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第六章・風の神器ゲイボルグ

残りの神器の在り処

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「マスターには呪いがかけられてるかもしれないに」


 メネットたちが用意してくれた朝食を食べる最中、ライオットのその言葉にジュードは思わずガシャンとフォークを落とした。仲間たちは「余程ショックなんだろう」と思ったが、ジュードの内心はそれとは少しばかり異なる。

 何とか平静を取り戻したのに“呪い”という一言を聞けば、昨夜のあの宮殿での出来事を嫌でも思い出してしまう。自分の特異体質の原因がわかったのは非常に大きい収穫だったが、それ以上に受けた衝撃があまりにも大きすぎた。思い出せばカッと瞬時に顔面に熱が募ってしまいそうなくらいに。


「たぶん、魔法を受け付けないのはそれが原因だけど……すごく高度な呪いだに。解呪の方法はライオットにはわからないに……」
「そ、そう……でも、原因がわかっただけでもよかったと思うよ」
「カミラさんって、あの死霊文字をどうにかできるんでしょ? それと同じように解呪もできないのかしら」
「で、でも、その解呪に使うのも魔法だから……解呪の魔法そのものを受け付けないと思う……」


 仲間たちのそんなやり取りを聞きながら、ルルーナは初めてジュードに会った時のことを思い返していた。

 ジュードの「魔法を受け付けない」という体質は、補助的なものや回復魔法さえ毒になる。ひとたびかければ高熱を出すだけでなく、それらの魔法は彼の身に何の恩恵も与えず、弾かれてしまうのだ。最初に回復魔法をかけた時がそうだったと、ルルーナは確かに記憶していた。カミラの解呪の魔法とて同じく弾いてしまうだろう。


「グルゼフには大きな図書館があったはずです、時間の許す範囲で調べてみるのもいいかもしれません」
「そうだな、我々の任務はあくまでも書状を届けることだが、国王陛下との謁見にどれだけ日数がかかるかは不明だ。その間に調べてみようか」


 リンファの言葉に、ルルーナはそこでようやく生まれ故郷が近付いているのだと実感が湧いてきた。彼女自身の目的はジュードたちに一度たりとも話したことはないが、王都に――グルゼフに戻ればようやく終わる。

 そしてわかる。母がどうしてジュードを求めていたのか、その理由が。
 自分に生き別れの弟がいるなんて話は聞いたことがないし、可能性があるとすれば、やはり彼が持つ力のことだろう。しかし、それをどうするのか賢い彼女にも見当がつかない。

 だが、その謎がやっと解けるのだと思うと肩の荷が下りるようだった。


 * * *


 トリスタンやメネットたちに見送られ、温泉旅館を後にしたジュードたちは、再び馬車で遥か北を目指す旅路へと戻った。地の国の王都グルゼフはまだ遥か遠く、あまりのんびりもしていられないのだが、移動中にできることなどそう多くない。

 馬車の手綱は、これまで通りシルヴァが握っている。ジュードは馬車の小窓から外の景色を見遣りながら、手元に広げた地図を時折見下ろした。ここから北に向かうとパルウムという名の村があるらしい。旅館から村までそれほど距離はなさそうだ、今日はその村で必要な道具類などの調達を済ませて先に向かう方がいいだろう。

 そこまで考えて、ジュードは御者台に繋がる扉を開いた。


「シルヴァさん。そういえば、投獄されたヒーリッヒさんって、どうなったんですか?」
「あの男は両手を拘束したまま今も王都の地下牢にいるはずだ、また例の文字を刻まれたら困るとメンフィス様が判断されてな」


 ヒーリッヒは、あの騒動の後、騎士団に捕まり王都の地下牢に投獄されることとなった。幸いにも親方をはじめ、他の鍛冶屋たちにも大事はなく、ヒーリッヒのしでかしたことには一切関わっていなかったため、手柄を焦った彼の独断ということで話がついている。しかし、シルヴァはそこで「だが」と続けた。


「あの文字をどこで知ったのか、一切口を割らないのだ」


 ヒーリッヒが刻んだあの死霊文字は、多くの学者たちが何百年かけても見つけることができなかったものだ。それを学者でも何でもないヒーリッヒが知っていたというのはおかしい。シルヴァのその返答にライオットはちびの頭の上に伏せたまま小さく唸った。


「死霊文字は魔族が使う言語だに。ヒーリッヒはたぶん、どこかで魔族と接触したんだによ。その情報を与えた魔族をどうにかしないと……またどこかであんなことが起きるかもしれないに」


 ライオットの話を聞きながら、ウィルは手元に戻ってきた本や今まで纏めたノートをパラパラとまくる。あれだけ探しても見つからなかったこれらの本は、ヒーリッヒの自宅から発見された。つまり、彼が持ち出していたということに他ならない。

 何ともやりきれない想いを抱えながら、思考を切り替えていく。この場にいない者のことをあれこれ想像してもどうにもならない。ウィルは意識を切り替えてしまうと、改めてライオットに目を向けた。


「それで、この国にも神殿はあるんだろ? 使い手がいるかどうかはともかく、地の神器も取りに行っといた方がいいのかな」
「そっか、これからあちこちの国を巡るんだもの。一応手に入れておいて損はないわよね、もしかしたら途中で使い手が見つかるかもしれないし……」
「神器は……あといくつあるんだったっけ?」


 仲間たちのそのやり取りを聞いて、ライオットはしょぼんと軽く顔を俯かせる。相変わらずのふざけた顔だが、なんとなく元気がないことだけはわかった。


「……神器は、ひとつはマナが持ってるから残りは五つだに。けど、今の状況だと全部は手に入らないに」
「えっ、そうなの?」
「地の大精霊タイタニアは事情があって眠りについてるし、水の大精霊にも……今は会えないに。だから、残りはシヴァとイスキアが持つ氷と風の神器と、雷の大精霊トールが持つ雷の神器だけだに」
「三つか……その雷の大精霊ってどこにいるんだ?」


 イスキアやシヴァとはこれまでに遭遇もしたが、トールという名には聞き覚えがない。雷の大精霊と言われても、この世界には火、水、風、地、そして光の国しかなく、雷の国というものは存在しないのだ。ジュードの言葉にライオットは小さく頷いた。


「トールはイスキアの相棒だに、イスキアが国を離れてる時は風の神殿を守ってるはずだによ。ミストラルに書状を届けに行った時についでに寄ってみるに」
「わかった、……シヴァさんとイスキアさんにも途中で会えたらいいんだけどな」


 シヴァとイスキアの二人には、何だかんだと陰で支えられてきた。次に会えたら今度こそ礼をと思いながら、ジュードは再び馬車の小窓に目を向ける。村はまだ見えてこなかった。
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