闘乱世界ユルヴィクス -最弱と最強神のまったり世直し旅!?-

mao

文字の大きさ
上 下
93 / 172
第八章:神さまの伴侶

ライバル出現の嫌な予感

しおりを挟む
 どうやらオレは、穴から引っ張り上げられてから丸一日近く眠っていたらしい。包帯を替えながらリスティが色々なことを教えてくれた。

 マリーに話を聞いたフィリアが会議室に飛び込んで、それからは大騒ぎだったそうだ。帝国兵に捕まったんじゃないかとか森で迷ったんじゃないかとか。結局ヴァージャが見つけて、引き上げてくれたらしいけど。


「ヴァージャ様がリーヴェ様を抱えて戻ってきた時、とても恐ろしい顔をしていらしたんですのよ。手当てをしてからもほとんどお眠りにもならず、ずっとお傍に付きっきりでしたわ。……随分と、大切にされてますのね」


 なんて言われた時は、何をどう答えればいいのかまったくわからなかった。


 それから二日。頭を打ったってことで無理矢理に寝台に押し込められてたけど、さすがにもう何ともない。ただでさえ人の手が足りないだろう状況で、これ以上ダラダラするのは気が引ける。

 厨房に顔を出すと、朝も早い時間だってのに賑わっていた。マリーにエルに、フィリアの姿も見える。いち早くオレの姿に気付いたマリーは、パッと明かりでもついたように笑って駆け寄ってきた。


「リーヴェ、おはよう! もう大丈夫なの!? ごめんね、あんなとこに穴があったなんて知らなくて……」
「いいんだって、この通りピンピンしてるからさ。それにマリーのせいじゃないだろ、気にしなくていいんだよ」
「穴は僕が塞いでおきました、今度から水を汲みに行く時は僕と一緒に行きましょう。何かトラブルに見舞われても僕が何とかしますから」


 傍まで駆け寄ってきたマリーは、オレの怪我の具合を確認してから花がしおれるみたいにしょんぼりとしてしまった。彼女とは少し話をした限りだけど、快活な女性だと思ってる。そんな彼女がしゅんとしてるところはあまり見たくない。

 そこへ、野菜をじゅうじゅうと炒めながらエルがにこやかにそんな言葉を投げてくる。可愛い顔して言うことは男前なんだ、こいつはもう少し大きくなったら女の子たちにキャーキャー言われるクチだな、天才ゲニーだし。


「エフォールってすごいんだね、何でもできちゃうんだもん。気配りまで完璧って、さすが天才って感じ」
「そうそう、ほんとすごいやつなんだよ。だからエルと知り合った時は意地でもクランに引き入れようとフィリアが目の色変えて……」


 なあ、と同意を求めてフィリアに声をかけようとしたところで――言葉が喉の奥に引っ込んでいった。どうしたことか、ウチで一番元気でやかましいあのフィリアお嬢様が椅子に座ったまましょんぼりしている。オレたちの話だって聞こえているのかどうか、視線を下げて黙り込んでいた。

 すると、マリーがコソッと小さく耳打ちしてくる。


「フィリアちゃんって、大人しい感じの子?」
「まさか、困るくらい元気でおませでヤンチャなお嬢様だよ」
「そう……やっぱりね。昨日から、なんだか元気がないのよ。リーヴェのこと心配してるのかな、って思ったんだけど……」


 オレの顔を見ても騒ぎもしないってことは、元気がない理由は別にあるんだろう。なんだろうな、腹が痛いとかホームシックとか……どれも違いそうだなぁ。


「――みなさん、隊長が今朝お戻りになりました。新しく増えた方々を交えて話がしたいとのことですので、会議室まで……」


 そこへ、リスティがやってきた。今日も穏やかににっこりと微笑んで、鈴を転がすような声でそう告げた。マリーもエルも彼女に向き直って返事を返したけど、オレは見逃さない。リスティの声を聞くなり、フィリアの小さい肩がピクリと動いた。……フィリアとリスティ、オレが寝てる間に何かあったんだろうか。

