上 下
215 / 230
第十章・蒼竜ヴァリトラ

神さまはどこに

しおりを挟む
 エクレールをテルメースに会わせることはできたものの、やはりテルメースがそのまますぐに目を覚ますことはなかった。

 ヴィーゼの話では命に別状はないとのこと、恐らく彼女の身に疲労が蓄積しすぎているのだろう。ヴェリア大陸がどのような状態なのか、これまでどういう生活を強いられてきたのか想像するしかできないため確かなことは言えないが、疲れていないはずがない。

 もう夜も遅く、今からでは宿の部屋も空いているかわからないということで、ジュードたちもそのまま城に泊めてもらうこととなった。水の国から同行を申し出てくれた騎士たちもいるため、非常に有難いことだ。

 水の国でそれなりに休めはしても、ここまでの旅路でクタクタだ。ジュードはその日、随分と久方振りにぐっすりと眠ることができた。

 ――とは言え、いつものように夢の中で手合わせはするのだが。


『はあああぁッ!』


 上体を低くして身体全体を使うように剣を振るうと、その切っ先が微かにジェントの片足を掠める。直撃こそ難しいものの、卓越しすぎたその動きにようやく目だけでなく身体も慣れてきたようだ。もちろん、それだけで勝てる相手ではないのだが。

 どこからどう攻めても捉えることが難しい相手。力の差はまだまだ大きい。
 それでも、ジュードはこの時間が好きだった。

 素早く体勢を立て直すなり、即座に飛び出して離れた距離を一気に詰める。思いきり振るった刃は――今度は回避ではなく、真正面から同じく剣によって受け止められた。鍔迫り合いの形になり、間に互いの得物を挟んで武器越しに睨み合う。


『ジェントさん、この前のあの技、あれでいいんですか?』
『ああ、あれでいいんだよ。あれが……閃光の衝撃フラッシュインパクト、本当なら手本でも見せれれば一番よかったんだが……あれは気功を操る技でな、生身の肉体がないこの状態では難しい』
閃光の衝撃フラッシュインパクト……』


 ネレイナに向けて叩き込んだあの一撃は、ジュード自身が無我夢中でほとんど覚えていない。ぶっつけ本番になってしまったものの、どうやら問題なかったようだ。竜化したネレイナを一撃で元に戻すほどの威力があった、あれを自由自在に出せるようになればジュードにとって大きな力になってくれるだろう。


『うわッ!?』
『言っておくが、大技ひとつあれば楽になるとは思わないことだ』


 ほんの一瞬の隙をついて、ジェントが鍔迫り合いになっていた刃を寝かせて身を退いた。それと同時に身を落とし、バランスを崩しかけたジュードの足を問答無用に蹴り払うものだから、満足に受け身も取れないままその場に転ぶしかなかった。まったく油断ならない、少しでも気を抜くとまるで風のようにすり抜けておちょくるように仕掛けてくる。

 いつかこの人を越えたいとは思うが、果たして本当にそんな日は来るのか否か。


 * * *


『書状も残すところあと一枚か、滞りなく進むといいんだが』
『ああ、この国の王さまなら大丈夫ですよ。オレもそうだけど、ウィルとマナも顔見知りだし……こう、親戚のおじさんみたいな』
『……王族、なんだよな?』
『はい、風の国の王族は王さまも王妃さまも、さっき会ったヴィーゼ王子もみんな庶民派なんです。民と距離が近いっていうか、堅苦しいのを嫌う人たちで。前線基地にも積極的に支援を行ってきたんですよ』


 手合わせが終わっても、まだ現実世界のジュードの身体は目覚めそうにない。そのため、今日もこうして雑談に花を咲かせることになった。

 この白の宮殿は、いつも変わらない。今日も変わらず四季の花々が綺麗に咲き誇り、高い天井から射し込む光に照らされている。


 ジュードは、この風の国ミストラルでウィルやマナと共にグラムに育てられた。
 養父であるグラムが顔の広い男であることも手伝い、風の国全土に色々な知り合いがいると言っても過言ではない。この国の王族もそうだ。剣の名匠と謳われるグラムは騎士団が使う武具も手掛けているため、まるで親戚か何かのような付き合いだった。非常に目をかけてくれている。

 だからこそ、風の国の王族がどのような性格なのか当然知っているのだ。そして、彼らが同盟の話を断るはずがないということも。


『まあ……それなら大丈夫そうか。地の国が色々と大変だったからな』
『そうですね、でもこれでやっと役目を果たして終われるんだと思うとちょっと安心します』


 最初に使者を頼まれた時はどうなることかと思ったが、ようやく終わりが見えてきたのだと思うと肩に入っていた力が自然と抜けていくようだった。いくら考えることが苦手とは言え、使者として各国を巡るということがどれほど重要な役割かはさすがにジュードにだってよくわかる。その道中で本当に色々なことがあったものの、今はとにかく少しでも早く火の国に戻ってアメリアに報告したい。自分の出生のことを考えるのは、それからでも充分だ。

 そこまで考えて、次にジュードが気になったのは神の行方についてだった。


『ジェントさん、神さまが生きてるならどうして姿を見せてくれないんでしょう?』
『俺もそれが気になってる、蒼竜ヴァリトラは自ら渦中に飛び込んでいくような勇ましい神だ。あの性格を考えると、今の状況を見て悠々と見物なんて決め込めるとは思えないんだが……』


