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第五章:胡散くさい男

誘拐犯たちの目的は

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 幸いにも寝てる間に誘拐犯の襲撃を受けるなんてこともなく、昨夜は腹も満たせてぐっすりと眠ることができた。例の誘拐犯たちがそう簡単に引っかかってくれるかどうかは微妙なところだけど、取り敢えず張ってみないことにはな。

 時間にして朝の十時少し前。
 連中を警戒させないためにフィリアと二人で村の中を歩きながら、協力を申し出てくれた村長さんにもっと詳しい事情を聞くことにした。


「変な道具?」
「はい、そうなのです。誘拐犯たちは見たこともないおかしな道具を使っていました、恐らくあれは人が持つ才能を見分けるものなのだと思います。それを使って無能かどうかを見極めているようでした」


 人の才能を見分ける、かぁ……ってことは、そうまでして無能を選んで連れて行かなきゃならない理由があるわけだ。何も考えずに手当たり次第に誘拐してるって線は消えたな。一部の凡人と無能だけを選んで連れていく、か……なんだろ、人体実験とか? うわ、ありそうで嫌だなぁ。凡人と無能をどうにかして使えるようにできないか研究してる連中とかいそうじゃん。


「そんな道具があるんですか……なんだか、ただの賊って感じじゃなさそうですね……」
「そうだな、金とかそういうのが目当ての連中が使うようなブツじゃなさそうだ」


 もしかしたら、この村の人たちは思っていた以上にヤバい事件に巻き込まれてるのかもしれない。……さらわれた人たち、無事だといいんだけど。せめて連れて行かれた場所さえわかればこっちから仕掛けることもできるのに、こうやって待ってるしかできないってのも歯痒いもんだ。本当に待ってるだけでやってくるんだろうか。自分で囮になるって言ったものの、ちょっと心配になってきたな。


 村長と話しながら村の出入り口付近に差しかかった時、不意にフィリアがぴたりと足を止めた。その矢先、出入口近くの茂みの中から黒い外套に身を包む集団が勢いよく飛び出してきた。フードを深くかぶり頭から足元までを覆っているせいで顔さえ見えやしない。けど、息の合った行動で瞬く間にこちらを包囲するところを見ると、なかなかに手慣れた連中のようだった。


「どいつだ? ガキか?」
「違う、その後ろの男だ。……こいつはスゲェぜ、今まで集めてきた連中とはワケが違う、メーターが振り切れちまいそうだ」
「そりゃあいい! こいつを使えば、俺たちの能力も爆発的に強化されるだろうぜ!」


 連中のその言葉に、思わず全身が強張るのを感じた。それはフィリアも同じだったようで、潜めた声量でぽつりと呟く。


「リ、リーヴェさん……この人たち、グレイスのこと知ってる……!?」
「あんまり考えたくないけど、そうみたいだな……」


 嘘だろ、どこから情報が漏れた?
 まさかティラ……いや、確かにティラやマックたちには見られちまったけど、あれが無能と呼ばれてる連中が持ってる力だとは思わなかったはず……多分。それに、仮にティラやマックが何らかの行動をしたとしても、いくら何でも動きが早すぎる。これは別と考えるべきだ。

 わけがわからずにあたふたする村長さんを背中に隠して、連中を視線のみで見遣る。すっかり包囲されちまってる、村長さんだけを無事に逃がすのは難しそうだ。それなら近くにいてもらった方がいい。

 リーダーらしき男の一人が「捕まえろ!」と声を上げると、周囲に展開していた黒い連中がほぼ一斉に飛びかかってきた。
 けど、それも一瞬のこと。次の瞬間には、リーダーの男を含めて全員が地面に叩きつけられたかのようにうつ伏せに倒れ込んだ。……こんな術知らないし、これも神さまの力ってやつか、ほんとあいつとんでもないな。いや、エルも色々な術を使うみたいだし、もしかしたらあいつの仕業かもしれない。


「ぐわぁッ!? な、なんだ、何が……!?」
「く、くそっ! か、身体が……」


 どうやら、地面に貼り付けられたみたいに起き上がることさえできないようだった。ちら、と後方を振り返ってみると、近くにあった家屋の陰からヴァージャとエル、それにリュゼが出てくる。リュゼは額に手を翳して「おー」と感心したような声を洩らしていた。……なんか胡散くさいんだよなぁ、あいつ。

 地面に叩きつけられた時にリーダーの男の手から落ちた道具を拾い上げると、それは計測器のようだった。これが村長さんがさっき言ってた変な道具だな、これで無能かどうかを見極めて……いや、グレイスの力の量を調べてんのか。


「リーヴェ、フィリア。無事か?」
「ああ、見ての通りだよ。……それより」
「聞こえていた。想像以上に厄介な騒動のようだな」
「こ、この人たち、素直に案内してくれるでしょうか……」


 一応誘拐の実行犯らしき連中は捕まえたけど、確かにフィリアの言うようにこいつらが素直に案内してくれるとは……思えないんだよなぁ。
 すると、ヴァージャは地面に這いつくばる連中を一箇所にまとめてしまうと、全員を透明な球体の容器らしきものに閉じ込めてしまった。それを建物の中から見ていただろう村人たちが、次々にわあわあと歓声を上げながら外に出てくる。


「村の者たちに危害を加えられても困る、私たちが戻るまでの間、ここで大人しくしていてもらおう」
「で、でも、どうやってこの人たちのアジトを探すんですか?」
「簡単だ、この者たちの軌跡を辿ればわかる」


 ……それが簡単なのはあんたくらいのものだよ。どうやるんだ、そんなの。

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