 思案することほんの数拍。まな板の上にはちょうどいい具合に野菜が置いてある、口実にはちょうどいい。


「ごめんリスティ、仕込みだけ先にやっておきたいからオレは少し遅れていくよ」
「まあ、仕込みなんて後でもいいんですのよ?」
「腹が減ってはなんとやらってよく言うだろ、すぐ行くからさ」


 後で、とは言うけど、それだけ朝飯が遅くなるんだぞ。オレたちみたいに戦えない者にとってはこういう支援が一番の仕事なんだ、しっかりやっておきたい。

 リスティは少しの間黙ってはいたものの、やがて「わかりました」と微笑んでぺこりと一礼。それからエルやマリーを伴って厨房を出て行った。会議室にはヴァージャもいるだろうし、エルもいれば大事な話を聞き逃したりはしないだろ。隊長がどんな人か気にはなるけど、今一番気がかりなのは――

 改めてフィリアを見遣ると、彼女はまだ俯いていた。ふわふわのスカートをぎゅ、と小さい手で握り締める様子は、何かを我慢しているように見えて痛々しい。刺激してしまわないようにそっと近付いて、真正面に屈んでみた。


「どうした、フィリア。リスティと何かあったのか?」
「……ううぅ……っ、リーヴェさあぁん……!」


 そう声をかけると、フィリアは驚いたように目を丸くさせた後――何を思ったのか、その可愛らしい顔をぐしゃりと歪めて、大きな目から涙を溢れさせた。そうしてそのまま飛びついてくる。……こりゃ重症だ。


 * * *


 フィリアを抱っこして外に出ると、少ししてから落ち着いたようだった。泣き腫らして真っ赤になった目元が痛ましい。オレがちょっと休んでる間に何があったのか、程なくして語り始めた話は――とてもじゃないけど無視できるようなものじゃなかった。ざわりと胸がざわついて、嫌なことを思い出す。


「……リスティが、ヴァージャのことを狙ってる?」
「はい、リーヴェさんはお休み中だったので知らないと思いますけど……ヴァージャさんにべったりなんですよ。抱き着いたりおっぱい押しつけたり、夜だってずっと一緒にいようとして……」


 子供になんて光景見せてんだ、教育に悪すぎる。……じゃなくて、そうじゃなくて。……リスティが、ヴァージャのことを? もしかして、あの「随分と大切にされてますのね」って牽制か何かだった……?

 いや、ヴァージャに限ってそんなこと――とは思うけど、そう思ってたティラだって結局はマックに取られたわけで。それを思い出すと、猛烈な嘔気に襲われた。結局また同じことを繰り返すんだろうか。


「リーヴェ」


 そこへ、今一番聞きたくない声が背中に届いた。振り返ってみるとアジトの出入口付近にヴァージャがいたものの、その隣に見えた思いがけない姿を視界に捉えればモヤモヤした気分も綺麗に吹き飛んでいく。


「隊長が戻ってきたのだが、お前の……知り合いか?」
「おお、やはりリーヴェか! 名を聞いてもしやと思ったが、本当にお前だったとは! 久しぶりだなぁ!」


 ヴァージャの隣にいたのは、厳つい顔を笑みに破顔させた中年のオッサン――スターブルかその近郊にいるはずの、あのウラノスのリーダーを務めるサンセール団長だった。そういや、結局ヴァージャとは面識がなかったっけ。

 隊長が戻ってきたって言われてこの人が出てくるってことは……えっ、この組織の隊長って、まさかサンセール団長?
 久しぶりに見るその顔に、肩に入っていた力が自然と抜けていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

【完結】ただの狼です?神の使いです??

野々宮なつの
BL
気が付いたら高い山の上にいた白狼のディン。気ままに狼暮らしを満喫かと思いきや、どうやら白い生き物は神の使いらしい? 司祭×白狼(人間の姿になります) 神の使いなんて壮大な話と思いきや、好きな人を救いに来ただけのお話です。 全15話+おまけ+番外編 !地震と津波表現がさらっとですがあります。ご注意ください! 番外編更新中です。土日に更新します。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

処理中です...