勢いでこちらに突進してくる皇帝を止めたのは、エルとユーディットがほぼ同時に張り巡らせた防御壁だった。二人がかりで展開した防壁は皇帝の接近を阻み、結界としてオレたちを守るように立ち塞がる。
「ユーディット! 貴様、この俺を裏切るつもりか!?」
「……今まで一度だってあんたを夫だと思ったことないけど……不思議だね、今はなんだか、あんたがとてもかわいそうに見えるよ」
「なんだと……!? このようなもの、破壊してくれるわ!」
ユーディットは決して煽るつもりで言ったわけじゃないんだろうけど、その一言は皇帝の逆鱗に触れたようだった。皇帝は剣を振り上げると、黒いオーラに包まれた刃を思い切り防壁へと叩きつける。それでも、どうしたことか皇帝の力を以てしても破壊されることはなかった。皇帝の力が弱ってるようには見えないし……さっきの治療でエルとユーディットに何らかの変化があったんだろうか。エルが負った傷はかなり深かったみたいだし。
「この――! ぐうぅッ!?」
もう一度渾身の力を込めて防壁を叩き割ろうとする皇帝の真横から、それまで相手をしていただろうヴァージャが突進してきた。体当たりに近い勢いで差し迫り、右手に持つ黄金色の輝きに包まれた剣を叩きつける。皇帝はそれを間一髪、後退することで避けると、忌々しそうに舌打ちをしながら更に大きく跳び退った。
「ヴァージャ! ……その傷……!」
でも、信じられないことに――ヴァージャの身体は全身ボロボロだった。さっきの団長みたいにあらゆる箇所に剣傷を抱えていて、思わず言葉を失ってしまう。それなのに、こっちを振り返った当のヴァージャは涼しい顔をしているものだから、今どのくらいの状態なのかも判断が難しい。余裕はあるのか、それとも……。
「この程度、別に問題はない」
「と、とてもそうは見えませんよ! ヴァージャさんがそんなに怪我をしちゃうなんて……!」
フィリアたちと共に傍に寄って確認してみるけど、返り血だとかそういうわけでもない。ヴァージャの身体には確かに傷が刻まれていて、あちこちから血が流れていた。依然として涼しい顔で、更に同じく涼しい声で返答するものだから、フィリアが真っ先にそんな声を上げる。そりゃそうだ、当たり前だよ。
「私たちは侵略しに来たわけではないのだぞ、当然皇帝を殺しにきたというわけでもない。屠るのは簡単だが、戦意を喪失させるのはなかなか難しい」
「あ……じゃあ、あんたずっとそのつもりで……」
今サラッととんでもないこと言ったな、屠るのは簡単? あの皇帝を?
……でも、そうか、そうだな。オレたちは皇帝を倒すことが目的だけど、別に命まで奪うとは誰も言ってない。ヴァージャはここまでの旅の中で、人間の命を奪うことは絶対にしなかった。マックみたいなやつでも殺すことはしなかったし、何度も激突したリュゼのことだって。
でも、戦意を喪失させるなんてできるのか? 皇帝が武器を捨てて戦いをやめるなんて、メチャクチャ難しいと思うけど……。
「リーヴェ、お前のその力……使えそうだな」
「え?」
「ディーア、サクラ、できる範囲でいい、皇帝の動きを止めておいてくれ。フィリアとエルは後方から二人の援護を。……私は、狙撃はあまり得意ではなくてな、動き回られては外してしまう」
ヴァージャは短くみんなに指示を出すなり、右手に持っていた剣の形状を――いつかも見た指輪へと変化させた。初めてリュゼにぶっ放した時みたいにやるつもりか。
ディーアとサクラは一拍ほど遅れてからどちらもしっかりと頷くと、それぞれ得物を手に皇帝の元へと駆け出していく。それを見て、皇帝は舌を打ち鳴らして二人を迎え撃った。
「フィリア……!」
「大丈夫よ、ママ! 私のクランの人たちは頼りになる人ばっかりなんだから! パパとママは安全なところで見てて!」
「本当に……たくましくなったな、フィリア……」
シファさんはヘールさんと一緒にフィリアを心配そうに見つめてたけど、フィリアはすっかり元気を取り戻したようでエルと共にディーアとサクラの後に続いた。
……ママはシファさんってわかるけど、……パ、パパ……!? えっ、ヘールさんって……フィリアのパパさんなの!?
半分以上混乱するオレに構うことなく、不意にヴァージャに手を引かれた。反射的にそちらを見てみれば、当のヴァージャが幾分か呆れたような表情を滲ませている。
「そういうわけだ、頭を切り替えろ」
「あ、あんたは知ってたのか……でも、どうするんだ? あの皇帝が戦意を喪失するなんてなさそうだけど……」
「だから、お前のその力を使わせてもらうのだ。余計なことは何も考えなくていい、そのままでいろ」
オレの力って……さっきのよくわかんないやつ?