 この世界の創造主たる蒼竜ヴァリトラ――つまり神は、どうして人間たちの前に姿を現さないのか。なぜ手を差し伸べてくれないのか、かつての魔大戦の時のように。ライオットたち精霊が変わらず存在しているということは、彼らを創造した神もどこかで無事でいるはずなのだ。

 神が降臨してくれれば、多くの人間たちにとって希望となるだろう。神、聖剣、神器。それらが揃えば魔族との戦いに光明を見出す者はもっと増えてくれるはず。地の国の者たちの考えだって、もしかしたら変わることもあるかもしれない。

 神は何を思うのか、どこにいるのか。
 考えても答えなど出るはずもないのだが、考えずにはいられなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

婚約者の様子が(かなり)おかしい。

西藤島 みや
ファンタジー
私はマルセル家の嫡男、クローディアス。父は今の女王マリアテレサの義兄であり侯爵だ。 それはまあいいんだけれど、最近できたばかりの婚約者が、どうにも扱いづらい女性…何をいったい私にさせたいのかよくわからないが、とりあえず言っておこう。 「私に男色の趣味は、ない」 よくあるお話です。転生悪役令嬢に、散々巻き込まれてしまう幼な馴染みの婚約者主人公と、ご友人数名によるちょっとカオスな青春活劇。 (転生令嬢曰くの)お定まりのハッピーエンドまで、駆け抜けられるでしょうか? 少々暴力表現、BLエンドではありませんが、腐女子令嬢によるBL的な妄想発言などが登場しますので苦手なかたはご注意下さい。

スウィートカース(Ⅳ):戦地直送・黒野美湖の異界斬断

湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)
ファンタジー
変身願望をもつ若者たちを入口にして、現実世界は邪悪な異世界に侵食されつつあった。 闇の政府組織「ファイア」の特殊能力者であるヒデトとその相棒、刀で戦う女子高生型アンドロイドのミコは、異世界のテロリスト「召喚士」を追うさなか、多くの超常的な事件に遭遇する。 たびかさなる異世界との接触により、機械にしかすぎないミコが「人間の感情」に汚染され始めていることを、ヒデトはまだ知らなかった。 異世界の魔法VS刀剣と銃弾の絶対防衛線! 人間と人形の、はかない想いが寄せては返すアクセラレーション・サスペンス。 「わんわん泣こうかどうか迷ってます。私には涙腺も内蔵されてますから」

転生して異世界の第7王子に生まれ変わったが、魔力が0で無能者と言われ、僻地に追放されたので自由に生きる。

黒ハット
ファンタジー
ヤクザだった大宅宗一35歳は死んで記憶を持ったまま異世界の第7王子に転生する。魔力が0で魔法を使えないので、無能者と言われて王族の籍を抜かれ僻地の領主に追放される。魔法を使える事が分かって2回目の人生は前世の知識と魔法を使って領地を発展させながら自由に生きるつもりだったが、波乱万丈の人生を送る事になる

だって私は、真の悪役なのだから。

wawa
ファンタジー
目が覚めると赤ん坊。 転生先は何処か不明な乙女ゲームの世界。 でもはっきりわかっていることは、自分は間違いなく悪役だってことだけ。 金と権力にものを言わせ、思いのままに生きてみようを突き進む主人公は悪役令嬢リリー。 ※1 世界観は乙女ゲーム、ジャンルは恋愛ですが、そこに至るまでの道のりは長く遠く、主人公は恋愛脳ではありません。 ※2 主人公目線と第三者目線が発生します。 『小説家になろう』でも掲載しています。

3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜

I.G
ファンタジー
神様と名乗るおじいさんに転生させられること3521回。 レベル、ステータス、その他もろもろ 最強の力を身につけてきた服部隼人いう名の転生者がいた。 彼の役目は異世界の危機を救うこと。 異世界の危機を救っては、また別の異世界へと転生を繰り返す日々を送っていた。 彼はそんな人生で何よりも 人との別れの連続が辛かった。 だから彼は誰とも仲良くならないように、目立たない回復職で、ほそぼそと異世界を救おうと決意する。 しかし、彼は自分の強さを強すぎる が故に、隠しきることができない。 そしてまた、この異世界でも、 服部隼人の強さが人々にばれていく のだった。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

修行と生活費を稼ぐ為に国営ギルドのお仕事をひたすらこなしていた女剣士は、思わぬ報酬として自分が平定した土地を頂いたので開墾してみることにした

ナポリ
ファンタジー
敵は多く、精強であるほどいい。 いい鍛錬にもなるしいい稼ぎにもなる。 ナナは今日もギルドで依頼を受ける。 依頼の内容は専ら、戦争中の敵国部隊の攻撃や、土地の奪還等の傭兵任務だ。 基本的にこの手の依頼を受けた場合は軍と合流して共に行軍するのだが、ナナは違った。 彼女は修行を主な目的としていたため自分が相手をする敵は多い方が良かったし、何より彼女はコミュ障だったのだ。 ある時いつものように彼女がギルドに行くと、王国近衛兵が彼女を探していた。 「おおナナ殿、お待ちしておりました。 国王陛下がナナ殿に此度の戦果に対する褒美を与えたいとの事。 我々にご同行いただけますかな?」 気乗りはしないが国王直々の呼び出しとなれば無下にも出来ずやむを得ず彼女は王城へと向かった。 「ナナヘ褒美としてお前が奪還した我が国の領地を与えよう。」 青天の霹靂にナナは固まってしまった。 貰ったはいいものの何をどうしたらいいのか。 とりあえず家と畑を作るところから始めよう。

処理中です...