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第四章:呪われた天才少年

エフォール・セーリオ

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 ボルデの街はそれほど大きい街じゃない、オレが住んでたスターブルの街よりもふた回りほどは小さな街だ。そんな街で人一人を見失うこともなく、オレたちはフォルと呼ばれた少年を追いかけていった。

 やがて行き着いた先は、街はずれにある小さな池の傍だった。散歩道になっているのか、道はそれなりに整えられていて、休憩用の木のベンチまである何とも和やかな雰囲気の漂う一角だった。池の向こう側には林もあり、昼時にはこの辺りで弁当を広げるのも悪くなさそうだな、なんて思うような。

 天才ゲニーの少年は、そのいくつかある木のベンチに腰掛けて俯いていた。孤児院の子供たちもヤンチャ坊主が多かったからこういう役回りは結構あったけど、今回は状況が状況だからなぁ……相手は見知らぬ少年だし、クランの問題だし。


「……取り敢えず追いかけてはきたけど、どうするんだ?」
「クランに入りませんか? ってストレートに聞いてみましょう!」
「待て待て待て、相手の事情を知る前にそれはがっつきすぎだろ――って、おい、ヴァージャ!」


 一定の距離を保ったまま、傍らのフィリアに意見を求めてみたものの、どうにも賛同しかねる。天才のわりにみっともない戦い方ってのが気になった。その現場を目の当たりにしてないから、今のオレに言えることは何もないけど。なんて思ってると、ヴァージャが何の警戒もなしに少年の元に歩いていくものだから、フィリアと共に慌ててその後を追った。

 気のせいかな、なんかヴァージャにしては少し余裕がなさそうな……いつも悠々と構えてるのに、あの坊やのことはヤケに気にかけてないか?


「……!? な、なんですか……!?」


 すると、すぐ傍まで歩み寄ったヴァージャに気付いた少年がびくりと肩を跳ねさせて顔を上げた。その表情はなんとなく引き攣っていて、やや痛々しい。あんたはイケメンだけど、初対面の子供にしてみれば背丈もあるし威圧感があって怖いんだよ、少し下がれ。


「……やはり、間違いないな」
「何が?」
「先ほど、外で言っていただろう。はいるのか、と」


 弁当食ってた時の話か、与える者グレイスの逆っているの? っていう……えっ、じゃあこの天才坊やがそうなの?
 フィリアと一緒にヴァージャと少年とを何度か交互に見遣ると、その頭は静かに横に振られた。


「いや……この少年は、そのの影響を受けている被害者だ。何者かの恨みや憤りを受けているのだろう」


 逆の影響を受けているってことは……誰かの想いの力で弱体化させられてるってこと、か……?
 あ、天才のくせにみっともない戦い方云々っていうのは、もしかしてその逆の影響で……なるほど、そういうことか。

 納得するオレたちの様子についていけるはずもなく、少年は不思議そうに目を瞬かせていた。


 * * *


 エセ天才と罵られたこの金髪の少年の名は、エフォール。エフォール・セーリオと言うらしい。“フォル”ってのは愛称だな。元々は北の都に住んでいたそうだけど、肺に持病を持つ姉のために、空気の綺麗なこのボルデの街に一家で引っ越してきたとのこと。

 エフォールが天才であることを知ったネロは、何度も彼をクランにスカウトしてきて、十回目ほどでその熱意に負けてクラン入りを決めたんだとか。ちなみに、さっきエフォールがクビになったばかりのネロのクランは『アンサンブル』というらしい。

 アンサンブルはそのほとんどが子供だけど、秀才グロスが多く、今のままいけば確実に将来大きなクランになると大人たちに期待されているとかなんとか。確かに、先が楽しみなクランだな。


「……けど、以前から僕はなんだか……天才にしては、それほど強くないって自分で思ってたんです。それどころか、ここ最近は力が落ちていく一方というか、自分の力を存分に表に出せないような、そんな感じになってきて……」
「……ヴァージャ、それもその……ソレの影響なのか?」
「そうだな、本来の力を抑制されているのだろう。だが……人に恨みを買うようなタイプには見えないが」
「そうですね、とてもお優しそうに見えますけど……エフォールさん、何か恨まれるようなことをした覚えってありますか?」


 そうだなぁ、どちらかと言えばエフォールは少し気弱そうなタイプに見える。積極的に悪さをするようなやつじゃないだろう。けど、人間ってのは何が引き金になって人様を恨んだりするかわからない怖さがあるからな。

 フィリアの、そのあまりにもド直球な問いかけに対し、エフォールは気を悪くするでもなく思案げに片手を口元に添えて、視線を宙に投げた。


「……僕がアンサンブルに入る前、ネロには親友がいたんです。でも、僕が加入してからネロは僕にばかりかまけていて、親友のことを疎かにしてしまって。一度、その親友に出て行けと言われたことがあります。思い当たるのはそれくらいですが、それが何か……?」


 ああ、人間関係でわりとよくあるやつだ。オレは今までちゃんとした友達がいたことないからよくわからないけど、奇数で集まると誰かがのけ者になったり、のけ者にされてるような感覚を受ける……っていうのはよく聞くなぁ。本人たちにその気はなくとも、受け取る側の解釈次第な部分もあるし。

 要は、そのネロの親友がエフォールのことを恨んでいて、それが原因になって弱体化させられちまったってこと……か?


「……気になることはあるが、取り敢えずはそうだろう。彼は確かに天才だが、周りの影響でその才能を発揮することができずにいるのだ」
「じゃ、じゃあ、その原因を解決すれば、エフォールさんは天才として存分に……!」


 解決って言っても、子供たちの対人関係の問題だろ? 完全に部外者のオレたちが首を突っ込んでいいものかどうか……。

 って言いたかったけど、ヴァージャが何となく真剣な顔をしてたからやめた。なんだろう、単純な対人関係の問題じゃないのかな。オレが駄々こねたら動いてくれるけど、それ以外では基本的に傍観を決め込んでるこいつが今回は積極的に動くっていうのがどうにも気になった。

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