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第一章:最弱と最強

伴侶ってなんですか

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 コイツが神さまっていうのは本当なんだろうなって、しみじみとそう思う。

 だって、ヘクセとロンプの襲撃でぶっ壊れた壁も天井も、まるで時間を巻き戻したみたいに目の前で綺麗に修復しちまったんだ。こんな力は聞いたことないし、魔術にも法術にもない。今日は信じられないことばっかり起きて、もう何が何だか。

 改めて飲み物を淹れ直して、ソファに腰掛ける神さまの目の前にカップを置いた。


「お前はいつも先ほどのような危険な日々を送ってきたのか」
「別にそういうわけじゃないさ、無能ってバカにはされてきたけど命を狙われるようなことはなかったよ。今回のは……うーん」


 どう説明したもんかな。話せば長くなりそうだし。
 今回のことは、ティラがオレとの婚約を破談にするために仕組んだことなんだろう。事故に見せかけて殺すっていう案がティラのものかマックのものかはわからないけど。

 今日あったことを思い出していると、また人の心の中を勝手に読んでるらしい神さまが段々と不愉快そうな表情を浮かべ始めたから、そこで思考を切り替えた。そりゃあね、そうなるよな。聞いて――というか、見て気持ちのいい話じゃないし、オレだって思い返したら悲しいし腹も立つよ。


「……その、なんだ。ありがとな、助かったよ」


 とにもかくにも、胡散くさいとか色々失礼なことばっか思ってきたけど、昨日も今日もこの神さまがいなかったら多分オレは死んでただろう。未だに半信半疑な部分もないとは言えないけど、これまで見た力を思えば信じないわけにもいかない。

 素直に礼を告げると、神さまはふと薄く笑って「いや」と小さく頭を横に振った。そんな様も異様に似合うんだから、本当にイケメンってやつは得だよな。


「……それで、あのさ。伴侶ってことは、その…………そういうことも、しなきゃなんないの?」


 気を取り直して本題に入ることにした。
 さっき聞いた話を纏めると、この神さまは弱体化してて、その力の回復にオレの……グレイスとかいう力が必要で。それでなんでいきなり「伴侶」なんて言葉が出てくるのかは理解に苦しむけど、とにかく近くにいなきゃいけないわけだ。だってそうしないと神さまがこの世界を維持できなくなって崩壊しちまう。

 だから、神さまの提案を半分くらい受け入れてみようかなと思ったんだけど、オレにそっちの趣味はない。ほんの少し前は可愛い彼女がいたんだぞ、いくらとびきりのイケメンだって無理だ。


「そういうこと?」
「だ、だから、それっぽい……て、手繋いだり、一緒に風呂入ったり、キ、キス、だとか……それ以上の、こと、とか……」


 普通の伴侶がするだろうことを指折り数えていくと、段々恥ずかしくなってきた。確認なんかしなくても、顔面に熱が募っていくのがよくわかる。なんでオレがこんな恥ずかしい想いをしなきゃならないんだ。

 そんなことを思いながら神さまに視線と意識を戻してみると、当の本人はドン引きしたような非常に据わった目でじっとりとこちらを睨んでくる始末。なんだよその顔と目は。


「すけべめ……」
「あんたが伴侶なんて言うからだろ!!」


 なにこれオレが悪いの?
 いやいやいや、当然の疑問をぶつけてなんでこんな非難轟々の視線を向けられるんだよ。だってそういう大事なことはちゃんと確認しとかなきゃだろ。本当にしなきゃいけないならどうやってこいつから自分の身を守るかも考える必要があるわけだし。


「生き物が交尾をする目的は自分の遺伝子を種として後の世に繋げるためだ、私にはその必要はないしそういった欲求も持ち合わせていない」
「えっ……じゃ、じゃあ、伴侶って具体的に何するんだ? いや、そればっかりがお役目だとは思ってないけど……」
「ふむ、お前は伴侶という言葉を少しばかり誤解しているようだな」


 誤解? 誤解するくらいそんな複数の意味ってあったっけ?
 伴侶ってのはつまり、配偶者だとか恋人だとかそういう……やつだろ。


「伴侶という言葉には夫婦、配偶者などの意味の他に、仲間、連れなどの意味もある。同じ道を歩む者もまた伴侶と言えるのだ」


 ……ってことは、別に神さまはそういった意味合いで「伴侶になれ」って言ったわけじゃないと。


「今言ったように、普通の生き物がするような行為には意味も興味もない。人間たちの言葉で言うのなら……仲間、相棒という辺りが相応しいのだろう」
「それなら紛らわしい言い方しないで最初からそう言えってんだ!!」
「何を怒る」
「やかましい!!」


 わけがわからないとばかりに真顔で首を捻るのがまた憎たらしい。いや、だってそれなら伴侶じゃなくて「相棒になれ」とか最初から言っておけばよくない? どんだけ言葉選びが下手なんだよ。

 まぁ……相棒、相棒か。それなら変に身構えることなくやっていけるだろ、多分。


「……まだ力のこととかよくわかんないけど、取り敢えずよろしくな、神さま」
「……」
「おい、なんでそこでそっぽ向くんだよ」


 おかしなやつだけど悪いやつではなさそうだし、挨拶に握手しようと手を差し出したわけだが、あろうことかぷい、と明後日の方を向きやがった。
 人間の挨拶なんて神さまには通じないとか、そういうやつ?


「お前は伴侶を肩書で呼ぶのか」
「何を変なとこで拗ねてんだ! っていうか神さまって肩書なの!?」


 神さまっていうのはもっとこう、威厳やら何やらがあるものだと思うんだが、今目の前にいるこいつはまるで小難しい性格の子供みたいだ。変なところで拗ねたり、ツッコミどころが色々とあったり……。

 とにかく、これじゃ一向に話が纏まらない。
 ひとつため息を吐いて、明後日の方を向く神さまを――ヴァージャを改めて見遣る。


「……わかったよ。改めてよろしくな、ヴァージャ」
「うむ」


 ちゃんと名前を呼ぶと、即座にこちらに向き直ってそっと握手を返してくる。子供かよってツッコミたかったけど、また面倒なことになりそうだからやめた。
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