ヴァージャに促されるまま隣に立って片手を突き出すと、ヴァージャも同じように手を突き出した。すると、その中指に填まる気性難の武器――森羅万象が、あの時みたいに腕の周りにいくつもの魔法陣を展開させる。それと同時に、さっきの光がヴァージャの身に刻まれた無数の傷さえも包み込み、その傷を塞いでいく。
「お前の中に新たに芽生えたこの力は、我々神々でも持ち得ない極めて特殊な力だ。深い愛情と感謝、それらが混ざり合い、周囲の者たちの内側へと働きかける」
深い愛情と、感謝……? ああ、さっきアフティの言葉がキッカケになって色々思い返したから、あれのせいか? みんな暖かいって言ってたけど、オレ自身はその力を受けられないからよくわからないんだよ。
「詳しいことは後で話すが、……私は、お前が相棒であることを誇りに思う。あの日に出逢えたのがお前で……よかった」
「……ヴァージャ」
そんなの、……そんなの、オレだって。
あの日、ティラとあんなことになって絶望しかなかったオレに存在意義を与えてくれたのは、他でもないヴァージャなんだ。出逢えてよかったってのは、こっちの台詞だ。
「ザコどもが! 群れなければ何もできぬ者たちが、この俺に敵うと思うか!」
「敵うさ、塵も積もればなんとやらって言うだろ!」
「ちょっと、それじゃあ私たちが塵ってこと? 失礼しちゃうわね! ――フィリアちゃん、エルちゃん! 今よ!」
最前列で皇帝と斬り結ぶディーアとサクラは、そんな軽口さえ交えながらヴァージャに言われた通り皇帝の足止めをしている。その最中、互いにほんの一瞬だけ視線を交えて目配せし合うと、ディーアとサクラはほとんど同時に床を蹴って後方に跳んだ。
直後、サクラから合図を受けたフィリアが宙に展開した魔法円を輝かせると、皇帝の周囲にはいくつもの竜巻が巻き起こった。それは辺りに散乱した瓦礫や調度品を巻き込み、皇帝の視界をこれでもかというほどに遮る。
続いてエルが片手を振ると、皇帝の足元には白い魔法円が出現し、光り輝くいくつもの鎖が飛び出した。それらの鎖は皇帝の足に絡みつき、動き回れないようその身を固定する。
「何を……!? おのれ、貴様ら!」
「……あの男にも、思い出せば懐かしくなるような記憶があるはずだ。リーヴェ、お前の力でそれを思い出させてやろう」
……どういうことかよくわかんないけど、オレが役に立てるならそれでいい。
ヴァージャの腕の周囲に展開した魔法陣がひと際力強く輝いた直後、いつかの時と同じく無数の光が弾丸のように皇帝目掛けて放たれ、勢いよく飛翔した。
「ユーディット! 貴様、この俺を裏切るつもりか!?」
「……今まで一度だってあんたを夫だと思ったことないけど……不思議だね、今はなんだか、あんたがとてもかわいそうに見えるよ」
「なんだと……!? このようなもの、破壊してくれるわ!」
ユーディットは決して煽るつもりで言ったわけじゃないんだろうけど、その一言は皇帝の逆鱗に触れたようだった。皇帝は剣を振り上げると、黒いオーラに包まれた刃を思い切り防壁へと叩きつける。それでも、どうしたことか皇帝の力を以てしても破壊されることはなかった。皇帝の力が弱ってるようには見えないし……さっきの治療でエルとユーディットに何らかの変化があったんだろうか。エルが負った傷はかなり深かったみたいだし。
「この――! ぐうぅッ!?」
もう一度渾身の力を込めて防壁を叩き割ろうとする皇帝の真横から、それまで相手をしていただろうヴァージャが突進してきた。体当たりに近い勢いで差し迫り、右手に持つ黄金色の輝きに包まれた剣を叩きつける。皇帝はそれを間一髪、後退することで避けると、忌々しそうに舌打ちをしながら更に大きく跳び退った。
「ヴァージャ! ……その傷……!」
でも、信じられないことに――ヴァージャの身体は全身ボロボロだった。さっきの団長みたいにあらゆる箇所に剣傷を抱えていて、思わず言葉を失ってしまう。それなのに、こっちを振り返った当のヴァージャは涼しい顔をしているものだから、今どのくらいの状態なのかも判断が難しい。余裕はあるのか、それとも……。
「この程度、別に問題はない」
「と、とてもそうは見えませんよ! ヴァージャさんがそんなに怪我をしちゃうなんて……!」
フィリアたちと共に傍に寄って確認してみるけど、返り血だとかそういうわけでもない。ヴァージャの身体には確かに傷が刻まれていて、あちこちから血が流れていた。依然として涼しい顔で、更に同じく涼しい声で返答するものだから、フィリアが真っ先にそんな声を上げる。そりゃそうだ、当たり前だよ。
「私たちは侵略しに来たわけではないのだぞ、当然皇帝を殺しにきたというわけでもない。屠るのは簡単だが、戦意を喪失させるのはなかなか難しい」
「あ……じゃあ、あんたずっとそのつもりで……」
今サラッととんでもないこと言ったな、屠るのは簡単? あの皇帝を?
