闘乱世界ユルヴィクス -最弱と最強神のまったり世直し旅!?-

mao

文字の大きさ
上 下
136 / 172
第十一章:城塞都市アインガング

ふたりの天才《ゲニー》

しおりを挟む

 アンテリュールで思わぬ邂逅を果たして約半日、見つけた時はほとんど気力が抜けているように見えたウロボロス――いや、ウロボロスの面々も少しずつ落ち着きを取り戻してきていた。それがオレにとって喜ばしいかどうかは別だけど、まあ……うん。乱暴されそうになった女性たちだ、たぶん恐ろしい想いをしただろうから、好き嫌いは別として気持ちが上向いてくれるならそれでいい。

 あの後、ヴァージャに呼ばれたサクラとフィリアがやってきた時は何とも言えない空気が漂ったものだ。ボロボロになった彼女たちを目の当たりにしたサクラは、何も言わなかった。……というよりは、何も言えなかったに違いない。いくら付き合いの長いサクラでも、マックがこうまで女に対してひどい仕打ちをするなんて彼女だって思ってなかっただろう。

 何も言わない代わりに、彼女は甲斐甲斐しく元仲間たちの世話をしていた。もちろん、助けてもいいかとフィリアに確認を取ることは忘れずに。

 それからディーアとエルも合流して、取り敢えず四人で報告し合うことになった。


「じゃあ、娯楽街の方にも紛れてたのか」
「ああ、三人ほど。身分証も持ってたし、所属も帝国にある部隊だから間違いない、帝国兵だ」
「思っていたよりも多いですね、貧民街の方にもやっぱりいましたか……」


 潜伏してるかもしれない兵士を見つけるといっても、調査できた時間は正直あまり長くない。もしかしたらまだ見つけていないやつもいるかもしれない、確実に安全だとは言えなかった。
 このアンテリュールから城塞都市アインガングまでは多少なりとも距離はあるものの、デカい都だからこそ利便性にも優れている。金さえ出せば移動時間の短縮にいい馬車でも何でもすぐに調達できるだろう。考えすぎかもしれないけど、下手をすると一網打尽にされる可能性だって……。


「あ、あの、ちょっとこれを見てもらえませんか?」
「フィリアちゃん、どうした?」


 そこへ、二階の掃除をしていたフィリアが古びた階段をぱたぱたと駆け下りてきた。その小さな手にはいくつかの紙切れが握られている。一階の居間で話していたオレたちの傍に駆け寄ってくるなり、所々破れたその紙切れを手の平に乗せて見せてきた。紙の表面には、ややかすれた文字が走り書きのような形で綴られている。それは……日記のように見えた。

 小さな紙面に綴られた文字からは、まるで怯えているような印象を受ける。「こわい、たすけて、やっぱりやめておけばよかった」という深い後悔が読み取れた。


「これ……まさか……」
「ど、どうしたんですか?」
「……間違いない、姉さんの字だ!」


 紙切れを見つめて声を上げたのは、他の誰でもないエルだった。これを書いたのがエルの姉ちゃんなら、マックについてきたことを後悔してる、……ってとこか。あの姉ちゃんは弟を見返したくて名の通ってるクランに入りたかったみたいだし、まさかマックが女に――仲間に手を上げるなんて思わなかったんだろう。

 フィリアが持ってきた紙切れを手に奥の部屋に向かうエルの後ろをみんなで追いかけていくと、エルは部屋に飛び込むなり大慌てで声を上げた。


「あの、この紙切れ……フィリアが二階で見つけたんですけど、誰が書いたか……わかりませんか?」


 その場に居合わせた面々は、エルの声に反応して顔を上げた。いずれも疲労の色が濃く見えるものの、さっきよりは随分と落ち着いたようだ。見知った仲のサクラが傍にいる影響もありそうだけど。
 すると、すぐ近くで座り込んでいた数人がおどおどしながら口を開いた。答えてもいいのかどうか、どこか心配そうな様子で。


「二階なら、ティラやアフティが使ってたからどっちかだと思うけど……」
「――! そ、そうですか、ありがとうございます、それが聞ければ充分です!」


 その返答に、エルの表情はパッと明るくなった。マックのやることに恐怖や疑念を抱いたってことは、あの姉ちゃんはまともだ。次にエルと会えばきっとまだ戻ってこれる。ティラはわからないけど。
 なんてそんなことを考えていると、元ウロボロスの面々が何やらどよめいているのに気付いた。戸惑ったような、困惑しているような――それでいてちょっと嬉しそうな様子で。その視線はエルに向けられていた。


「……あんたも天才ゲニーなのに、そんなあっさりお礼言うなんて……変わってんのね」
「ふふ……世界は広いのよ。同じ天才ゲニーでも全員がマックみたいな性格じゃないわ。あんたたちもマックの本性はこれでもうわかったでしょう、彼は最初からウロボロスのメンバーから一人だけを選ぶ気なんてなかったのよ」


 サクラが静かにそう告げると、どよめきは静まり、代わりにそっと安堵がその場の空間に広がったような気がした。肩の力が抜けたというか。

 マックとエル――同じ天才ゲニーでありながら、そのマックとはまったく違うエルの性格に彼女たちは衝撃を受けているようだった。そうだよなぁ、オレもエルに会う前はマックしか天才ゲニーを知らなかったから驚いたものだよ、こんなに腰の低いやつもいるのか、ってさ。……天才ゲニーの伴侶になれれば、今の世の中じゃ所謂になれる。彼女たちは不満があっても、その勝ち組になるために従うしかなかったんだろう。その先に明るい未来があると信じて。

 マックを逃せば、こんな機会はきっと二度と訪れない。
 そんな強迫観念に縛られていたのかもしれないし、今まで時間と色々なものを捧げてきたからこそ意地もあっただろう。捧げたものが長く多ければ多いだけ、諦めるのも難しいもんだ。

 ……今の彼女たちは、どこか吹っ切れたような清々しい顔をしていた。いつかのサクラみたいに。


「……リーヴェ、心は決まったか」
「うん。ヘクセのことは嫌いだけど治してやるよ、仕方ない」


 オレの頭の中が落ち着いた頃を見計らって、隣に立っていたヴァージャが静かに声をかけてきた。複雑に入り組んで悶々としていた気持ちはまだ残ってるけど、サクラの時と同じだ。自分のために彼女たちを治療しようと思う。

 ヘクセもロンプも、他の面々も。マックのことは綺麗さっぱり忘れるんだとしても、そのマックに負わされた傷は今もくっきりと残ってる。身体や顔に女の子が傷を作ったままなんて、これからの未来を考えるとあんまりだ。これまで敵対してきたわけだから快い感情はまだ抱けそうにないけど、いつか彼女たちが幸せを掴んだ時にマックが地団駄を踏んで悔しがる様が見れるかもしれないと思うと――ちょっと楽しみではある。なんて思っちまう辺り、オレも大概歪んでるな。

 そんなオレの思考をいつも通り読んだのか、ヴァージャはふと小さく笑うだけでそれ以上は何も言わなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

【完結】ただの狼です?神の使いです??

野々宮なつの
BL
気が付いたら高い山の上にいた白狼のディン。気ままに狼暮らしを満喫かと思いきや、どうやら白い生き物は神の使いらしい? 司祭×白狼(人間の姿になります) 神の使いなんて壮大な話と思いきや、好きな人を救いに来ただけのお話です。 全15話+おまけ+番外編 !地震と津波表現がさらっとですがあります。ご注意ください! 番外編更新中です。土日に更新します。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...