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第三章:復讐に燃える少女

フィリアのこれから

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 結局、ヴァージャが追い付いてくる前に、フィリア一人でブルオーガを倒してしまった。オーガが動かなくなって少ししてから追いついてきたヴァージャも、さすがにその光景に少しばかり驚いているようだった。そりゃそうだ。

 魔物は命を落とす時、肉体が消滅してひとつの結晶になる。それは魔物の核――と呼ばれているもので、所謂“心臓”だ。討伐依頼は、この結晶を持ち帰って報告することでクリアになる。核を持っているということは、その魔物を倒した証拠に他ならないからだ。

 フィリアの手には、ブルオーガの核がしっかりと握られている。大変な目には遭ったけど、あれを持って帰れば今回の依頼は無事にクリアになるだろう。これで彼女がずっと望んでいたクラン設立が叶うわけだ。その先のことを思えば手放しで喜んでやれないけど、……フィリアにとっては一歩前進なのかな。


「そう深く思い悩むな、今は彼女の頑張りを素直に祝ってやれ」
「まあ……そう、だな。それにしても性格まで変わるとか聞いてないんだけど」
「そのようなオプションはないはずだが……」


 なんてコソコソ話していると、そこへフィリアが満面の笑みを浮かべながら駆け寄ってきた。メチャクチャ可愛らしい笑顔なんだけど、固まった血がべっとりとついた衣服とその笑顔があまりにもアンバランスで妙に恐ろしい。


「あの、ありがとうございました! お陰で無事にクリアできそうです!」
「そ、そう……」
「リーヴェさんってすごく不思議な力をお持ちなんですね! これは法術なのかしら、すごいわ。まだずっとずっと身体が軽いままなの、今ならどんな敵が来ても勝てちゃいそう!」


 喜んでもらえるのはよかったけど、これはちょっと嫌な予感がするな。法術にも能力を上昇させるものは色々とあるけど、普通は時間の経過と共に効果が切れて高まった能力も元に戻る。でも、さっきヴァージャが言ってたよな、“相手を成長させる”って……それってつまり、もしかして……一度成長したら戻らない……?

 ちらと傍らに立つヴァージャを見てみると、フィリアの前だからか言葉もなく静かに目を伏せた。――否定しないってことはそうじゃん、絶対そうじゃん。本格的にヤバい力だ、これ。


 * * *


 その後、無事にディパートの街まで帰り着いたオレたちは、ギルドに報告を済ませて受付嬢と責任者に何度も何度も頭を下げられた。まあ、オーガの討伐って聞いて行ったのに結局はそれ以上に危険な魔物だったわけだからな。受けるやつ次第じゃ、無事に帰ってこれなかったかもしれない。

 本来の三倍ほどの報酬の他、クラン認定証と真新しいバッジ、それにちょっとした感謝状をもらってフィリアは顔を真っ赤にしていた。クランを設立できただけでも嬉しいだろうに、危険な魔物を討伐してくれた礼と称賛を一気に受けて恥ずかしいんだろうなぁ。


「よかったな、認定証もらえて」
「はい! リーヴェさんとヴァージャさんのお陰です、宿に着いたら報酬をお渡ししますね!」


 ギルドを後にして宿までの道を歩きながらフィリアの背中に声をかけると、彼女は喜びを隠すこともしないままこちらを振り返った。辺りを照らす夕陽のせいか、それとも興奮のせいか――子供らしい丸みを帯びた頬がほんのりと赤く染まっていて、なんとも微笑ましい。弾むように歩く彼女の姿をヴァージャも幾分か表情を和らげて見つめていた。


「フィリア、お前はこの街を拠点に活動していくのか」
「え? ……いいえ、私はこの街にはあまりいい思い出がないので、しばらくは拠点を持たずに活動していこうと思っています」
「そうなのか? けど、孤児院の人たち心配するんじゃ……」


 すると、当のヴァージャが突然そんなことを問いかけた。フィリアはまだ子供なんだから当然そうするだろうと思ってたんだけど、その返答を聞く限り――また余計な心配が増えそうだった。


「……この街の孤児院は、とても寂しい場所なんです。クランを作れる日が来たら、絶対に出て行こうってずっと決めてました。だから拠点を作るにしても、ここじゃないどこか別のところにします」


 孤児院が寂しい場所……どんなところなんだろうな。いや、普通はそうなのかもしれない。スターブルの街の孤児院は小さいし、ミトラがいてくれたからオレも子供たちも寂しい想いとはほぼ無縁だったけど、本来はそういうものなのかもしれないなぁ。夕暮れ時の時間帯も手伝って、こっちまで少し寂しい気分になってきた。


「それなら、しばらく私たちと共に行くのはどうだ?」
「「え?」」


 不意にヴァージャが向けた提案に、思わずオレとフィリアの声が重なった。だって、だって、なあ。何の相談もなしにいきなりそんなこと言い出すとは思わないじゃん。歩いていた足を止めて、ほぼ同時にヴァージャの方へと向き直った。


「で、でも、お二人も旅の途中なんじゃ……?」
「確かにそうだが、別に急ぎの旅というわけでもない。どうやら私の相棒はお前の今後のことが心配で仕方ないらしい」


 ……そりゃそうだけどさ、ちょっとくらい事前に言っておけってんだ。
 今日クランを作ったばっかりなんだ、設立したてのクランからいきなりメンバーが二人も抜けたなんてことになったら、心証もよくないと思うんだよなぁ。

 なんて、そういう理屈をあーだこーだ捏ねるよりは、ヴァージャが言ってるみたいに純粋に心配してるってことを直球でぶつける方がいいか。本当のことだし。
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