……でも、そうか、そうだな。オレたちは皇帝を倒すことが目的だけど、別に命まで奪うとは誰も言ってない。ヴァージャはここまでの旅の中で、人間の命を奪うことは絶対にしなかった。マックみたいなやつでも殺すことはしなかったし、何度も激突したリュゼのことだって。
でも、戦意を喪失させるなんてできるのか? 皇帝が武器を捨てて戦いをやめるなんて、メチャクチャ難しいと思うけど……。
「リーヴェ、お前のその力……使えそうだな」
「え?」
「ディーア、サクラ、できる範囲でいい、皇帝の動きを止めておいてくれ。フィリアとエルは後方から二人の援護を。……私は、狙撃はあまり得意ではなくてな、動き回られては外してしまう」
ヴァージャは短くみんなに指示を出すなり、右手に持っていた剣の形状を――いつかも見た指輪へと変化させた。初めてリュゼにぶっ放した時みたいにやるつもりか。
ディーアとサクラは一拍ほど遅れてからどちらもしっかりと頷くと、それぞれ得物を手に皇帝の元へと駆け出していく。それを見て、皇帝は舌を打ち鳴らして二人を迎え撃った。
「フィリア……!」
「大丈夫よ、ママ! 私のクランの人たちは頼りになる人ばっかりなんだから! パパとママは安全なところで見てて!」
「本当に……たくましくなったな、フィリア……」
シファさんはヘールさんと一緒にフィリアを心配そうに見つめてたけど、フィリアはすっかり元気を取り戻したようでエルと共にディーアとサクラの後に続いた。
……ママはシファさんってわかるけど、……パ、パパ……!? えっ、ヘールさんって……フィリアのパパさんなの!?
半分以上混乱するオレに構うことなく、不意にヴァージャに手を引かれた。反射的にそちらを見てみれば、当のヴァージャが幾分か呆れたような表情を滲ませている。
「そういうわけだ、頭を切り替えろ」
「あ、あんたは知ってたのか……でも、どうするんだ? あの皇帝が戦意を喪失するなんてなさそうだけど……」
「だから、お前のその力を使わせてもらうのだ。余計なことは何も考えなくていい、そのままでいろ」
オレの力って……さっきのよくわかんないやつ?
ヴァージャに促されるまま隣に立って片手を突き出すと、ヴァージャも同じように手を突き出した。すると、その中指に填まる気性難の武器――森羅万象が、あの時みたいに腕の周りにいくつもの魔法陣を展開させる。それと同時に、さっきの光がヴァージャの身に刻まれた無数の傷さえも包み込み、その傷を塞いでいく。
「お前の中に新たに芽生えたこの力は、我々神々でも持ち得ない極めて特殊な力だ。深い愛情と感謝、それらが混ざり合い、周囲の者たちの内側へと働きかける」
深い愛情と、感謝……? ああ、さっきアフティの言葉がキッカケになって色々思い返したから、あれのせいか? みんな暖かいって言ってたけど、オレ自身はその力を受けられないからよくわからないんだよ。
「詳しいことは後で話すが、……私は、お前が相棒であることを誇りに思う。あの日に出逢えたのがお前で……よかった」
「……ヴァージャ」
そんなの、……そんなの、オレだって。
あの日、ティラとあんなことになって絶望しかなかったオレに存在意義を与えてくれたのは、他でもないヴァージャなんだ。出逢えてよかったってのは、こっちの台詞だ。
「ザコどもが! 群れなければ何もできぬ者たちが、この俺に敵うと思うか!」
「敵うさ、塵も積もればなんとやらって言うだろ!」
「ちょっと、それじゃあ私たちが塵ってこと? 失礼しちゃうわね! ――フィリアちゃん、エルちゃん! 今よ!」
最前列で皇帝と斬り結ぶディーアとサクラは、そんな軽口さえ交えながらヴァージャに言われた通り皇帝の足止めをしている。その最中、互いにほんの一瞬だけ視線を交えて目配せし合うと、ディーアとサクラはほとんど同時に床を蹴って後方に跳んだ。
直後、サクラから合図を受けたフィリアが宙に展開した魔法円を輝かせると、皇帝の周囲にはいくつもの竜巻が巻き起こった。それは辺りに散乱した瓦礫や調度品を巻き込み、皇帝の視界をこれでもかというほどに遮る。
続いてエルが片手を振ると、皇帝の足元には白い魔法円が出現し、光り輝くいくつもの鎖が飛び出した。それらの鎖は皇帝の足に絡みつき、動き回れないようその身を固定する。
「何を……!? おのれ、貴様ら!」
「……あの男にも、思い出せば懐かしくなるような記憶があるはずだ。リーヴェ、お前の力でそれを思い出させてやろう」
……どういうことかよくわかんないけど、オレが役に立てるならそれでいい。
ヴァージャの腕の周囲に展開した魔法陣がひと際力強く輝いた直後、いつかの時と同じく無数の光が弾丸のように皇帝目掛けて放たれ、勢いよく飛翔した。
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